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マヨとチョコと胡椒と

 さて、天界は常春だが、仕事柄下界の季節には敏感にならざるを得ない。

 そんなお客様達は今頃、秋の恵みに舌鼓を打っているところだろう。


 秋と言えば松茸、サンマ、栗、さつまいも、サケ、リンゴ、戻り鰹などなど、どれをとっても最高だ。

 なんて口の中が唾液で満たされそうになっているとコールされる。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私、シン・オオツカと言います。」

「オオツカ様ですね。本日はどのようなご用件でしょうか。」


「私は今の世界に転生して2年、前世の知識を使って金持ちになることを目指してきたのですが何故か上手く行きませんので、何かお知恵を拝借できればと思いまして。」

「承知しました。それで、オオツカ様はどのようなお仕事をされているのでしょう。」

「はい。今は食材研究に明け暮れる傍ら、冒険者として採取活動などをして細々と生計を立てております。」

 そこそこ良い感じではないか。

 何が問題なのだろう・・・


「それで、上手く行かないというのはどういったことでしょう。」

「はい。お金持ちになって早期リタイヤを目指しているのですが、一向に目処が立たないのです。」

 そりゃあ、薬草の採取じゃ一旗揚げるのは無理だ。


「それで、お金持ちになるための方策として、食材研究をしておたれるのですね。」

「はい。マヨネーズとチョコレートと胡椒。まだこの世界に存在しない食材を売れば必ず勝てると踏んでいるのですが、上手く行きません。」

 またマヨか!しかも年中無休の味覚だ・・・


「しかし、どれも原材料と加工方法を知っていれば、それほど難しいものではございませんが。」

「それが、材料の入手があまりに困難で・・・」

「マヨネーズなら卵と油脂ですか。」

「はい。希少価値が高く、入手が困難なのです。」


「では、原材料の生産から始めてみてはいかがでしょう。」

「養鶏ならできるかもですが、卵の保存方法や衛生管理は自信がありません。油はもっと絶望的です。」

「しかし、いくら酢と塩が使われているとは言っても、保存技術が未発達の状態でのマヨネーズの製造販売はリスクが高いのではないでしょうか。」

「そうですか・・・」

「それに、大量生産には工場や原料調達に多額の資金が必要ですし、卵や油脂を使った食品が庶民に普及するでしょうか。」


「言うは易し、ということでしょうか。」

「もし、マヨネーズで一山当てるとしても、そこに行き着くまでのプランとその後の価格設定や販売計画まで見据えて取り組まないと失敗してしまいます。」

「勝率100%だと思ったのですが・・・」

「パイオニアが最終勝利者になれなかった例は数多くございます。」


「では、チョコか胡椒の方がシンプルな分、成功しそうですね。」

「国内で生産されているのですか?」

「いいえ。胡椒は僅かに輸入されていますが、チョコはまだありません。」

「大航海時代以前の文明度なのですね。しかもその様子では、砂糖すら入手困難なのでは?」


「はい。じゃあ、胡椒と砂糖から始めるべきなのでしょうか。」

「どちらもただ小売りするだけでは旨みがありませんね。それらを使った料理や菓子を売ってこそ、大きな利益が出ると思われます。」

「直輸入すれば利幅は増えますね。」

「貿易に乗り出すにしても、資本力が必要です。」

「現状でそんなお金はありません。」

「それなら商人に弟子入りしつつ資金を貯めるか、別の活路を模索するしか無いのではないでしょうか。」


「しかし、転生モノでマヨとチョコと胡椒は大儲けアイテムとして定着してます。何で私だけ上手く行かないのでしょうか?」

「そう言う世界において、成功する要件は決まっています。それは、何故か材料が簡単に手に入るか、高い身分と資金力を最初から持っている場合です。」

「凄くご都合主義を感じます。」

「そうでなければ、前世で凡人だった者が歴史に名を残すような成功を収めるはずがございません。」

「確かにおっしゃるとおりですね。」


「そういった物語は、主人公の成長と成功を読者に見せることがストーリーの根幹ですから、失敗要因は事前に排除されています。」

「それを名付けてご都合主義と呼ぶのですね。」


「はい。食材だけではありません。あたかも練習相手の如く徐々に強くなっていくモンスターや、必要な時に最適なスキルや必殺技が入手できたり、お相手が都合良く自分を好きになってくれたりと、様々なギミックが巧妙にセッティングされているものなのです。」


「では、私がそういったチートを持っていないのは、そういうストーリーでは無いからなのでしょうか。」

「少々お待ち下さい。オオツカ・シン様の世界は・・・、自由にスローに穏やかに、良き隣人と過ごすハートフルファンタジー、という世界ですね。そもそもチートや超常現象が存在しません。」

「ああ、私が不遇だった訳ではないのですね。」

「そうですね。平凡でも小さな幸せを長く楽しめる世界です。」


「そう聞くといい世界ですね。」

「それに、オーパーツで巨利を得なくても、有力者とのコネクションを築いてアイデアを販売するといった方法もあるのではないですか?」

「なるほど、それなら私に資金力が伴ってなくても何とかなりそうですね。」

「きっとハートフルな世界ですので、人脈を築き易い設定になっていると考えられます。」

「なるほど、システムを上手く利用するのですね。」


「長い道のりになるかとは思いますが、のんびり頑張ってください。」

「ありがとうございます。焦らず頑張ります。」


 そうして電話は終わった。


「またマヨ?」

「はい。マヨ好きどんだけいるんだよってくらいの勢いです。」

「そうね。発酵工程が無かったり、牛肉エキス配合とか訳分かんない原材料表記が無いから手を出しやすいのね。」

「でも、それは近現代だから簡単なのであって、中世では難しいのよ。」

「だから無かった訳ですしね。」

「まあ、多少は作りやすい設定にしてる世界が多いけど。」

「チートやギフト無しではどちらにしても難しいですね。」


 でもまあ、今日は旬のものの気分ね。



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