要らないって言われました
さて、新しい年になったけど、ただそれだけ。
ブラック勤務の人にとってのお正月なんて、世界の別を問わず同じだろう。
そして今日も、昨日と変わらぬ一日を送っている。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「俺、異世界に転生したて、まだ2ヶ月目のジルといいます。」
「ジル様ですね。ご用件をお伺いします。」
「俺はたった今、勇者から要らないって言われてパーティーから追放されたんだけど、ちょっとストーリーに納得出来なくて苦情を言いたくなったんだ。」
「苦情、ですか。」
新年一発目から苦情というのが、私らしいなあ・・・
「そうだよ。あまりにもあっさり追放されたよ。ありえなくね?」
「まあ、人も世界も色々ですので。」
「だいたい、要らないって何?バカにしてんの?」
「そうだと思います。」
「信じらんないっすよ。」
最近の子は、打たれ弱いって言うしなあ・・・
「ところで、お客様のジョブは何ですか?」
「ポーター。」
「それは、お客様がご自分でお決めになったのですか?」
「そうだよ。」
「それなら、追放されるのは折り込み済みでは?」
「もちろん知ってたしそのつもりでいたけど、もっと熱いシーンを期待してたんだよ。」
「かなりおざなりだったと。」
「退職金出すからハイハイ退室してって感じ。」
「それは仕方のないことです。最近はざまぁできるポーター役も人気で、結構希望者が多いんです。きっとその勇者の方も、そういったシーンを何度もやらされた経験をお持ちだと思いますよ。」
「でも、私にとってはたった一度なんですから、熱を込めてもらわないと困ります。」
「そうは言いますが、ざまぁ希望者は多くても、恨まれ役を引き受けてくれる方なんてそうそういるものではありません。その勇者の方はとても頑張ってくれたと思いますよ。」
「何もあんなヤツの肩を持たなくてもいいじゃないですか。」
「では参考情報をお教えします。ポーター白書と呼ばれる産業統計によりますと、現在、パーティーメンバー解雇累計146名。これが世界記録です。また、一日解雇者数14名。これが、パーティー解散を除く解雇者数の世界記録です。」
「ポーター14人を一日で解雇するパーティーって何ですか!」
「もちろん、うち13名はリーダーと面識のない方だそうです。」
「それじゃあアイドルの握手会みたいじゃないですか。」
「ハイ次の方どうぞって感じでしょうね。」
「何でそんなことに・・・」
「恨まれたい人なんていませんからね。世界記録保持者の方だって不名誉な記録と多くの恨みを背負ってくれている訳です。そういった方を一方的に恨み、その不幸を喜ぶ行為は決して褒められたものではないと思っていただけると、少しだけ彼らが救われます。」
「いや、そんなストーリーじゃないんだけどなあ。」
「とにかく、あなたの勇者様は責任を果たしてくれた訳です。熱を入れて生きるのは、お客様の方です。」
「何か、話がすり替わってません?」
「話をすり替えたのではなく、終わったことを気にせず、ストーリーの本質に戻れということです。お客様の人生は、決して勇者様の熱のこもった演技のためでも、それがクライマックスだった訳でもないはずです。」
「これからのリベンジが大事なのですよね。」
「いいえ、お客様の成功です。」
「ああ、そうですね。」
「他人の不幸を願う人生なんて、ファンの共感を呼ぶことはできませんよ。」
「でも、これは私の物語ですよね。私の満足度が優先されるんですよね。」
「では質問を変えます。あなたには、神から与えられたチートがありますよね。」
「はい。空間収納と異世界ショッピングカタログ、転移魔法と超剛力です。」
「それは、勇者パーティーにいたときに使ってましたか?」
「いえ、ざまぁするために隠していました。」
「そうでしょうね。それだけの異能があれば、どこだってあなたを手離しませんから。」
「でも、パーティーを抜けられました。」
「勇者を騙して・・・」
「そういう言い方はやめてください。」
「これはポーターに限った話ではありませんが、最近、さまぁ目的のチート隠しというのが現地人の間で話題になっています。転生者にとってはざまぁが達成できて気持ちいいのでしょうが、現地人の転生者に対する不信感はかつてない高まりを見せています。」
「転生者が信用を無くしていると。」
「皆さん、日々命のやり取りをしているわけですからね。そこで手を抜くというのは他のメンバーに対する裏切りなんです。それで追い出したら逆恨みでざまぁでは堪った物ではありません。」
「でも、私のストーリーはざまぁ前提ですよ。」
「だとしても、ざまぁのために仕事の中でベストを尽くさなかったことに変わりありません。」
「それはそうですけど・・・」
「たとえ、今の世界があなたのためのストーリーであったとしても、あなたが急に転移や超人的な怪力を発揮し始めたら、騙されたと思う人やあなたを嫉む人は出てきます。例えざまぁストーリーであっても全能感を捨てて謙虚に振る舞う。そういった前世で培った気持ちを忘れてはなりませんよ。」
「・・・・」
「ざまぁを成功させた人の多くは、結果としてそうなっただけです。」
「はい。」
「少なくとも、恨みを買ってくれた勇者に応える活躍を期待しております。」
「分かりました。」
こうして、最後はポーターをざまぁして終わった。
「随分熱が入ってたわね。」
「明けましておめでとうございます。先輩。」
「こちらこそ、年賀状ありがとう。」
「仕事中にサボって書きました。」
「でも、転生者と原住民の対立は深刻よねえ。」
「ただでさえチート持ちってことで嫉まれやすい立場なのに、そこに信用問題が加わっていますから。」
「以前はそれを覆すだけの人間性を持った方が多かったのですが。」
「ざまぁや悪役令嬢モノの弊害でしょうか。」
「そういう人間の対立にスポットを当てたストーリーの希望者が増えたのも要因ね。」
「ストイックに強さを極めるか、日常系に徹してくれればこうはなってないですよね。」
「そうね。」
今年もこういうの、多いんだろうなあ。
何とかして欲しいけど、神なんぞにお願いしても何の足しにもならないからなあ・・・




