オペレーター同士の愚痴
さて、慣れない新生活に身も心も落ち着かず、常に緊張していたら、いつの間にか5月になっていた。
最近は相談件数も少なくなっていて、慣れというか落ち着き始めている自分に気付く。
そして、同じフロアで働く先輩方も同じように落ち着いて来ているようだ。
「今日はあまり電話が鳴らないから楽ね。」
「そうね。しばらくは残業しなくてもいいかも知れないわね。」
とても天使たちの会話とは思えない内容だけど・・・
「それでナターシャちゃんはもう慣れたの?」
「はい。お陰様で何とかやれています。」
「良かったわ。この職場はいろいろアレだから、新人が5月病になることも結構多いのよ。」
「やはりそうなのですね。」
「特に4月は新生活を迎える転生者が多くて、結構コールが鳴るのよ。」
「転生にも時期的なものがあるのですね。」
「神様がもっと計画的に仕事してくれればいいだけの話なのにね。」
「神様が気まぐれなせいなのですか?」
「そうよ。大きな天変地異や戦争が無い限り、季節毎の死者数なんてそれほど変わらないものよ。」
「いかに神様がいい加減な仕事をしてるかって事よ。」
「それなら転生事業なんて辞めればいいのに。」
「それが、神様って気まぐれな上にめいめいバラバラに動くから、誰かが止めても誰かが突然張り切ってやっちゃうの繰り返しよ。」
そう、死者の魂はいわゆる三途の川を渡って地獄行きの選別作業の後、天界で浄化作業と呼ばれる再処理を行う。
通常はここで生前の記憶を全て消去して再使用することになる。
特に優秀だった者については、生前の記憶を残すかどうかの希望を聞いた後に昇天させるのだが、ここで神のイタズラか、転生させる場合があるのだ。
その理由は様々だが、多くは神のミスの隠蔽か気まぐれである。
「何でもできるからって、やりたい放題はいけないよね。」
「そうそう、考え無しの神が多いからホント困るわ。」
「特に2世や3世にはロクなのがいないわ。」
「親が神だっただけのボンボンたちだからね。」
「それに、あの竈の神って何?そんなの要るの?」
「そうね。火の神は必要だけど、竈に神が居る必要は無いわね。」
「それに先進国なら今時竈なんて無いわよ。」
「ピザ焼くときくらいのものね。」
「なのに未だにデカい面下げて歩いてるわよ。」
「仕事なんてほとんど無いクセにね。」
「ああいう暇な上司に限って余計な仕事増やしてくれるのよね。」
「余計なものはどこまで行っても余計なのにね。」
「そうそう、ああいうのに限って頻繁に転移させちゃうからね。」
「あれやると元の世界だって大混乱だし、アフターケア事案も多くて困るのよ。」
「その点、IQ低めの神が当番の後は要注意よ。」
もう言いたい放題である。
「それとそろそろ疫病神様がシフトに入る頃だから注意してね。」
「え~っ!もうそんな時期なの?」
魂の選別は神々の当番制だから当然、疫病神がその任に当たることもある・・・
基本的には気まぐれな神が気に入った魂を転生させるのだが、疫病神が気に入るタイプの魂を転生させた結果はお察しのとおりである。
「去年の彼は結局引きこもって自堕落な生活を送ったあげく、流行病の原因になってすぐに再処理されちゃったわねえ。」
「あれで更に再処理工場がピンチになっちゃったし、他の迷惑も考えて欲しいわね。」
「転生希望者ってそんなに多いものなのですか?」
「最近の日本人は多いわね。」
「そうそう。キリスト教やイスラム教の信者は天国に行きたがるけど、日本人は結構、転生希望率高めね。」
「そういうのが流行ってるから仕方無いわね。」
「天国の方が遥かに楽なのに、分かってないのよねえ。」
「それで上手く行かないからって、文句を言うのも日本人。」
「ホント、根性無いのに無駄にチャレンジ精神旺盛なのよね。」
「天使的には滅んで欲しい国No1ね。」
「少なくともラノベ、あれは何とかして欲しいわ。」
「アニメもよ。」
「最近は他の国の人もあれに影響されちゃってさあ。」
「そういうのに限って軟弱なのよ。」
「成功者なんてどの世界でも一握りだっていうのにね。」
「変なチート与える神が多いから、それがまた勘違いを生むのよ。」
「結局、悪いのは神なのよね。」
「全知全能を分かってないヤツが多いのよ。」
「それって全知全能では・・・・」
「特に要注意の神様っているのでしょうか。」
「さっき言った神は当然だけど、美とか豊穣とか、一見善良そうな神の独りよがりにも注意が必要よ。あの子達は人の善性を過剰に信じてるから。」
「そうそう。凡人にまで平気でチートを与えちゃう率が高くて困るわ。」
「分不相応な能力を後付けすると、だいたいは悲劇しか起こらないわね。」
「その上、自覚無く繰り返すからもう最悪よ。」
「でも、天使の分際で何か出来るわけでは無いのよね・・・」
「後始末はほぼ全てアタシたちに押しつけるくせに・・・」
「まあ、ソルジャーみたいに命まで取られないだけマシだと思わないと。」
つくづく、生きるって大変なんだなあって思う。