登場人物が全員、ク○と○カしかいないのですが
先輩と長話していると、再びコールが鳴る。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「私、『スリルと意外性の連続?ときめき学園ラブストーリー』の世界に転生した、伊藤花ことマリールーナ・フランソワーズと申します。」
「今、データを確認しますので、少々お待ちください。」
今度は若い女性だ。
コールセンターに女性が多いのは理由あってのことだが、配置された私たちにとって厄介なのは男性では無く女性である。
人間界で女性の敵は女性らしいが、これは正しいとつくづく思う。
だって、手加減一切ないし、厚かましいし・・・
「お待たせしました。B-OQ3214-2Dの世界ですね。ここでヒロインのライバルを演じておられるのですね。」
「ええそうよ。でも登場人物が全員ク○とバ○しかいなくて、レベルが低すぎるの。」
「それは大変ですね。」
「そうなのよ。王子は複数の女とイチャイチャしてるだらしないクズだし、ヒロインの子も大根役者で台詞を噛み噛みなのよ。」
「設定レベルは中級となっておりますが。」
「攻略対象全員絶賛浮気中だし、テストをやれば全員下からトップ10だし、誰がこんなゴミを攻略するっていうのよ。」
「スリルと意外性を売りにしていますからねぇ・・・」
「王子と次期宰相が政治学0点よ。嫌よ、こんな国の王妃なんて・・・」
「ヒロインの頑張りに乞うご期待です。」
「あの子の台詞棒読みも最早名作レベルだわ。しかも、噛んだ後に顔を真っ赤にするのもイラッとするのよ。王子の名前くらいいい加減覚えろよって感じ。」
「それってギャグの世界では無いのですよね。」
「全員に確認した訳じゃないけど、あれってみんな転生者ね。しかもちゃんとしたのが一人もいないのよ。」
「だからストーリーが設定通りに進まないのですね。」
「こないだなんか、あの子の演技があんまり下手なもんだから、階段シーンを8回も撮り直ししたのよ。そりゃ、痛いのは誰だって嫌だけど、怪我しない事件で断罪なんてできる訳ないじゃない。」
「どんな光景だったか想像がつきますね。」
「現場の雰囲気最悪だったわよ。その上、王子以外の攻略対象全員、告白して来るし。あり得ないでしょ、悪役がいなくなっちゃうわ。」
「皆さん、婚約者の方がおられるのですよね。」
「みんな漏れなくW不倫中だけどね。」
「では、イトウ様が断罪されるおそれはありませんね。」
「みんな誰かを断罪しようなんて意識ゼロだからね。ある意味、断罪されるよりこの茶番に付き合う方が辛いわ。」
「では、安心してストーリーをお楽しみ下さい。」
「ちょっと待ってよ。このままじゃ私、馬鹿の一人とくっつけられちゃうのよ?」
「誰とも結ばれないエンドを目指してみてはどうでしょうか。」
「私がヒロインだったらそうするけど、悪役令嬢にそこまでの自由度は無いわ。」
それもそうだ。エンドはヒロインしか選べない。
「では、修道院を目指してみるとか。」
「それもそうね。攻略対象以外の男もみんなバ○なク○しかいないし・・・でも、修道院の人間もク○なのよねえ・・・」
「徹底されてますね。」
「そうなのよ。王家が傾くほどの寄付金要求されるし、修道士なんて下手な貴族より身なりがいいからね。それで『神の僕として恥ずかしくない風格が必要だ』だって。別にあんたらを食わせるために寄付してるんじゃないっての。」
「随分溜まっておられますね。」
「そうね。今日の王子の台詞でストレスが我慢の限界を超えたのよね。」
「どんなトドメが刺さったのですか?」
「『お前はクリスティーナの教科書を破ったような気がするし、そのせいで彼女は成績が174位だった。しかも階段で躓いたのもお前が原因だから国外追放する。』って言われたわ。」
「断罪はされたのですね。」
「3年も時間があるのに、何でココでやるんだって発狂しそうだったわよ。」
「予定外だったのですね。」
「全体の流れとスケジュールくらいは知ってて欲しかったわ。」
「興ざめですね。」
「さすがに全員引いてたわ。後2年半、どうやって話を持たせていくんだって感じ。」
「しかし、王子は長台詞を言えたのですね。」
「カンペを手に持ちながら、別のモブ令嬢の方を見ながらだったけどね。」
「よくカットされませんでしたね。」
「多分、王子の顔のアップで乗り切るわ。」
「それに気がするというのも不自然ですね。」
「相当自信が無かったみたいで、王子がアドリブを入れたのよ。」
「階段で躓いたと言ってしまってますね。」
「私の事をボンヤリ考えてたそうよ。」
「もういっそのこと、国外追放された方がよろしいのではないでしょうか。」
「それが、隣国もこんな感じらしいのよ。」
「だから国が何とか持ちこたえているのですね。」
「陛下もク○だし。」
「胸中お察しします。」
「まだスタートしてから半年足らずだから、まだ2年半もストーリーが続くの。とても耐えられそうにないわ。」
「その頃には、皆さんの演技力も向上しているかも知れませんね。」
「むしろ、そこがまだ一番軽い問題だけどね。」
「はい。しかし根本を解決するのは不可能かと。」
「やっぱり誰がキャスティングされるかは重要ね。」
「元の脚本に問題は無かったと思いますが。」
「リアルな世界にお蔵入りは無いのよ。だからこんなのでも続けるしか無い。」
「応援していますので、最後まで挫けずに頑張って下さい。」
女の敵はバ○なク○だった・・・