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町に到着した吟遊詩人

 さて、そろそろ下界では夕食が終わり、子供たちは眠りにつき始める時間。

 そして、酔っ払いが増えてくる時間になった。

 もちろん、危険ゾーン突入である。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「あの、先日お電話させていただいた、吟遊詩人の溝口修平と申しますが、ナターシャさんはごられますでしょうか。」

「はい、ミゾクチ様ですね。担当のナターシャでございます。」


 実は、各デスク毎に担当する世界はおおよそ決まっている。

 ここ1班では主にコード№がBで始まる世界を主に担当し、他の班が混雑して対応できない場合にこちらに回されてくるシステムだ。

 もちろん、班内でも同様だ。


「良かった。ミゾグチです。お忙しいところ申し訳ありませんが、よろしくお願いします。」

「こちらこそ。それで、その後どうなりましたでしょうか。」

「はい。その後、何とか剣を拾った所まで移動し、四日待ちましたが勇者様が現れなかったため、近くのロッテンという町に行き、聞き込みをしたのですが、誰も勇者の事を知らないみたいで、行き詰まっているのです。」


「勇者のことを知らないということは、勇者自身が隠密活動をしておるということでしょうか。」

「いいえ、勇者の知名度そのものがほとんど無いようです。私もナターシャさんに聞くまで知りませんでしたし。」

「しかし、聖剣を入手できるだけのレベルであれば、そこそこの知名度は後から付いてくるものですが。」


「もう少しこの街で聞き込みを行い、ダメなら先月まで私が滞在していたリースの町に戻って情報収集してみます。」

「お手数をお掛けしますが、よろしくお願いします。」


「しかし、結構大きい町とは言え、誰も勇者を知らないというのはどうなのでしょう。」

「勇者が偽名、あるいは匿名で活動している可能性もあります。すでに魔王や敵対勢力に付け狙われている可能性もありますからね。その町で最近起きた事件や小さな村での聞き込みも効果的でしょう。」

「そうですね。そうします。」


 本当に親切で勤勉な方だと思う。

 ある意味吟遊詩人らしくない・・・


 いや、日本人にはこういう方が比較的多いとは聞くし、転生者は善人が選ばれる確率が非常に高いので、こういうこともあるだろうけど。


「それでは、また困ったことがありましたら、よろしくお願いします。」

「分かりました。またのご連絡をお待ちしております。」

 私が受話器を置くとほぼ同時に、隣のエラリー先輩も通話を終えたようだ。


「先輩、顔色がすぐれないみたいですが。」

「ナターシャさん、ちょっと聞いてよ。今の電話の子、自分が剣を紛失したのを棚に上げて、ずっとヒステリックに叫び続けてたのよ。ホント、八つ当たりはやめて欲しいわ。」


「それはもしかして、B-ki4205のミラノ・アスプリア-ノ様じゃないですか?」

「名前はアズミ・ミライとか言ってたわね。」

「それ、勇者の俗名ですね。」

「ああそうね。その子で間違い無いわね。何?ナターシャさんも彼女の被害者なの?」

「いえ、私はその剣を拾った吟遊詩人の応対をしています。」


「そうなの。じゃあ、剣は拾得物になってるのね。」

「その方は勇者を探してくれています。」

「まあ、魔族が入手してなくて良かったよね。そうでなくたって、屋外で紛失したら、普通は二度と出て来ないものだから。」


「それで、勇者は今どこにいるのでしょうか。」

「それがね。『アタシに地図を見ろって言ったって分かるわけ無いじゃないっ!』て感じよ。しかもこっちの位置探知機能をOFFにしているクセにONに戻す方法を知らないんだから。」

「機械音痴なんですね。」

「脳内蔵型だから、コツがいるのは間違いないんだけどね。」


「せめて現在地の名称さえ分かれば良いのですが。」

「もうあの子と喋るのは限界よ。」

「そんなに酷いのですか。」

「しかも酔ってるしね。」

「お酒を好まれるのですね。他のパーティーメンバー・・・無理ですね。」

「ええ、こっちは転生者としか話できないし、あの状態じゃあ、勇者が他のメンバーとコミュニケーションを取れるとは思えないし。」

「セルフ状態異常ですね。」

「それも先天性のね。」


「二人は出会うことができるのでしょうか。」

「さあ、でもこれだけは言えるわ。神の人選ミスね。」

「それについては異議ございません。」

「今度あの子から電話が来たら、ナターシャさんに任せるわ。」


 そんなの新人に任されても、困る・・・


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