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誰も気付いてくれません

 しかし、さっきの女性とは長い話をしたなあ。

 不遇な時間を過ごし、ようやく幸せになるきっかけを見出し・・・


 いや、彼女にとっては迷惑なことかも知れないけど、長らく日陰にいた彼女を見つけてくれる人がいたんだから、それは良かったというべきなんじゃないかな?


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「もしもし、私はこの世界に転生して10年目のカロライナと言います。」

「カロライナ様ですね。ご用件をお伺いします。」


「私はこの世界に聖女としてやって来たのですが、聖女になれず、世界も救えずに困っています。」

「カロライナ様、前世でのお名前を教えていただいてもよろしいでしょうか。」

「村野京子です。」


「少々お待ち下さい。B-AW5389-3D、勇者よ、魔王から世界を救え!の聖女役で間違いないですね。それで、聖女になれないとはどういうことなんです?」


「私は5才の女の子として転生し、山奥の村で暮らしていたのですが、8年前に村が魔王軍に占領され、今に至っているのです。」


「すでに物語はスタートしていますね。あなたも初期の段階で勇者と出会い、魔王討伐の主戦力として活躍することになっています。」

「でも、現実はこのとおりです。」


「何か手違いがあったのでしょうか。」

「私の村は魔王に占領され、村人はみんな奴隷のように働かされています。」

「村を出ることはできないのですね。」

「はい。見張りがいますし、子供が険しい山を越えて逃げ出すのは不可能です。空を飛べる魔族もいますし。」


「あなたは聖女の力を覚醒させているのですか?」

「いいえ、12才で洗礼を受けた際に覚醒して聖女であることが分かり、都に行くはずだったと聞いています。」

「その前に魔王軍に侵攻されたのですね。」

「教会も破壊されました。」

「洗礼どころではありませんね。」

「はい。聖女であることが知られたら、その場で命を失います。」


 これはバグなどというレベルの失敗ではない。

 そもそも彼女を送り出す場所をミスしたのだ。

 魔王軍が簡単に侵攻できるような国境付近の村なんて避けろよ・・・


 世界地図を見ると、すでに彼女の住んでいたベルーガ王国は半分近く魔王軍に占領されている。

 戦況はかなり一方的で、勇者は大怪我で何度も戦線離脱しているようだ。

 さらに、魔族が発する瘴気によって、人間界の食料生産は打撃を受け、不調を訴える者もかなり多い状況だ。これらは全て聖女不在による影響である。


「何とかそこを抜けだし、勇者と合流する必要がありますね。」

「できるでしょうか。」

「カトウ様には聖魔法の他に、補助魔法とエンチャント、回復のスキルが備わっていますね。聖魔法以外はレベルこそ低いですが、既に取得済みです。」


「そのスキルで何かできるのでしょうか。」

「攻撃に使えるスキルではありませんので、強行突破は無理ですが、スキルを鍛え、それらを組み合わせることで、脱出できないかを考える必要がありますね。」

「鍛錬が必要なのですね。」

「それらのスキルは、基本的に使用回数によってレベルが上がり、効果が増していくタイプのものです。」


「普段の生活の中で積極的に使っていけばいいのですね。」

「ただし、村にいる魔族に気付かれないように。」

「分かりました。それで、組み合わせはどのようにすれば良いですか?」


「あなたの補助魔法は、睡眠、魅了、集中力霧散、時間遅延、瞬発力強化、認識阻害、筋力強化、視力強化、暗視、透視、光学迷彩、並列思考、体内活性、感覚鈍化、挑発、思考誘導、絶対音感、運調整、呪法耐性、無音化があります。状況に応じて並列思考+その他という複数スキル同時発動で、逃亡の成功確率は飛躍的に高まります。」


「いろいろな能力があるのですね。」

「基本的にチートの塊ですからね。ただし、これほどのチートが一人に備わるということは、その世界がそれだけの困難に見舞われるという証でもあります。」

「攻略難度が高いということですね。」

「そうです。そして、聖女がスタートに間に合っていない状況は危機的です。」

「怖いですけど。」

「このまま人類が負けた先に待ち受ける運命は、死か隷属です。」


「分かりました。頑張ってみます。ところで、ここを抜け出したらどこに行けばよいのでしょう。」

「まっすぐ南に向かうと都に行けます。そしてまずは教会で洗礼を受けることです。」


「教会の方は、私が行っても対応してくれるのでしょうか。」

「そうですね。カトウ様の身分を証明するものもありませんし、聖女というものの存在も知らない可能性があります。」


「聖女がいない世界なのですか?」

「過去にはいたこともありますが、いつも必ずいるものではないようですし、今までその痕跡すら無かった訳ですから。」

「では、私の存在は誰も認知していないし、気付かれてもいないということなのですね。」

「どうやらそのようです。勇者も魔王出現時に必ずいた訳では無いようですね。」

「そうなのですね。」


「神から何か伝えられたことはありませんか?」

「私が聖女であることだけです。」

 神っていつもこれだよ。

 まあ、人間がそれで何とかしちゃうから反省も進歩もしないんだろうけど。


「そうでしたか。では仕方ありません。早急に魔術の鍛錬と逃亡計画を立て、実行に移して下さい。」

「分かりました。ありがとうございました。」

 通話は終わり、受話器を置くのと同時にため息が出た。



「年明け早々、大変みたいですね。」

「何でこんなのばっかりなんでしょう。」

「そんなのばっかりだからカスタマーセンターがあるのよ。」

「人の不幸をまき散らすくらいなら、転生事業なんて辞めて欲しいわ。」

「そうねえ。神の救済の一つとしてやってるだけですもんね。」

「全然救済になってないし。」

「救済したと思ってるのよ。」

「とっとと自分で行けよって感じ。」

「分かるわ。」


 チート与えてはい終わり、だもんね。無責任にも程があるわよ。

 何て思いつつ、さっさと帰り支度をする。

 


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