モブに負けそうなんですが・・・
「もしもし、私、世界の勇者をやっている鈴木和宏と言う者なのですが。」
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。スズキ様、ご用件をお伺いします。」
受話器を置いた途端に電話が鳴った。
忙しい日はこういうことも珍しくないが、一区切り着いた時に飲む暖かい紅茶がお預けになるのはちょっとだけ辛い。
「私、魔王討伐のためパーティーを組んで修行の旅に出ているのですが、隣の国を拠点に活動している一般人の子供が異様に強く、現れて二ヶ月ほどで魔族四天王のうち二人を倒してしまいました。」
「既に彼の方が高い名声を誇っているのですね。」
「はい、私が勇者なのにとても肩身が狭く、巷では当て馬勇者などと呼ばれる始末。何とかなりませんか。」
「そういう状況で焦りは禁物です。万全の心構えと確実に勝てる実力を養うことが大事ですよ。」
「ただ、私はとある都市のダンジョン攻略を目指しているのですが、彼は早くも第三の四天王討伐のため、同じ街に滞在中なのです。」
「それは気がはやりますね。スズキ様がダンジョン攻略する目的は何ですか?」
「私はダンジョンのどこかに隠されているという、身代わりの指輪を入手したくて来ています。」
「万が一の備えですね。」
「はい。残念ながら今の私の実力では、四天王どころか、その2ランク下の中ボスですら五分ですから。」
「では、その一般の方は相当強いのですね。」
「チートこそ無いようですが、前世で勇者をされていたそうで、私とは戦闘の経験値がまるで違います。」
「最早モブではありませんね。でも、あなたにはチートがある。」
「ありますけど、私は前世では平凡なリーマンに過ぎませんでしたから、運動能力一つを取っても彼には全く敵いませんよ。」
「でも、その方が魔王を討伐しても問題は無いですよね。」
「あの、私の存在は・・・」
「命あっての物種です。あなたはあなたのペースで強くなって、結果的に英雄になるのは彼でも構わないではありませんか。」
「そう言われると元も子もないですが、私を信じて付いて来ている仲間や、王国にいくばくかの借金もありますので、できる限り頑張りたいのです。」
「とにかく、地道に努力することが大事です。彼の代わりはあなたがいますが、あなたの代わりはいません。勇者とそのステータスの価値は、今のあなたの強さに関係無く貴重なものなのですから。」
「そ、そうか。そうですよね。」
「あなたが勇者に選ばれた。それは事実ですので、これに腐ること無く頑張って下さい。」
「分かりました。アドバイスいただき、ありがとうございました。」
「最近、勇者からの相談が増えてるって先輩方もおっしゃってたわね。」
「転生事情も複雑化の一途を辿っているのですね。」
「最近は独自色の強い設定で無いと誰も振り向いてくれないから、こうした突飛な転生者が出てくるし、昔ながらの勇者やヒロインにとっては冬の時代よ。」
「確かに先輩のおっしゃるとおりですね。正統派の勇者・ヒロインを求める方は依然として多く、そういった方々の活躍の場は今でもあるものの、それに乱入する形で横から手柄をかっ攫う転移者が後を絶たないような気がしますね。」
「ラノベの弊害ね。」
「そうですね。勇者にも名誉や生活がありますからね。」
「チート持ちでも苦労が多いご時世なのよ。」
「裏の裏のそのまた裏を突くような設定では、登場人物も大変ですね。」
「魔王が正義側って、それ最早魔王じゃないから。」
「角が生えた神ですね。」
「そうね。しかも、退屈しのぎで本当に神が悪の世界も作ってるしね。」
「神は悪だと思います。」
「そうね。天使から見れば、彼らは悪ね。」
「魔王が実は神でしたってのもあったわね。」
「神なら何してOKと本気で思ってるふざけたのが多いのは問題だと思います。」
「誰か神全員モブにしてどっかに送り込んでくれないかしら。」
「どうせなら勇者に倒してもらいましょう。」
日頃の鬱憤が溜まっているせいなのか、私もエラリー先輩も毒が毒々しく出てくる。
そう言えばあの吟遊詩人の方、勇者に出会えたかなあ・・・