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溺愛など望んでないのですが

 正月三箇日は意外と相談件数が多い。


 きっと年初めはいろんな契約更新があったり、年度末の下準備を始める人が多いからだろう。

 全く、仕事熱心なことだ。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私は、冷血公爵が溺愛してきて困る世界で主人公をしているマリア・デュパルと申します。」 

「マリア様ですね。ご用件をお伺いします。」


「私は5年前に転生し、2年半前にデュパル公爵家に契約結婚をするためまいりました。」

「その世界では、白い結婚と認められるために必要な期間が3年なのですね。」

「そうです。夫は大人しく契約結婚を続ける私が都合良かったようで、どうやら今後も契約の継続を望んでいるようです。」

「あなたは違う、と。」

「はい。私も今年23になり、次の嫁ぎ先を見つけるなら最後のチャンスです。この家を出るための自己資金も貯めてきました。」


「しかし、旦那様の壁が厚いのですね。」

「夫にはまだ、私の本心を伝えておりません。しかし、何か感じるところはあったようです。」

「それでは詳しく調べてみましょう。マリア様の前世のお名前を教えていただいてもよろしいでしょうか。」

「埼玉から来た、加藤真琴です。」

「分かりました。B-EA2224・・・」


「何か、気になることでもございますか。」

「はい。このストーリーは旦那様がデレるまでの期間が長い分、激しい揺り戻しが起きるシナリオとなっています。そして、そのきっかけは契約解消の打診です。」


「では、半年後に何か起きるのでしょうか。」

「恐らく、あなたの契約解消の話を聞いた旦那様が豹変するパターンですね。」

「今までお飾りの妻として放置しておいて、都合が良すぎるのではないですか?」

「この手の話はもともとご都合主義の塊ですから。」

「まあ、そこは仕方ございませんわ。しかし、何故、そのような不自然な変化をするのですか?」

「夫であるギュスターヴさんは眉目秀麗でありながら極度の女性嫌いという設定です。あなたとの契約結婚も女避けの為です。」

「恐らくそうだろうとは思っていました。」


「そこで、社交界で評判の悪いあなたなら、契約結婚で縛っても罪悪感が湧かないだろうと考え、単独指名されたものですね。」

「確かに私の評判は悪かったやに聞いています。全て妹の所業をすり替えられただけですけど。」

「ええ、しかしギュスターヴさんは既に真相にたどり着いており、噂と違い、自分にすり寄ってこず、必要な時だけ公爵夫人をそつなくこなすあなたを高く評価しています。」

「余計なお世話ですわ。」

「既に、旦那様にはデレるに十分なツンが充填されているはずです。」

「いつ暴発してもおかしくない、ということですか。」


「恐らく、既に兆候はあるはずです。思い返して下さい。ここに来た当初と今の違いを。」

「そういえば、ここ数ヶ月、部屋を出た瞬間に執事長と鉢合わせする回数が増えたように思います。」

「既にボートの周りをサメがグルグル回っているではありませんか。」

「そういえば、いつまで経っても跡継ぎの養子が屋敷に来ません。」

「夜は鍵を厳重に掛けて下さい。」

「執事長に食堂でディナーを取るよう言われたこともあります。」

「いつもはどこで?」

「ここに来て以来、ずっと自室です。」

「普段はギュスターヴさんと顔を合わせることはないのですか?」

「共に外出せざるを得ない時だけです。公式行事とかパーティーとか。」


「本当に彼を避けているのですね。」

「それが契約条件ですし、私も彼のことはどうでもいい寄りの嫌いですので。」

「彼にとっては望み薄な状態ですね。」

「そりゃ、いくら評判が悪いと言っても、直接の恨みがない女性を契約で縛って都合良く利用するような男ですからね。見た目は良くても中身は最低な男ですよ、彼は。」


「何故、あなたはそれに応じたのですか?」

「私は実家で後妻と異母妹、いえ、父もですが虐げられてきました。その生活から抜け出すために、契約結婚を受け入れたのです。」

「よくある話ですね。」

「挙式も無く契約書にサインして、後はこの部屋で暮らしてもうすぐ3年です。」


「外出などはしないのですか?」

「公爵家の名を汚さない程度の社交や外出は認められていますが、友人も欲しい物もありませんし、部屋で刺繍や編み物をし、それを売ることで少しづつ貯金をしてきました。」

「慎ましいですね。しかし、それでは大したお金にはならないでしょう。」

「この屋敷を出たら、どこか違う街で、こういった技術を活かして生きていきたいと思っています。」

「まあ、前世では一般人だった訳ですからね。」

「はい。料理も一通りはできるつもりです。」


「ところで、夕食を食堂で取るよう言われたのは、いつ頃のことですか?」

「しばらく前・・・」

「クリスマスですか?」

「そ、そうでした。イヴの日でした。」

「既に両足を棺桶に突っ込んでいますね。」

「まだ間に合いますよね。」

「いえ、ご愁傷様です。」


「何でですか?まだ契約条項に触れるような行為はしていません。」

「私にはギュスターヴさんの耳や鼻孔から沸々と漏れ出す蒸気が見えます。」

「控え目に言ってキモいですね。」

「女嫌いが誘いを掛ける状況ですよ。」

「キモくない訳がありませんね。」

「確かにチョロキモですが、そんなに嫌なのですか?溺愛確定ですよ。一生蜜の中に閉じ込められるような、デレデレドロドロなのですよ。」

「いい歳こいた男のデレなんて・・・」

「新婚の時だけにして欲しいですよね。」

「もう3年目です・・・」

「いいじゃないですか。ここからリスタートしても。」


「あの、ここまで2年半、屋敷を出るために頑張って来たのですが。」

「今の状況だと、逃げても追っ手がかかりますよ。」

「そういう設定なのですか?」

「トゥルーエンドでは、めでたしめでたしになる運びです。」

「全然目出度くないのですが。」

「しかし、ギュスターヴさんの顔イラストにはハートが10個並んで点滅してますよ。所謂MAXです。」

「いつの間に・・・」

「あなたの行動は、全てハートが増える方向に作用したようですね。」


「今から何とかできないものでしょうか。」

「婚約解消の告白は、暴発の引き金です。」

「浮気、浮気をすればいいのですよね。」

「知人がほとんどいないあなたにお相手がいますか?それに、既にあなたの浮気なんて鼻で笑われるレベルで信用されています。」

「何をやってもプラスにしかならないですね。」

「むしろ、嫉妬を煽るだけで逆効果かと。」


「せめて、どこかの時点まで巻き戻せるといいのですが。」

「最初のきっかけは、初めて出席した王宮のパーティーで、あなたが他の殿方の誘いを全てにべもなく断ったことですね。」

「それって2年以上前ですよね。それに、契約があるんですからその通り振る舞うのって当たり前ですよね。」


「かなり難易度の低い世界ですからね。そして、決定的だったのが、あなたのご実家の悪事が白日の下にさらされた場面です。」

「もう一年以上前です。」

「むしろ、この状態でよく一年も粘ったと思いますよ。お陰でその分余計に溜まったものもあるようですが。」


「もう、ダメなのでしょうか。」

「つかぬことをお伺いしますが、何故、この世界に?」

「神様に勧誘されたのです。今流行の世界を初めて作ったから、モニターとして参加してくれないかと。」

「ああ、慣れていないから加減を間違えたのですね。でもいいじゃないですか。イケメンの金持ちで、身分が高く浮気しないんですよ?」

「でも、女性を3年間契約で縛り付ける面倒くさいツンデレなんですよ。」

「それでも、彼の持つ実力からすれば、あなたに抵抗することは不可能です。それならば、それを楽しめばいいじゃないですか。」

「苦痛なんですけど。」

「何事も考えようですよ。」

「何とか一定の距離を保ってやり過ごしながら生きていくことにします。」


「心持ち一つで他では味わえない幸せが手に入るのですから、転生者としては大成功の部類なんですよ。」

「そうなんですね。」

「ですから、何も気兼ねなく溺愛されてください。」


 こうして電話は終わった。

 愛って難しいものなんだなあと、無縁な私は気楽なことを言ってみる。


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