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転生ゴブリンだけど質問する

 今日の勤務ももうすぐ終わり。

 夏の帰宅は空が白む直前だ。


 なんてことを考えていると、恐らく本日最後のコールが鳴る。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私、異世界にゴブリンとして転生した浜野大知という者です。」


「ハマノ様ですね。ご用件をお伺いします。」

「はい。私はこの世界に転生して2年。ゴブリンとして生きてきた者なのですが、将来を見据えた生活設計を立てるため、お知恵を拝借したいと考え、お電話差し上げたところです。」


「流暢な人語ですね。」

「はい。恐らく転生特典だと思いますが、人の言葉もゴブリンの言葉も自然にマスターしてました。」

「それはよかったです。たまに付け忘れるうっかり神様もいますので。」

「その場合はサービスを利用できなおのですか?」

「いえ。私たちは全ての言語に精通しておりますし、自動音声翻訳機も完備しておりますので、不慣れな方でも対応可能ですよ。」


「さすがですね。それで、いくつか質問させていただいてもよろしいでしょうか。」

「はい。承ります。」


「まず、我々ゴブリンの寿命はどのくらいあるのでしょう。」

「少々お待ち下さい・・・・ B-SS6051ですね。その世界のゴブリンは通常8年程度、ホブゴブリンで平均28年、キングまで行くと100年程度ございます。近縁種のレッドキャップやグレムリンなどは40年ほどと設定されています。ちなみに、最下層のゴブが小柄なのも、寿命の短かさに起因しています。」


「異世界毎に寿命が違うのですか?」

「個々の世界には適切なバランスがあります。世界の基準となる人間や通常の動植物の寿命はどこも同じですが、オプション扱いの種はそれぞれ毎に設定が異なりますね。」

「それは、世界の都合ですか。」

「まさにその通りです。」

「素晴らしいです。普通、そういったことは神によって選ばれたごく一部の存在しか知ることの出来ない真理ですよ。」


「転生者は選ばれているとお考えいただいても結構かと。」

「しかし、それが一般にバレては問題があるのではないでしょうか。」

「しかし、それを証明する手段がありませんので通常は信じてもらえないと思います。その他、既存の宗教がそういった知識の流布を妨げるような役目を負っていますね。」

「それは神の御技ですか?」

「いいえ、自然の成り行きとお考え下さい。」


「分かりました。それで、私たちは妖精の一種と考えて良いのですか?」

「そうです。妖精、妖怪、魔物、鬼といったものは定義が曖昧で、結局の所、人間の尺度で有益か有害かという捉えられ方で決まります。神にとっては些細なことです。」

「確かにそうですね。悪魔は違うのですね。」

「日本語だとその存在がさらに曖昧になりがちでですが、悪魔は明確に神に敵対する者であり、先ほど申した存在とは一線を画すものですね。」


「では、ゴブリンはかならずしも人と対立しなくてもいいのですね。」

「そのとおりです。お互い排他性の強い種族同士、理解し合うのは容易ではありませんが。」

「それも神の設計ですか?」

「そうお考えいただいても間違い無いでしょう。特に魔法と冒険の世界において、知名度の高いゴブリンはとても使いやすい敵方キャラですから。」

「何だか悲しくなって来ました。」

「人と共存したいのですね。」

「元は人間ですので。」


「そうですか。あなたほど知性溢れる方なら、必ず人間の協力者は現れるはずです。たとえそれが、利用し合う間柄であっても。」

「そうですね。完全に信頼し、協力できるなんて甘い考えで向き合わない方がいいですね。」

「そういった方に出会う幸運はあるかもしれませんが、無防備な期待は、時に心を深く傷つけるものですから。」

「そのように心掛けます。それと、上位クラスへのクラスアップ要件は決まっているのですか。」

「それほど厳密ではありませんが、多くのサンプルを取れば統計学上有意な結果が出る程度の目安は設定されています。」


「伸び代に差があるのですね。」

「個体による素質や年齢性別といった違いもありますが、妖精種は変異しやすい特性もあります。つまり、力仕事、戦闘、家事など、その行動によって派生していく余地が大いにあります。」

「群れによる差も出てきそうですね。」

「そのとおりです。あなたがいる村とそうでない村では驚くほどの差が付くことでしょう。」

「なるほど。やる気が出てきました。」


「それと、一般のゴブリンでも人間の5才程度の知能はあります。」

「そうですね。二足歩行ができて簡単な道具も扱います。衣服だって自分で身に付けますからね。」

「それに加えて、高い繁殖力と頑強な肉体、レベルアップによる強化など、計画的に育成すればかなり強力な集団に成長させることが可能です。」


「そう考えるとゴブリンも捨てたものではありませんね。」

「最弱と考えられていますが、強力な魔物との競争を生き残るだけのポテンシャルは秘めているのですよ。」

「私も、まずは自分のコロニーを維持発展させる策を考えていきたいと思います。」

「ええ、人間のできることは大概できるはずですからね。」

「確かにそうですね。言語能力についてはどの程度ですか?」


「B-SS6051世界のゴブリンはごく一般的なAタイプですので、複雑な発音が可能なだけの声帯を備えています。メイジクラスなら呪文だって唱えることが出来ますし、ハマノ様が新たな言葉を開発し、教え込めば、高度な言語習得は可能です。ネックはやはり、寿命の短さですね。」


「つまり、クラスチェンジの体系化と一体的に行う必要があるということですね。」

「そうすれば、オークはもちろん、オーガ相手でも互角以上に張り合えるでしょう。」

「下手な騎士団以上ですね。」

「しかし、どんなに進化してもゴブリンですから、力の見せ方使い方は人間以上に慎重さが求められますね。」

「はい。ただでさえ駆除対象ですから。」

「群れのルールなども整備しないといけませんね。」


「そのためにも、私が絶対的なリーダーとして認められる必要がありますね。」

「大変ですが、頑張って下さい。」

「ありがとうございます。いずれは皆が安心して暮らせる国を作りたいと思います。」

「そうですか。ハマノ様のご活躍をお祈りしております。」

「ありがとうございました。失礼します。」


 こうして、今日最後の電話は終わった。



「ああ、今日もあと2分で終わりね。」

「今日はヒロインと勇者にだいぶダメージを喰らわされました。」

「人の話が一切耳に入らないタイプだったみたいね。」

「はい。ゴブリン以下でした。」

「そういう人間、確かにいるわよねえ。」

「次は先輩にお譲りします。」

「いらないわよ・・・」


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