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魔王の方が正論言ってるんですが・・・

 何で神が魔王の存在する世界を創造するのか?

 実際は、神が魔王を作っている訳ではないし、生まれたての原初の状態ではそんなものは存在しない。


 そして正確に言うと、魔法のない世界に魔王は存在しない。

例えば地球がそうだ。別の観点で見ると、植物が光を、動物が熱を動力源にするように、魔素を設定した世界ではそれを動力源とした別の生き物ができてしまう。

 その長が魔王であり、魔素が存在する以上、何度倒しても蘇る。


 これは、私たちが天使小学校高学年で習う内容だが、今日の電話でふと思い出してしまった。



「もしもし、カスタマーサービスでしょうか。」

「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私は、とある世界で勇者をやっているアイリーン・シュトラウスよ。よろしくね。」

「アイリーン様ですね。ご用件をどうぞ。」


「私は勇者として魔王討伐に従事して、魔王嬢に攻め込み、魔王をあと一歩のとこまで追い詰めたの。」

「それは素晴らしい働きですね。しかし、魔王はまだ健在と。」

「ええ、あのまま戦っていれば確実に勝てたわ。でも、魔王と言葉を交わすうちに、倒す決心が鈍ってしまって、撤退してきたのよ。」


「それは・・・ 何とお声を掛けて良いか。」

「私、これからどうすればいいのかって思って。」


「魔王の言葉と今の状況をお教え願いますか。」

「ええ、魔王の主張は大きく三つです。人間こそ悪では無いか、我々も人だ、こちらの主張は正義の押しつけだというものです。」


「よくあるパターンだと思いますが。」

「彼らは人なのでしょうか。」

「魔人や魔族とも言いますからね。獣なら族とは言いませんね。」


「では、少なくとも亜人ではあるのですよね。では、人間と亜人は同列に扱うべきものなのでしょうか。」

「実は、人間と呼ばれる者は、あなた方的に言うと猿の亜人です。」

「ああ、知らなければよかった・・・」


「あなたは預言者を崇める、あの宗教の信徒だった方ですね。」

「はい。」

「なかなかに受け入れがたい事実かも知れませんが、よくある亜人差別は、あなたの前世であった人種差別と全く同レベルの諍いに過ぎません。」

「でも、魔王は神の祝福を受けていませんよね。」

「それを悪と捉えるなら悪ですね。しかし、旧約聖書やコーランを信じる者はどうでしょう。同じ神ですが。」

「・・・・」


「私たちは、祝福を与えた者に対しては与えた責任を全うしますが、ただそれだけの違いです。信じていない魂を自動的に地獄行きとする神はほとんどいません。」

「いるのですか?」

「お客様が前世で信じていた神以外にも色々いますから。そうそう、ケチだったり器の小さいのもいますよ。」

「主はどうなのですか?」

「・・・ノーコメントで。」


「では、魔族を積極的に排除すべき根拠は無いのですね。」

「世界は常に正義のぶつかり合いです。互いの正義が妥協できる範囲内にある場合は平和を保ち、そうで無い場合は正当性を争う。ただそれだけです。つまり、あなたが魔族のあり方を許せないとお考えであれば討伐をする。ただそれだけのことです。」


「大きなストーリーはありますよね。」

「はい。神というかライターさんといいますか、神に都合の良いストーリーが設定されている世界が圧倒的に多いです。だた、キャストさんには選択したり、価値観を変える自由が与えられています。」

「でも、神に気に入られない場合、地獄行きもあり得ますよね。」

「はい。でも、自分の人生は自分の思うがままです。」


「なるほど、難しいですね。」

「人間の方が悪というのも、互いの正義がぶつかっているからこそです。」

「でも、人間による環境破壊は悪ですよね。」

「まあ、プランクトンですら、増えすぎると赤潮を起こしますけどね。神は、その世界に住む生き物がどんな行動をして、その結果がどうなっても気にしません。」

「そうなのですか?」

「善良に生きたかどうかが大切なのです。結果が伴わないことなど日常茶飯事です。」

「分かりました。」


「今度は魔王言い負かせるでしょうか、それとも妥協点が見つかるでしょうか。」

「分かりません。しかし、彼らは多くの人を殺めました。」

「人も報復しませんでしたか?」

「しました。」

「最早、どちらが先に手を出したかは問題にならないくらい、双方の攻撃が繰り返されていますから、犠牲者数や手を出した回数で相手を責められる段階は過ぎていますね。」


「なるほど。では、魔王が言う『人間こそ悪』という考えも半分は正しいのですね。」

「あくまで半分ですね。」


「どこで妥協したら良いのでしょう。」

「互いの数に応じた生活圏の面積按分と、それに基づく境界確定が理想ですが、それが上手く行った事例はほとんどございません。」

「そうでしょうね。数は人が圧倒していますが、勇者がいなければ力はむしろ魔王側が上ですから。」

「まあ、そこは双方のトップが決めるべき所で、勇者は双方がこれ以上戦わないための抑止力に徹するほかないでしょうね。」

「なるほど。とても微妙な立場ですが、それならできそうな気がします。」


「後は、あなたが前世で信じていた価値観を変えられるかどうかです。」

「そうですね。個人的には苦しい選択ですが、今は違う世界に生きていますし、そこは理解しているつもりです。」

「ならば大丈夫ですね。困難を乗り越えれば、神はそれを必ず見てくれていますよ。」

「有り難うございます。頑張ってみます。」

 こうして通話は終わった。



「これが記憶持ちの苦悩なのですね。」

「前の世界であれば、迷うこと無く英雄になれたと思うけどね。」


 エラリー先輩はいつものようにお茶を楽しんでいる。

 私より2年先輩だけど、とても要領が良く、私と違って手早く用件を片付けるので、休憩してる時間も多い。早く先輩のようになれたらいいなと思う。


「それにしても、あの国の人は魔王とか魔術とか呼びますよね。」

「日本人ね。マジックを魔法、奇術、手品と言い換えるのは彼らだけね。」

「しかも、妖術と言う言葉もあります。」

「西洋の魔の本質を理解できて無くても、その字を的確に当てて使うところは、なかなか器用よね。」

「近代以前は魔なんて文字、ほとんど使ったこと無かったでしょうに。」

「しかも、少し目を離すと次々に新しい言葉を生み出しています。」


「人間も馬鹿にできないわね。」

「魔王退治を人間に押しつけてる神よりは、よほど愛すべき者たちよ。」

「異議無しです。」

「どうせ暇なんだから、もっと働けって思うわよね。」


 ほんこれ・・・


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