初めての忘年会
さて、天界も忘年会シーズンである。
もちろん、本来はそんなこと必要ないくらい満たされた世界なので、忘年会で騒ぐのはもっぱら天使たちである。
今日は夜明け前から遅番勤務の従業員が集まり、24時間営業の居酒屋で騒いでいる。
残念ながら、ウチは三交代制の職場なので、全従業員が一堂に会したイベントができない。
このため、いつものメンバーのみの宴会となる。
すでにテーブルには沢山の料理とジョッキが並ぶ。
こんな華やかな食卓、ついこないだまで学生だった天使には初めてのことだ。
「じゃあ、カスハラ被害者の会遅番グループのみんなお疲れ~、かんぱ~い。」
「かんぱ~い!」
3班サブリーダーの発声で、何だかグダグダの忘年会は始まる。
「できれば元クラスメイトと飲みたかったです。」
「そうね。ナターシャさんは同期が特に少なかったものね。」
「去年は退職者が少なかったのですよね。」
「今年は5年刑期が終わって転職する子が14人、2班のエミール先輩が地上勤務で退職だから、少なくとも15人は入ってくるわね。」
「やっと後輩ができます。」
「それだけいれば、最低一人は1班の遅番に配置されるから、ナターシャさんの負担も減るわね。」
「吟遊詩人担当にしちゃいます。」
「いきなり止めてあげなさい。可哀相よ。」
どっちの誰が?
「さあさあナターシャちゃん、もう飲めるのよね。」
「天使19年生ですけど。」
「あら、まだノンアル組なのね。」
「私は見た目幼児なので、お酒は生涯控えるつもりでいます。」
「別に20年生になれば飲んでもいいのよ。」
「いえ、各方面から非難を浴びる絵面になりますので・・・」
そうなのだ。
私はおばあちゃんになってもこの見た目なのだ。
「それはそうと、班長がいない飲み会って最高よね。」
「それどころか、全員女子なんだから。」
「でも何でうちのシフトに男いないんだろう。」
「まあ、ここは元々男がほとんどいない職場だから。」
「一人でもいると気を使っちゃうから、いっその事、いない方がいいのよねえ。」
最後のねえはみんなでハモる。
「ということは、昼番は班長もいて雰囲気悪いんですか?」
「生活するには通常シフトが一番いいんだろうけど、班長が目を光らせてるといろいろ五月蠅いらしいよ。」
「だから誰もシフト変更願を出さないんですね。」
「早番に出す子はたまにいるわよ。」
「でも、エリザベス先輩がいるから・・・」
「出たわね。勤続百年日の出の魔女。」
「そんなに凄いんですか?」
「新人なんてあのキツい視線だけで石になるわね。」
「天使が石化しちゃうんだから相当よ。」
「お局コワい~!」
「かなり妙齢の方なのですね。」
「見た目は若いのよ。だからあんなにイジける必要なんて無いのよ。」
「単なる承認欲求の暴走よ。」
「後輩のエミール先輩が先にご栄転だもんね。」
「そうそう、そうでなくても次期2班の班長とかエースとか言われてたんだから。」
「では、最近ずっとお局状態だったんですね。」
「誰か正常化スキル持ってない?」
「それどころか、あと千年したらヒステリアの後継者になるわよ。」
「うわぁ、ツインヒス・・・」
「まさにエリザヒスね」
「それ言った子、徹底的に叩かれたそうよ。もう何年も前の伝説だけど。」
「神も天使もこけが生える頃には腐るのよ。」
「魔女って呼ばれる時点で、お察しよね。」
「神もロクなのいないけどね、」
「直接関わることがほとんどないから、まだマシね。」
「でも、先月おくされ様が昼間に来たって言ってたよ。」
「ああ、みんなでオフィスの一斉清掃になったらしいわね。」
「清浄化スキル持ちがいたから助かったって。」
「おくされ様の清浄化はできないの?」
「天使ごときじゃ無理よ。匂い除去が限界ね。」
「何しに来たのかしら。」
「水の綺麗な世界を紹介してくれって言ってたらしいわね。」
「その世界、滅ぶじゃない・・・」
「地球が何とかなってるんだから、大丈夫じゃない?知らんけど。」
「あそこホントに頑丈よね。」
「下手なシステムを組んで無いからよ。」
「存在そのものがバグって噂もあるけど。」
「あそこまで行ってしまうと、誰も手が出せないある意味聖域よね。」
「でも、そこで育ったとびきり生命力の強いのが転生するんだから、異世界にとっては迷惑よね。」
「でも、それやってるの神だから。」
「やっぱりク○よね~!」
またハモった。
こうして天使の中では若者の騒ぎは日が高くなっても続いた。




