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王子に魅力が無くて困ってます

 今日は出社後すぐに班長に呼ばれてお小言をいただいてしまったわ。


 原因は言うまでも無く昨日の電話対応の不味さね。


 班長とは勤務時間が2時間しか被らないから、報告する時間は当然無かったし、どんなに長くてもお小言が2時間を越えることは無いんだけどね。

 そして席に着くと、いつものエラリー先輩に声を掛けられる。


「ゴメンねナターシャさん。どうしても班長に報告しないわけにはいかなくて、引き継ぎの子に伝えたのよ。」

「いいえ、報告を怠ったのは私ですから。でも、対応が間違っていたとは思っておりませんわ。」

「そうね。価値観の押しつけをしていいのは神だけよ。私もあなたが間違ってるとは思ってないわよ。」

「ありがとうございます。」

 と傷を舐めてもらっていると今日最初のコールが鳴った。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私、グロリア・サージェントという者なのですが、婚約を迫られていて困っているのです。どうかお力をお貸し願えませんでしょうか。」


「あの、大変申し訳ございません。カスタマーセンターではお客様の個人的な都合により、何かするということはできないことになっておりますが。」

「申し訳ございません。では、せめて話だけでも聞いて貰えないでしょうか。」

「分かりました。では、お伺い致します。」


「はい。実は、私の住んでいる国の王子から結婚の申し込みをされたのですが、私は王子とは結婚したくないのです。王族との結婚を上手に断る方法をお教え願えればと思いますので、ご教示の程、よろしくお願いします。」

 これはまたドストレートな依頼だ。


「そうですね。まず、何故お客様は王子と結婚したくないのですか?」

「王子が男性として全く魅力的では無いからです。もちろん、偉くてお金持ちなのは事実ですし、周りのみんなからは羨ましがられているのですが、私は嫌なのです。」

 先日の王子もそうだが、何で、最近の王子はこうも魅力に欠ける人物が多いんだろう・・・


「もしかして、お客様はブルツ王国にお住まいでしょうか。」

「いいえ、レヴァレンス王国という所です。」

 あの王子ではなかったか・・・


「しかし、王子からの求婚となれば、そう簡単に断れないと思いますが。」

「そうなのです。ですので何か良いお知恵を拝借できればと考えたのです。」

「いくら知恵を働かせても、権力の前では非常に脆く危ういものです。どちらかと言えば、お客様が王子を好きになる方が安全確実と言えます。」

「でも・・・」


「その方は、お人柄に問題がお有りなのですか?」

「はい。非常に頼りなく愚鈍な反面、強がりでプライドばかり高く、浪費家です。」

 良いとこ無しだ。


「見栄えだけは良いタイプなのですか。」

「その通りです。見た目も中身も短小軽薄を絵に描いたような人です。」

「しかし浅慮しますに、ごく典型的な王族の姿ではあると思われるのですが。」

「19世紀までならそれで良かったのかも知れませんが、21世紀の人間にこれはキツいです。」

 正にご愁傷様としか言えない。


「それに、たとえ舞台が中世であったとしても、メインキャラは21世紀的イケメンであることが普通じゃないですか。まさか中身中世のポンコツが絶対的な権力を持ち、そんなのに目を付けられるなんて想定外過ぎます。」

「でも、少なくともイケメンではあるんですよね。」

「顔と家柄と財力は100点、その他はもれなく-100点です。」

「合計-300点といったところですか?」

「庶民でも15点くらいは最低でも取れるはずですわ。」


 そりゃあんまりにも低い。

 でも、現代感覚を持つ者からすれば、そういう辛口評価になるのだろう。


「王子は転生者なのですか?」

「いいえ。原住民です。」

 転生者だと王族としての振るまいを知らなすぎてアウトで、初期設定ママだと価値観の隔たりが大きすぎてアウトなんて、とてもカスタマーサービスでどうにかなるような問題では無いと思う。

 こんな状態だから、昨日のクレーマー女や今日の被害者のような人が続出するのだ。

 まあ、神が悪いのは間違い無いが・・・


「残念ながら、白馬の王子では無かったのですね。」

「いいえ、紛れもなく白馬の王子でした。でも、白馬の王子なんて、実際にお会いするとおクサくておキモいものです。金ピカの方がまだ若干マシなレベルです。」

「黒が一番無難でしょうか。」

「若いなら黒でいいですが、脂ぎった中年オヤジが黒いと・・・」

「あれも一応、神の御技で産み出されたものです。」

「そうでございますね。綺麗事だけで済むとは私も思っておりませんわ。」


「それはそうと、婚約の件ですが。」

「何か良いお知恵がございましたか。」

「王子でも手が出せないレベルの婚約者を見出すのが一番でしょう。」

「王族と同等以上ですか。」

「そうなると、他国の王族か宗教的権威しかございません。若しくは王子のご兄弟ですね。」

「ちゃんとした方は一人もいなさそうですね。」


「ところで、お客様が心を寄せるお相手はいないのでしょうか。」

「私が思いを寄せているのは、護衛騎士を務めて下さっている男爵家の四男の方です。」

「ああ、絶対王子に対抗できないですね。」

「ヒロインなんか選ばなければ良かったと後悔してます。」


「中世の世界では政略による婚約が標準ですから、相手の人柄がダメなら打つ手無しですからね。ですので、最近は比較的自由に動けるモブが人気です。」

「そうですね。モブなら護衛騎士様との恋を邪魔されずに済んだはずですものね。」

「後は、処罰を覚悟でお断りするしか無いかと。」

「私は修道院行きや身分剥奪の方がマシだと考えておりますわ。」


 そうなのだ。最近は彼女のような考えの人が増え、断罪に対する抵抗感がかなり無くなってきている。

 中世で自由に生きたければここまでせざるを得ないという判断だろうが、彼女たちの将来がより厳しいものになることだけは間違い無い。


「最も避けるべきは何か、ということを常に念頭に置くことが重要です。」

「そうね。王子から逃げ切る。これだけはブレないように心掛けます。」

「大変困難な道のりではありましょうが、頑張って下さい。」

「ありがとうございます。最善を尽くして必ず願いを叶えて見せますわ。」


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