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飽きてしまいました

 もう2ヶ月。いいえ、まだ2ヶ月?

 毎日変わり映えしない日々が続く。


 まあ、総合職ならまだしも電話応対だからね。

なんてボーっとしていると、本日初めての電話が鳴る。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「もしもし、私、ダンジョンRPGの世界でダンジョンマスターをしている魔族小林という者です。」

「コバヤシ様ですね。ご用件をお伺いいたします。」


「私、この世界に転生して30年が過ぎ、そろそろ飽きてきたのですが、どうしたらいいでしょう。」


 ダンジョンも変わり映えしない世界である。天気も景色も変わらないし、ノルマも無い場合が多い。

 他所様との付き合いも限定的だし、やることも慣れてしまえば毎日同じだ。


「30年は大ベテランですね。」

「はい。ド○クエやウィ○ードリィの世代です。」

 私の先輩だ。


「それで、ダンジョンの管理経営を自ら行っている訳ですね。」

「はい。ダンジョンコアを破壊されると命を失ってしまう世界で、同期や後輩の多くも攻略されてしまいました。」

「その中で生き残っているのは凄いですね。」

「それが・・・」

「何か?」


「私は臆病な性格で、勇者どころか人付き合いそのものが苦手だったので、誰も来ないところで密かに生き残って来たクチなのです。ですので、実力的には今でも下の上くらいだと思っています。」

「いえいえご謙遜を。」

「誰にも見つからないように、入口を海中の岩の裂け目に設け、第一階層は全て海水で満たされています。」

「それは考えましたね。」


「入口の水深を30mに設定しましたので、入口を見つけたのは小さな魚介類だけだと思います。」

「良い漁場ですね。」

「しかも、ダンジョン設定規約に抵触しないよう、入ってすぐの所を岩で塞ぎつつも、直径1cmだけ繋いで洞窟の体を保っている区間を100m設定しています。」

「それは絶対に発見できませんね。規約は詳しく知らないのですが。」


「古株ながら未発見のダンジョンです。規約では、生物が通過可能な構造を確保することとされていますので、極端な話、プランクトンでも通過できればOKなのです。」

「よく思い付きましたね。恐らく未発見世界記録保持者ではありませんか?」

「私みたいな小者でも、何か記録に残れば光栄なことだと思います。」

「恐らく、これからも発見されないでしょうし、万が一発見されたとしても攻略はほぼ不可能ですね。」

「水中を自由に行動できるスキルを持つ人間は稀ですし、その中で厚さ100mの岩を破壊できる者はさらに限られますからね。」


「でも暇なんです。勇者どころか他のダンジョンマスターも来ませんので。」

「コバヤシ様から外部に連絡はしていないのですか?」

「怖いですし、ダンジョンエリア全てが海中ですので。」

「孤独に苛まれているのですね。」

「はい。宝箱のポーションも消費期限が切れていると思います。」

「誰も来ないなら、更新経費も捻出できないですものね。」

「はい。一応、小魚型モンスターを付近に派遣してプランクトンを補食することで殺戮ポイントを稼いではいますが。」

「マスターの生活費を稼ぐのがやっとですね。」

「まあ、楽ではありますけどね。」

 そりゃあ、こんな生活を30年も続けるのは死ぬより辛い。

 でも死ぬのは怖い、といったところか。


「ところで、コバヤシ様のダンジョンはストーリー進行に影響が無いのですか?」

「いいえ。この世界そのものがダンジョン攻略を目的としているみたいで、ストーリーなどは特にありません。その上、ダンジョン攻略せずにのんびり暮らしても構わない世界なのです。」

「魔王などの設定は無いのですね。」

「はい。当時最新の『何をしてもしなくてもいい世界』ですので。」


 一時期、そういうRPGが流行ったことは聞いている。

 それなら尚更、シャカリキになって攻略に勤しむ者などいないであろう。


「それはまた平和な世界ですね。」

「ダンジョン攻略で生計を立てている人はいるようですが、世界を旅して全てのダンジョンを攻略するような人は少ないと思います、そういったやる気のある人たちは別の世界を選ぶでしょうから。」

「確かにそうですね。しかし、退屈に耐えかねているのでしょう?」

「ハラハラドキドキは嫌なんです。でも、孤独もそろそろ耐えられなくなって来ています。」


「では、入口を陸上にも設けてみてはいかがでしょう。コバヤシ様も出入りできるようになるでしょうし。」

「でも、ウチのような弱小ダンジョン、見つかればすぐに攻略されてしまいます。自慢ではありませんが、ダンジョン運営のノウハウなんてありませんから。」

 これを勤続30年のベテランが言ってるの、何気に凄い・・・


「強いモンスターもいない訳ですね。」

「海棲モンスターが若干いるだけです。彼らの生活費を捻出するのも大変ですので。」

「ある意味詰んでますよね。」

「どうにもなりませんか・・・」

「改築にもお金が掛かりますものね。」

「融資を受ければある程度は可能でしょうけど、戦力を充実させることができなければ命取りになりますので。」


「でも、当時転生した方たちはもういい歳でしょうし、今では新規転生者はあまりいない世界なのでは?」

「エルフなどの長命種がいますので、油断はできません。」

 エルフに海は似合わないが・・・

「それでは、資金を貯めてパートナーかご友人になれるモンスターを導入するほかございませんね。」

「なるほど。それなら何とかなるかも知れません。分かりました。その線で生活設計してみます。」



「長生きも大変ねえ。」

「あらナターシャさん。私たちも十分長生きの部類よ。」

「私たちも数百年後、どうなっているのでしょう。」

「ナターシャさん、もしかしてCタイプ?」

「そうです。神様が勝手に設定したんです。」


 天使にもタイプがあって、Aタイプが年齢と共に見た目が変わるもの。Bは最初から見た目が大人、Cは見た目が幼児なのである。

 つまり私はおばあちゃんになっても見た目幼児な天使なのである。

 見た目詐欺な上、最も恋愛が困難な不遇天使である。


「どうせCならメッセンジャーにしてくれれば良かったのに。」

「あれはあれで大変よ。まあ、単独行動中は結構サボれるって聞いたけど。」

「まあ、お肌の心配をしなくていいだけマシだと思うようにします。」

「そうね。お互い頑張りましょう。」


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