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スマホが使えるようになりませんか

 昨日は仕事の合間にQ&A作成を手伝わされたから、かなり激務だったわね。


 いくら天使が強靱な肉体を持っているとはいえ、生まれてからずっと神の我が儘に振り回されてるから、いろいろ疲れが溜まってるのよ。


 そうして、疲労感を引きずって席に座ると同時にコールが鳴る。

 いつもそうだが、掛かってきて欲しくない瞬間ほどよく掛かってくる。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私、異世界歴2年の工藤沙紀と申します。初めてお電話する者です。」


「クド-様ですね。ご用件を伺います。」

「私がいる世界でスマホを使いたいのですが、可能でしょうか?」

「スマートフォンですか。現物は今、お持ちでしょうか。」

「はい。前の世界で使っていた物を今でも持っています。」

 念話が使えない人間にとっては、そういう物って便利に感じるわよね。

 私は職業柄、常に誰かと繋がらざるを得ない状況なんてまっぴらだけど。


「でも、通話やメッセンジャーアプリを使う相手はそちらにおられますか?」

「いえ、ネットに繋がれば十分です。」


 実は、可否を正直に答えていいなら簡単にできる。

 事実、太郎さんの世界では使用可能だし、動力源は魔力でも電力でも簡単に手に入る。

 何せ全知全能の神の御技だ。

 異世界から電気を引っ張ってくるのも、隣家のコンセントから拝借するのも、労力としてはさして変わらない。


「スマホが使えないことによる不都合でも発生しているのでしょうか。」

「一番はこの世界に娯楽が無いことですね。それと、日本の知識を活かしたいので。」

「なるほど。結論から言えば、技術的には可能ですが、厳しい審査基準があり、神の審査を通る見込みはまずございません。」

「やはり難しいのですね。理由をおしえていただいてよろしいでしょうか。」

「これはスマホに限ったことではありませんが、オーパーツには導入認可基準が定められています。」


「いかにもな規則があるんですね。」

「用件は大きく五つ。使用目的、コスト、導入による影響、転生者の安全確保、現地人に対する安全性です。ただし、オーパーツ使用が転生条件だったり、お客様が持ち込んだ物がたまたま使えたという場合は、規定の対象外です。」

「ああ、神様がやらかしちゃった場合ですね。」

 ああ、神がやらかすものだってこと知ってるのね。ホント、近頃の日本人は困るわ。

 あと、あんなのに様なんか付けなくたっていいわよ。


「スマホの使用目的なんてたかが知れているので、ここでは問題にならないでしょうし、個人が使う分には、天界が莫大な整備コストを拠出することもありませんから、問題ありません。」

「後の三つが問題なのですね。」


「はい。スマホはネットの全ての機能が使えますから、例えば日本のご家族のグループに申請すれば文字のやり取りが可能になります。」

「素晴らしいですね。」


「でも、異世界通信ができてしまっては、双方の世界に大変な混乱を招きます。しかもクド-様は向こうの世界ではお亡くなりになっているのですよね?」

「心霊現象ですね。」

「警察が動く場合もあるでしょう。」

「クド-様の身の安全も懸念されます。身についたチート能力とは違い、機器を奪えば誰でも使うことができる物ですから。」

「なるほど、大金を持ち歩くのと同じですね。」


「現地民の安全については、主に薬や生物、兵器類に関する規制ですが、スマホは兵器転用可能な技術も使われていますので、異世界の設定によっては引っかかる可能性がありますね。」

「私個人の希望では、通りそうにないですね。」

「神の意志ですので。」


「でも、ゲームやカメラ機能くらいは使えたらいいなと思います。」

「お気持ちはよく分かりますよ。でも、その時代や世界ごとに楽しみ方はそれぞれございます。周りに退屈で亡くなった方などおられないでしょう?」

「はい。」

「クド-様も、今の世界における生きる目的とともに、楽しみ方も探されてはいかがですか。」

「そうですね。」

「スマホは、あの時代ならではの楽しみですから。」

「有り難うございます。頑張ってみます。」


 電話は終わった。ライトな案件で良かったと思う。


「スマホねえ。あんなのどこがいいのかしら。」

 念話ができる。知識も豊富に持っている。小説より奇なる現実を嫌というほど見せつけられている天使たちにとっては、これが一般的な感想である。


「退屈しのぎにはなると思いますが。」

「あくまで凌いでいるだけよ。楽しさは能動的になってこそ得られるものよ。」

「そうかも知れませんが。」

「時間を使うにはいいけど、月々の料金とリスクを考えたら、必ずしもコスパがいいとはいえないわ。」

「今は他にないのでしょうね。」

「私たちよりはあるんだから、ちゃんと探して欲しいわね。」


 言われてみれば確かにそうだ。ここと違って向こうは異世界なんだから。


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