異世界を行ったり来たりするのは問題ないのでしょうか
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
自動販売機のとこでちょっとだけサボろうと腰を浮かせたところでコールされた。
「私、日本人と異世界人の両方をやっている、大谷正平といいます。」
「オオタニ様、あの方ではありませんよね。」
「ええ、名前負けとかバッタもんとか言われて大変ですよ。ちなみに、ベレーゼ王国ではゴールデン・レトリバーという名で活動しています。」
なかなか楽しそうな方だ。
「それで、どのようなご用件でしょうか。」
「私は、実家の押し入れが異世界と繋がっていたので、これを利用して行き来し、金儲けや冒険を楽しんでいるのですが、これが誰かに咎められたりはしないでしょうか?」
「オオタニ様は転移でも転生でも無い方ですね。ですので、弊社のサービス対象外ですし、基本的に管轄下に無い方に対して、神が干渉することは無いです。」
「す、すいません。では、サービスセンターに連絡してはいけなかったのですね。」
「そもそも、よくこの番号が分かりましたね。」
「はい。先日、森の中で偶然遺体を発見し、遺品を回収しようとしましたところ、転生者のしおりを見つけまして、そういう組織があることを知り、悩んだ末にご連絡させていただいたところです。」
「その世界に転生した方がいたのですね。」
「世界って地球とこの世界だけですか?」
「いいえ、途方も無い数があります。未だ誰も転生した者の無い世界すら存在しますよ。」
「では、私が行き来している世界がどこか分かりますか?」
「いいえ。あなたは弊社のデータに登録がありませんし、当然、位置情報サービス対象外ですので、あなたが日本のどこにいるかを含めて把握してませんよ。」
「福井県小浜市です。」
「・・・・」
「そ、それで、勝手に行き来するのはダメ・・・ですよね。」
「登録会員の方には基本的に異世界ゲートに入らないよう指導し、入る場合は自己責任ということにしております。事故の危険性も高く、日本国内の行方不明者の中にも相当数が含まれているはずです。」
「だから見つからないんですね。」
「日本海の向こう岸に行くのと同等以上に危険ですよ。」
「そうなのですね。」
「それぞれの世界を隔てている仕切りは、時間や空間が不安定な形で広がっており、ここを生物が通過するのですから、いかに危険なことかはお分かりですよね。」
「はい。でも、今はこれを利用して生計を立てていますから、止めることができないんです。」
「そうですか。商売というのは所謂トレーディングですか。」
「はい。日本で仕入れた物品をベレーゼで売り、金貨や銀貨をインゴットにして、京都の貴金属店で換金しています。」
「もちろん、税金は・・・」
「異世界での収入でもやっぱり納税しないといけませんかね・・・」
「貴金属店から代金が支払われていますからね。」
「でも、出所が・・・」
「莫大な収入の割に、仕入れなどの経費は少ないですよね。」
「はい。年商3億です。」
「暴利を貪っていますね。」
「法人税ですか。」
「法人として登記されていなければ、個人事業主として所得税を納める必要がございます。その場合は税務署に開業届を出す必要がありますよ。」
「お詳しいんですね。」
「詳しくは税務署の方に聞いて下さい。」
「絶対にバレてしまいます・・・」
「私からは青色申告をお願いしますとしか言えません。それにしても、よくそれだけの貴金属を販売できましたね。」
「ですので、ほとぼりが冷めるまで、冒険中心の生活をしています。」
「とは言え、スキルなどは特にないのでしょう?」
「でも、戦うとステータスが上がるので、何とかなってますよ。」
「立派に二刀流をこなしてますね。」
「まだ年俸3億しかありませんが。」
「無駄遣いしなければよろしいのでは?」
「そうですね。田舎で無理せず楽に暮らせれば、それで満足ですから。」
「オオタニ様なら大丈夫かと思いますが、何事もやり過ぎると足下を掬われることになります。ご注意下さい。」
「ええ、目立たず嫉まれないよう、そして杭がはみ出さないよう注意します。」
彼なら世界間を行き来しても、双方への影響は限定的だろう。
「では、オオタニ様の幸運をお祈りしております。」
「有り難うございます。失礼します。」
「フリーランスの方から連絡があるなんて、とても珍しいですね。」
「そうですね。とても善良そうな方でした。脱税状態ですけど。」
「まあ、不干渉を旨としている以上、こちらから告発はしませんが。」
「班長への報告も不要ですよね。」
「ええ、フリーランスのためにする仕事など、基本的にありませんからね。」
「では、私も休憩に入らせて頂きます。」
誰にも縛られないフリーって憧れるなあ、なんて思いつつ、今度こそ自動販売機に向かう。




