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日本沈没

 お客様からのコール件数は季節毎に波があり、1月中旬から3月までは比較的穏やかな時期だという。

 異世界の多くは前近代であり、冬は休みのシーズンなのだろう。


 神の気まぐれな転生は年中行われているのだが・・・


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私、異世界に転生して10年になる、野火伸夫と申します。」

「少々お待ち下さい・・・ええと、前世のお名前をお教え下さい。」

「田中吉男です。」

「タナカ様ですね。A-BC4011-2Dですね。では、ご用件をどうぞ。」

「はい実は、僕のせいで世界が滅びそうなのです。」


 これは尋常ではない。

 先輩からはたまにそういう相談もあると聞かされていたが、キャリアの浅い自分にはさすがに荷が重い。


「それで、どのようなことをされたのですか?」

「はい。私はあの青いメカの所有者兼操縦士として転生し、彼と共に一族の繁栄と世界の平和のために活動してきました。」

「ああ、いつも押し入れに格納しているメカですか。」


「はい。それである日、メカの燃料補給用のどら焼きを『倍々君』という未来器具で増やし始めたのですが、これが処理しきれないほど増えてしまい、トーキョーの街がどら焼きに埋もれてしまいました。」


「そこまで放置してしまったのですね。」

「何もいい解決案が思い付かなかったのです。」

「ああ、野火さんですものね。」


「それで、縮小光源発生器を使ってどら焼きを小さくしようとしたら、トーキョーの街まで縮小してしまい、それによって起きた地殻変動で周辺まで大規模な災害に見舞われてしまいました。」

「どら焼きが増える以上の速度で処理する機械を使うべきでしたね。」

「あまりに管理しているアイテムが多くて、どうしても使い慣れている物に頼りがちになるのです。」


「取りあえずは、トーキョーの街を元に戻すことが先決ですね。」

「はい。ですが、頼みの青メカが巻き込まれて小さくなってしまい・・・」


「野火さんは良く無事でしたね。」

「私が縮小光源発生器を持っていましたので。」

「でも、青メカさんは小さくなったとしても、拡大光源発生器を使えばいいのでは無いですか?」

「縮小した時にどら焼きに押しつぶされてなければ、無事だとは思うのですが。」

「どのくらい前なのですか?」

「小さくなって三日です。」


「それはもう、タイムマシンに乗って事件発生前に行くしかないのでは?」

「タイムマシンも小さく・・・」

「では、異変に気付いた妹さんやご子孫様が助けに来てくれるのを待つしかありませんね。」

「あの小さな出口から出られるでしょうか。」

「それは分かりませんが、機転を利かせて問題発生前にタイムワープしてくるかも知れません。」

「そうですね。それを待ちたいと思います。」


「それで、タナカ様は今、どこにおられるのですか?」

「はい。トーキョーが小さくなった瞬間に大きく足を伸ばしたので、溺れずに済みました。今はヤマアリ県にいます。」


「それで、トーキョーの街はどうなったのでしょうか。」

「小さくなった時の反動で大波が起きましたので、多分、全て流されてしまったのではないかと・・・」

「それでは、メカを含めて状況は絶望的ですね。」

「どうして・・・どうしてこんなことに・・・」


「とにかく、未来器具を持っている方々との合流が最優先です。役に立つ道具を何一つ持っていないタナカ様にできることなどございませんので、とにかくご自分の安全を確保してお待ち願えますか。」

「僕は仲間の危機に何もできないのですか?」

 だって、そこは映画版じゃないだろうし・・・


「とにかく、世界の復元には復元光線発生器、打ちでの小槌、時間と空間を変換できる系統の器具を使ってもらうほかありません。」

「早く気付いて欲しいなあ。」


「1千万人が一度に消えたら、未来の混乱はかなり大きいですからすぐに気付きますし、発生時の特定も速やかに行われるでしょう。どんな処罰を受けるかは分かりませんが。」

「牢屋に入れられるのでしょうか。」


「恐らく、タナカ様の世界に今回の事を処罰できる法律は存在しないでしょう。そちらにはタイムパトロールもいるようですが、時間移動以外で過去の者を処罰できる法律は無いと思います。しかし、民事による賠償責任までは分かりませんね。」

「どうしよう・・・」


「恐らく、世界の復元は未来世界の威信を賭けて行うでしょう。しかし、タナカ様はもっと自重する必要があります。」

「はい。」


「あなたが保有する道具には安全装置も使用者制限もありません。技術は未来的でも、倫理や安全性の確保といった面では非常に遅れた危うい機械です。善良かつ思慮深い人間の使用を前提にしているのですから、これに懲りて、できれば使用しないことをお薦めします。」

「でも、これがないと色々困るんですよ。シズエちゃんとも結婚できないし。」

「人類の未来とどちらが重要ですか?」

「はい・・・」


「残念ながら、青メカにも主人を止める力が無いように見受けられます。あなたの軽はずみな行いで世界80億の人が不幸になるかも知れない。その自覚をもって大人しく生きて下さい。」

「はい・・・」


「ところで、つかぬことをお聞きしますが、タナカ様はどうして彼に転生することを選ばれたのですか。」

「それはもちろんお風呂」

「ああいいです。もう分かりましたからその先は結構です。では、今からシャイアンさんとその妹さんとも仲良くして下さいね。」

「それは嫌です。」

「い・い・で・す・ね!」

「はい・・・」


 こうして、チートを悪用した一人の少年が大きな教訓を得て更生し、出来立君が主人公となる世界が始まるのだろう。


 こうしたより良い世界の発展のために、今日もカスタマセンターは活躍を続けるのである。


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