神に復讐してもよろしいでしょうか?
秋の夜長、読書とかいろいろ楽しみはあるだろうに、こんな所に電話してくる人が増える。
何でかなあ・・・
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私、勝手に転移させられたのにクズスキル持ちということで地上世界に落とされた永井剛進と言う者です。」
「はい。ナガイ様ですね。少々お待ち下さい。」
データ入力・・・したのだが、該当データが出て来ない。
「お客様、大変申し訳ございませんが、今のお名前と前世の転移年月日か担当の神の名などお分かりでしたらお教え願います。」
「今の名前もゴウシン・ナガイです。転移したのは2025年2月14日です。」
「少々お待ち下さい。その日の担当は・・・女神、ヒステリアス様ですね。」
もう名前からして地雷確定のク○女神である。
その性格から特に役割を与えられていない、所謂窓際神であり、暇だから法に引っかからないギリギリを攻め続ける短気で暴力的な神である。
正直、こんなのに当たった転移者は転移したこと以上に不憫である。
「アイツ、俺たちを勝手に異世界に送りやがったんだよ。」
「データによると、東京都あきる野市とありますね。」
「ええ、俺は高校1年で、2組とその担任が転移させられたんだ。」
「そこでヒステリアス様にお会いしたのですね。」
「ああ、そこで一人づつガチャを回して能力をもらったんだが、俺だけ『早食い』だったって理由で廃棄されたんだ。」
「食事時間を削減することで、他の時間が増える能力ですね。」
「それは能力って言っていいのか?」
「毎日三文得をします。」
「少なくともチートとは呼べないな。」
「チート配布用のガチャなら、それだけという可能性は低いと思いますが。」
「ああ、実はそれだけじゃ無かったんだが、それより先に、この世界のことを教えて貰えるか?」
「はい。ナガイ様の世界はコード名B-ZG0014、サブタイトル『ヒステリアスが考えた理想の世界』です。」
「サイテーだな。」
「はい。文明レベルはKですから中世、世界観は西洋、魔法、魔王、魔物やモンスターが存在する多種族多文化の世界です。」
「クラスメイトがどこにいるか分かるか。」
「はい。全員ガルメリア帝国の首都、ギムレンドの城におります。残念ながら、お客様の位置情報が分かりませんので、どのくらい離れているかということは分かりませんが。」
「いや、場所が分かっただけで有り難い。」
「お役に立てて光栄です。」
「それで、神って死ぬことあるのか。」
ああ、これは復讐だ。最近はこういうのも多いと聞く。
つい100年前までこのような考えの方は稀だったらしいが、こういうのが流行っているのも昨今の傾向である。
「はい。人間の力では大変困難ですが、神だって死にます。」
「そうか。それはいいことを知った。」
「しかし、天界に来ることは容易ではありませんね。」
「どうやったら行ける?」
「一つは死んで昇天、次に天使か神になるというものです。」
「悪魔になったら行けないのか?」
「ほぼ失敗して地獄行きですね。それと、昇天した魂は永遠の命以外、何も能力を持ちませんので無理ですし、天使ごときの力ではあまりに役不足です。」
「なるほど、神にならないといけないんだな。」
「まあ、復讐など考えていては神になれませんけど。」
「なら、どうすればいい。」
「現実的にはほぼ不可能ですね。ただし、神を地上におびき寄せればワンチャンありです。ただしこの場合、人間として対峙することになりますから、困難なことに変わりありませんし、人の寿命は短いですからね。」
「確かに厳しいな。」
「ただし、その世界がヒステリアスの理想を追求した世界というところにチャンスがあります。」
「つまり、理想を脅かすことができれば、おびき寄せることも可能と言うことか。」
「そのとおりです。」
「しかし良いのか? そんなことまで教えて。」
「お客様のご要望に対応するのが当センターの役割ですので。」
「そのヒステリックな神が死んで困ることは無いのか?」
「窓際が何人居なくなっても、天界が困ることはございません。」
「窓際って言っちゃったな。」
「定められた役割を最高神様から与えられていませんから。」
「なるほど、ヤツはそういう神か。」
「暇な者が余計な騒ぎを起こすのはどこの世界でも同じです。」
「ハッハッハ。違いない。しかし、そんな神でも裁かれないのか?」
「神は自然の象徴ですので、自然に振る舞っている限り、結果によって罰せられることはありません。ただし、災禍を起こす自覚がある場合はこの限りではありません。」
「だが、復讐の神だっているだろう。」
「復讐の神が業務として行う場合や他の神に依頼された場合は適法。復讐心なき故意の災禍を起こせば処罰対象です。また、通常の神であっても教育的裁量は与えられており、神罰などは処分対象になりません。」
「ああ納得できた。意外にちゃんとしてるんだな。」
「それを運用している神は、残念ながらいい加減ですが。」
「ハハハッ、アンタ面白いな。神様じゃないのか?」
「私は見習い天使です。」
「じゃあもしかして、神に迷惑掛けられているクチか?」
「はい。全くもって図星です。」
「いいねえ。アンタみたいなのが天界に居ると思うと救われた気持ちになるし、自分の感覚がおかしいわけじゃないと自信にもなる。」
何故だろう・・・
何か分からないけど共感できる・・・
「それと、チートってのは、どこまで通用するものなんだ。」
「チートとは、その限定的な分野においては神の御技に並ぶということです。」
「ならば、俺の技でも工夫次第では神に通用するということか。」
「相性もあるでしょうが、その認識で結構です。」
「分かった。取りあえずチートを磨いてみるよ。」
「そうですか。困難な道のりではありますが、ご健闘をお祈りしております。」
「ありがとう。最後に、みんなが転移させられた理由は分かるか?」
「魔王討伐ですね。まあ、魔王すらヒステリアス様が配役したものですが。」
「戦争が目的かよ。ホントにク○だな。」
「はい。全くもって図星です。」
「いいぜ。ヤツの理想を全てぶっ壊した後に、復讐してやるぜ。」
「頑張って下さい。」
「ああ、期待して待っててくれ。」
そうして廃棄勇者の電話は切れた。
「あのク○女の世界、結構苦情多めよね。」
「今回はまだ作りたての世界ですが、彼女が作った既存の世界が6万2千もありますからね。かなり恨みは買ってますね。」
「暇だからって造り過ぎよ。」
「まあ、他の神様達もヒステリックに叫び回るよりはマシって感じですものね。」
「そうね。今のままなら、神は誰も困らず、波は全て天使がかぶるだけだもんね。」
「いい迷惑です。」
今夜もきっと次の世界を作ってるんだろうなあと憂鬱になる秋の夜長・・・




