ヒロインがク○過ぎて没入感ゼロです
さて、下界は夏休み。
いや、去年までは私も長期の休暇を楽しんでたんだけど、今は仕事。
確かあの上司、この職場は福利厚生が充実してる、なんてほざいてたけど、制度があるのと実際に利用できるのとは別なのよ。
なんて愚痴ってたらコールが鳴る。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私は異世界転生王子をやっています。フランツという者です。」
「フランツ様ですね。では、ご用件をどうぞ。」
「私がいる世界は、学園ラブコメというか、ゲームのシナリオに沿って物事が動いていく世界だって神様から説明を受けました。」
「はい。今そういう世界には転生者が殺到して、大繁盛しております。」
「私はその世界で攻略対象と呼ばれ、ヒロインと婚約者の間で揺れる設定のキャラをやっているらしいです。」
「そうですか。悪役令嬢モノでは無いのですね。」
「誰も悪役ではありません。ただ、強いて言えばヒロインが悪です。」
「ああ、最近はヒロインざまぁもよくある展開ですからね。」
「ヒロインが悪者なのが今は普通なのですか?」
「少なくとも、作品の数を考えれば決して珍しくはありませんよ。」
「なら、私の世界はヒロインが悪人の設定なのかなあ。」
「そんなに悪いのですか?」
「まあ、性悪ですし、こんなのが将来王妃になったら周りがみんな苦労するだろうなとは思いますが、今のところ実害はありません。」
「では、ヒロインとして致命的な何かがある訳ではないのですね。」
「でも、地雷臭がプンプンします。ぶっちゃけヤベえって感じます。」
「そうですか。でもそれなら選択を迷わずに済みますね。」
「はい。揺れてドキドキする展開とは無縁ですが。」
「わざわざヤベエの相手に揺れる必要はありませんからね。」
「でも、何であんなのがヒロインになれるのでしょうねえ。」
「ラブコメ原作ということは、あなたとヒロインが転生者なのでしょうか。」
「はい。他にもサブキャラに何人か転生者がいますね。」
「通常は、ヒロインらしい人間性を持つ魂が送り出されるのですが、たまに諸般の事情により、一般人の魂が送り出される場合がございます。」
そう、この仕事に三日従事すると、そういうク○ヒーロー・ク○ヒロインに出くわすことになるのだ。
その多くは集団転移とか、「神のやらかし」に対するお詫びという名の隠蔽工作により発生する。
彼ら彼女らは、別に生前徳を積んだ訳では無いので、普通にレベルが低い。
恐らくこのケースもその中の一つだろう。
「諸般の事情って、漫画なんかで良くある、手違いとかでしょうか。」
「まあ、そんなこともあるかも知れませんね。」
いやある。
むしろこれはよくあることだ。
立場上ボカさないといけないのが大変もどかしいが、何とか胸のモヤモヤを堪えて回答する。
「まず、とても我が儘なんです。」
「若い女性には珍しくありませんよ。」
「私の予定などお構いなしですし、それが逆だとキレるんです。」
「よくあることですね。」
「その上、小さいことですぐ怒りますし、こちらの拘りは下らないと一蹴します。そして、彼女が三度の飯より好きなのが、他人のマウントを取ることです。」
「まあ、男女のすれ違いとしてはごく一般的な理由ですが、男性にとっては、これが毎日は辛いですね。」
「その上、頻繁にプレゼントを要求しますし、デート代も全てこちら持ちです。」
「でも、フランツ様は王子ですよね。」
「でも、何でも男が持つというのはおかしいと思います。」
「お住まいの時代の価値観では、ごく一般的では?」
「もちろんそうです。でも彼女、現代日本からの転生者ですよ?」
「それでも、ストーリー的には中近世の価値観が支配しているのではないですか?」
「それならもっと男性を立てて欲しいです。」
「まあ、それはそうですね。」
「それに私の婚約者に対する態度も酷いんです。婚約者は隣国の王女でヒロインは養女として男爵家に入った平民出身という設定なのです。」
「天と地ほどの身分差がございますね。」
「ため口ですけどね。」
「それは婚約者の方もさぞやご立腹のことでしょう。」
「でも、怒ると彼女がいじめたことになるのでしょう?」
「それは殿下次第では?」
「いえ、まるで彼女中心に世界が回っているかのような感じですよ。彼女が悪と認定すればいつの間にか悪になってしまっています。」
またこのパターンか・・・
「しかし、ラブコメということは、婚約者が必ずしも負けインでは無いのでしょう?」
「でも、婚約者はNPCですから、能力的にどうしても不利ですよね。」
「そこはあなたがガッチリ守ってあげるべきです。」
「そうするとヒロインがブチ切れます。」
「もう王宮を出禁にしてエンガチョするほかございませんね。」
「かなり負けず嫌いですから、揉めますね・・・」
「大変かとは思いますが、殿下にも選ぶ権利はあるのですから、冷静に対処なさって下さい。」
「有り難うございます。しかし、もっとマシな性格だったらなあとは思いますよ。」
「そうですね。私も個人的には、神がやらかす度にトラック運転手が一人交通刑務所送りになる現状を憂いているのですよ。」
「あれ、やっぱりそうなんですね。」
「ええ、交通事故が一番目立たたず真実をを隠蔽できますからね。」
「最早、一番目立っているような気がしますけど。」
「では、頑張って下さい。」
「はい・・・まさかこれほど没入感の無い舞台に立つとは思いませんでした。」
「お大事に。」
恋も周囲次第、といったところか。天使にはまるで関係無いけど・・・




