スライムが強すぎて困ってます
さて、続けて電話が鳴る。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私、誰でも遊べる安心安全放置系ファンタジーの世界に転生した、柴野美希と申します。」
「シバノ様ですね。少々お待ち下さい。」
宇宙戦艦の未来から現実に引き戻され、更に過去へトリップだ。
「B-SR0027-2D、かなり優しい世界ですね。それではご用件をお伺いします。」
「私は一応、勇者として召喚されたのですが、冒険の仕方が分からず困っています。」
「なるほど、確かにスペア勇者の称号をお持ちですね。今はどのような状況ですか。」
「はい。始まりの村でお母さんと一緒に暮らしている12才です。」
「もうそろそろ冒険に出るお年頃ですね。」
「でも、村の外は怖くて・・・」
「仲間になってくれそうな方はいますか。」
「幼馴染みのキャシーとロンとは仲が良いのですが、二人ともどう見ても戦闘向きではありません。スキルも無いですし。」
「それでは次の街で仲間捜しといった感じでしょうか。」
「知らない人とはちょっと・・・」
「まあ、そういうことであれば、無理に旅をしなくてもいいと思いますよ。メインの勇者が既に存在していますし。」
「でも、神様に魔王討伐頑張ってねと言われました。何もしないのはさすがに気が引けます。」
「そうですか。では、少し戦いの経験を積まれた方がいいですね。最初の村であればせいぜいスライムかドラ○ーか、出てもゴブリンやホーンラビット程度でしょうから。」
「スライムは見たことあります。でも、怖くて近付くこともできませんでした。」
「大丈夫ですよ。お客様の世界はレベルがチュートリアルに設定されています。最初の村のスライムであれば、触れば倒せる程度の強度だと思います。」
「武器の使い方も知らないんです。」
「小枝でも簡単に弾け飛びますよ。仮にも勇者なら中級魔法も実装されているはずですし。」
「村には魔法を使える人がいないので、教えてくれる人がいないんです。」
世界もチュートリアルなら、そこに住む人のレベルもチュートリアルだ。
さすが放置系を謳ってるだけのことはある・・・
「まあ、のんびり成長していけばいいと思いますよ。その世界の魔王は世界征服できるほどの強さではありませんし。」
「あまり強くないのですか?」
「仮にも魔王ですから、それなりの力は持っていますが、攻撃方法のみならず、自分の弱点まで丁寧に教えてくれるような良心的な方ですね。」
「でも、悪い方なんですよね。」
「魔族による人間の支配を目指していますから、人間から見れば悪そのものですね。」
「でも、その力は無いのですよね。」
「やる気と親切心はあるようです。」
「その、メイン勇者の方は今、どうされていますか?」
「彼は隣の国に住む15才で、今は怪我で療養中ですね。」
「強いモンスターと戦って怪我をされたのですか?」
「始まりの村でスライムと戦い、重傷を負ったそうです。」
「やはり、スライムが強すぎるのでは・・・」
「あまり戦闘向きで無いのかも知れませんね。」
さすがチュートリアル。
勇者まで超初心者だ。
「勇者同士、協力するというのはアリでしょうか。」
「そうですね。共にパーティーを組むのもいいかも知れませんね。ただし、お客様の現在地からは500kmほど離れています。」
「12才で何とかなる距離では無いです。」
「そうですね。その間にはモンスターとの戦闘もあるでしょうから。」
「どうしてもスライムと戦ってレベルを上げないといけないのですね。」
「幼馴染みの方と協力すれば、スライム相手なら安全にレベルアップが可能なはずです。」
「怖いですけど、頑張ります。」
「それと、魔法を教えてくれる人を探した方がいいですね。そのためにも、早く村を出て、ある程度大きな街に進出するべきです。」
「みんなどのくらいのレベルなんでしょう。」
「成人男性の平均レベルは15に設定されており、魔王討伐推奨レベルは四人パーティーを前提としてレベル25、人類最強はお客様と同じ転生者の方でレベル74がいますね。」
「その方が倒しても構わないのですよね。」
「はい。チュートリアルは誰にでも門戸が開かれていますので。」
「分かりました。キャシーたちと相談して、無理そうなら取りあえず諦めます。」
まあ、そういう生き方もアリだろう。
「そうですね。魔王を放置していても大丈夫そうですし、のんびり人生を楽しんで下さい。」
「分かりました。ありがとうございました。」
いいなあ、優しい世界。
天界も、神さえいなければとても穏やかで、優しくて、温かくて・・・
何か、泣けてくる。




