王子なのにモテません
もうすっかり昼夜逆転の生活が定着した。
人間界なら、それまでの友達と疎遠になったりで大変な変化なのだろうが、休日のないブラックな天界ではあまり影響が無い。
昇天した魂の方々は毎日休日なんだけどなあ・・・
「もしもし・・・」
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「ぼぼぼ、僕は・・・」
「はい。お電話は繋がっておりますよ。」
「ああああの、僕は、ブルツ王国というところで第一王子をしております、マ、マクシミリアン・ローウェルという者です。」
「マクシミリアン様ですね。ご用件をお伺いします。」
「ぼ、僕は、王子なのにままま全く、も、モテなくてじゅ、17でまだこ、ここ、婚約者もいいいないのです。どどどどうしてでしょう。」
理由はすごく明白だと思うのだが・・・
「あの、落ち着いて喋っていただいて結構ですよ。」
「あ、あの、おお女の子と電話でお、お喋りするのも初めてなんです。」
あっ、私、女だった・・・
何かこんなのが初めてでゴメン・・・
「緊張しなくていいですよ。出会い系のサクラだと思ってお気軽にお話し下さい。」
「その、ふ、普通は王子様ってモテるものではないのでしょうか。」
「はい。普通は王子の地位や財力を目当てに、ご令嬢方が殺到する者です。失礼ですが殿下は将来、王に即位するのでしょうか。」
「はい。当家には第二王子と第一王女がおりますが、第二王子が15才を迎える来年夏までに僕が後継指名を受ける予定です。」
「王家の財政事情はどうですか?」
「特には問題無いと・・・」
「ならば、普通はモテるかどうかは別にして、王家からどこかに縁談を持ちかけているはずですが、状況はいかがでしょうか。」
「ふふ不調続きと聞いております。」
「それはおかしいですね。ご令嬢本人の気持ちはともかく、各諸侯は王家との繋がりを歓迎するはずですが、そうでないとすれば、ブルツ王国が政情不安に陥っているか、諸侯が一斉に反旗を翻す兆候としか思えませんが。」
「いいいくら何でもそれは・・・無い、と思います。」
「自信ないのですね。」
「いえ、そんなことはありません。確かに、水面下で怪しい動きをする者はいつの時代もおりましょうが、今の我が国は安定しており、そこまでの事態が起こるとは考えられません。」
「では、失礼ですが、殿下のお人柄に不安を感じている諸侯やご令嬢が多いということではないでしょうか。」
「どうすれば良いのでしょう。」
「まずお伺いしますが、女性はお嫌いですか?」
「そんなことはございません。ぼ、僕だって人並みの男です。」
「では、苦手意識は・・・ございますね・・・」
「はい。前世を含めて手を繋いだのはママと妹だけです。家族以外の女性との会話なんて・・・あったかも・・・」
「それは大変重傷、いえ、昏睡状態に等しいですね。」
「お恥ずかしい限りです。」
「しかし、前世はともかく、今は一国の最高権力者です。その地位を最大限利用して堂々と振る舞えば良いのではないのですか?」
「頭では分かっているのですが。」
「頼りがいのある男性なら、惹かれる女性が必ず出てくるものと思われます。それに、女性だけでなく、臣下に対しても大事な事だと思いますよ。」
「でも、オラオラはちょっと・・・」
「何もいきなり極端な方向に舵を切れという訳ではございません。今の陛下をご参考にして、正しく国を導く気概を周囲に示せば、その雰囲気に魅力を感じたり、縁談を了承しようという諸侯が現れるものです。」
「なるほど。でも、それでモテると言えるのでしょうか。」
「ハーレムを作るので無ければ、そんなにモテる必要はございません。本当に信頼できる方が一人いれば、それで良いではありませんか。」
「なるほど。そうですよね。一人でいいんですよね。」
「世の中の多くの人はそんなにモテる訳ではありません。まずは殿下の足下をしっかり固めれば、問題は自ずと解決に向かうでしょう。」
「ぼ、僕、お姉さんがいいなあ。」
「そういう意思表示を、今までどなたかにされた経験はお有りですか?」
「ととととんでもないっ!は、話すらほとんどしたことありませんよ。」
「ならば、今度のパーティーでどなたかにそういったお声掛けをしてみて下さい。それが第一歩ですよ。」
「そ、そんなこと、怖くてできませんよ。」
「殿下は今、私にしましたけど?」
「そ、そうでした。」
「その気になれば必ず出来ますし、億劫がっていては、いつまでも絶対にできません。」
「そういうものですか・・・」
「とにかく強気に堂々と事に当たって下さい。」
「オラオラですね。」
「違います。いきなり殿下がオラオラしたら、会場がパニックになってしまいます。」
「加減が難しいですね。」
「でも、今日私と話して、だいぶ女性と話をすることに抵抗が無くなってきたのではありませんか?」
「だからお姉さんがいいのですが。」
「ブルツ王国のために、是非とも人間を娶ることをお薦めいたします。」
「分かりました。そうします。」
この殿下、私を本当にサクラだと思ってる可能性に一票だ。