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チートされてます

 さて、昨日、いえ、今日は朝まで働いていた。なのに、通常出勤している。


 先輩の多くは代休や有給で休んでいるが、新入社員はそれもできない。

 やっぱりここはサイテーな職場だなと思っていると、コールが鳴る。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私はコードネーム310-92561-116-4018457607こと、田所凌平という者です。」

「タドコロ様ですね。少々お待ち下さい。」

 私もコードの方は初めてだ。

 調べてみると23世紀初頭を進んでいる世界だ。


「お客様の世界はC-CJ1755ですね。未来に行った方ですか?」

「はい。21世紀の日本から未来に飛びました。」

 これは夢こそあるものの、かなりのチャレンジャーだ。

 そういや、担当の3班は今日手薄だっけ・・・


「それでは、ご用件をお伺いします。」

「はい。私はSF、特に宇宙戦艦のファンで、その時代に憧れて無謀と知りつつも未来に旅立ったのですが、あまりのギャップに付いて行けず、大変困っています。」


 そりゃそうだろう。中世の人がいきなり21世紀に放り込まれたようなものだ。

 3班の人なら慣れてるだろうけど、私なんかで上手く答えられるか。


「それはさぞかし大変だろうと思いますが、特にお困りの点など、教えて下さい。」

「はい。まず、言葉が分かりません。」

「その世界は共通語のほか、日本語の話者も残っているはずですが。」

「しかし、日常会話で日本語を使う人は少なく、しかも私が使う日本語とはかなり違うようで、会話すらままなりません。」

 まあ、同じ日本語でも、江戸時代の人並みに違うだろうからなあ・・・


「その時代であれば、音声認識型の翻訳機もかなり高性能だと思いますが。」

「高くて買えませんし、さすがに古語には対応していないみたいです。」


「神に自動翻訳を貰わなかったのですか?」

「まさかこんなことになるとは思わず、抜けていました。何せ初めてだったもので。」

「まあ、普通は初めてですね。それでは語学を習得し、古い時代の知識や記憶を活かした仕事に就けば良いのではないですか?」

「それが、19世紀以前なら価値があるらしいですが、21世紀は映像資料が多く残っている上に、AIによる再現も進んでいて、需要が無いのです。」

 ああ、AI凄いもんね・・・


「タドコロ様は何かご希望の職種などございますか?」

「もちろん宇宙戦艦の乗組員になりたいのですが、まず軍に入れません。」

「世界共通語をマスターしていないと筆記試験は無理なのでしょうね。」

「体力すら劣っています。」

「ああ、人体強化技術が実用化されて久しい世界ですものね。」

「成長期以前に施術しないと効果がほとんど無いらしいです。」


「では肉体労働も厳しいですね。」

「まあ、肉体労働自体、ほとんどありませんが・・・」

 何のために身体強化してるんだろう・・・

 しかしこれは困った。

 どこかに就職しようにも今の彼では厳しい。いい知恵なんてとても浮かばない。

 今日はエラリー先輩もお休みだから、知恵を貸してくれそうな人もいない。


「ところで、宇宙戦艦はあったのですか。」

「ありますが、私の望んだあの形ではなかったです。」

「そうですね。あれは実際問題、非常に非合理的な形状ですものね。」

「はい。水上ならともかく・・・」


「しかし、その世界には宇宙人がたくさんいますので、軍人の募集は多いのではないですか?」

「そうであればいいのですが、現在とても平和だそうで、白色彗星が来ないんです。それに、人間は士官以上しかおらず、一般兵は全てロボットです。」

「しかし、何とかしてどこかに就職しなくてはいけませんね。一次産業などは残っていますか?」

「地球では全てオートです。辺境の惑星に行けば人力の余地はあると思いますが、そこまでの旅費が捻出できません。」


「開拓団に加わることはできないのでしょうか?」

「付近の星の住人で十分足りるのだそうです。」

「そうですか、なかなか突破口が見えませんね。」

「私の知識もこの時代の人からすれば小学校低学年レベルで、しかも間違いだらけなんだそうです。これでも某有名国立大を出てるのですが・・・」


「それでは、タドコロ様の生きていた時代をテーマにしたテーマパークなどはありませんか?」

「確か、火星にはあると聞いた事がありますね。」

「そこです。もうそこしかありません。誰よりリアルな21世紀人ですから、採用間違い無しです。」

 ○光江戸村に本物の忍者がくれば、即採用だろう。


「分かりました。贅沢を言っている場合じゃありませんし、火星に行こうと思います。」

「そうですね。お客様の幸運をお祈りしております。それで、つかぬことを伺いますが、モビルスーツはありましたか?」

「作業用ロボットでも人型のものは無いですね。戦闘機も球体の無人機しか無いです。」

「そうですか。どう考えても球形が一番バランス良さそうですものね。」

「はい。大気圏内なら別ですが、そこは長距離精密誘導兵器の独壇場です。」

「夢が無いですね。」

「はい。科学の発展は夢を駆逐するようです。」

「でも、過去のファンタジーも科学に駆逐され続けていますから、考えようによっては同じですね。」

「しかしSF人気が今一つな理由が分かりました。全然未来予測外れてますもん。」

「そうですね。21世紀の世界を夢見たSF世代は、そうならなかった時代の中心を担っていますね。」


「過去にはまだ、浪漫が残っているのですね。」

「はい。過去の荒唐無稽さはファンタジーという言葉で覆い隠していますから。」

「では、私は未来の世界のリアルを生き抜いてみせます。」

「はい、お気を付けて。」

「ええ。ありがとうございます。」


 何か、色々考えさせられる事が多かった。

 それと、1班でよかったなあ、なんて思った。


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