そして、今度こそ使える後輩が
そして今日は4月1日。入社式の朝、ではなく夕方。
私も2年前は憂鬱な気分で社会天使初日を迎えたが、今ここにもどんよりした顔の新米が二名並んでいる。
「あ~、ここにいる二人が今年採用された新入社員となる。右がシャロンさん、左がミチコさんだ。みんな、よろしくお願いする。ではふたりとも、簡単に挨拶しなさい。」
二人は簡単な挨拶をしているが、私は彼女の名前を聞いて顔が固まっている。
ミチコがいるのだ・・・
彼女と特に付き合いがあった訳ではないが、おな中で所謂不良生徒だった子だ。
私といい彼女といい、どうして適性ゼロの職場に採用しちゃうんだろう。
彼女なんかどう考えてもソルジャー一択でしょうに・・・
「では、シャロン君は3班に、ミチコ君は1班だ。」
「分かりました。」
お淑やかで内気な雰囲気のシャロンさんじゃない方の天使がこちらに来る。
これは絶対班長の嫌がらせに違いない。
これほどビジネススーツの似合わない天使も私と彼女くらいのものだろう。
「ミチコっず。よろ~。」
「ナターシャです。よろしく。」
一瞬、私のこめかみに怒マークが浮くが、これでも社会天使三年生。それ以上は抑える。
「貴方の席はそこよ。マニュアルがあるからそれをよく読み込んでおくこと。」
「はいはい。暇な時に読んどく。」
これと後3年付き合うのか~、とため息が出てしまったが待てよ。
彼女なら一週間で解雇される可能性もあるし、対班長用兵器としても使えるじゃ無いか。
何たってウチの区内では最凶だったんだから。
ならば私の行動は一つだ。彼女とは距離を置いて、文句があるなら班長に直接言えと唆す。これだ。
私はすぐに頭を切り換えて彼女のことは綺麗さっぱり忘れる。さあ仕事だ。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「もしもし。カスタマーセンターでよろしいでしょうか?」
「はい。お客様係で間違いございませんよ。」
何か不思議だ。
あれほど嫌だったコールがそんなに苦にならないし、いつもより丁寧に対応できているような気がする。
多分、隣の後輩の相手をしなくていいからだ。そうに違いない。
でもまさか、私が自ら進んで受話器を取る時代が来るなんて・・・
その電話はあっという間に終わった。
いつものグダグダではない。私史上最高に冴えてた。
でも、何だか納得いかない・・・
「さっすが先輩。見た目は赤ちゃんだけどなかなかやるじゃん。」
「そりゃどうも。」
「これからもその調子でよろ~」
彼女の方は、彼女史上最低状態のようだ。
傍若無人に教員や他のチームに殴りかかっていた勢いは感じない。
私も、彼女の相手をしているときは全く精彩を欠いてはいるのだが・・・
「先輩、何か返してくれません?」
「何を?」
「あ~しが喋りかけたんだから、それに答えてくれないかなあ。」
「何を?」
もうこれ以上の言葉が出て来ない。いや、言葉を出す気力が出て来ない。
「先輩って無口なんすか?」
「芸能人と同じよ。いつも笑顔でなんていられないわ。」
「ああ、そういうことなの。了解。」
「だから、何か文句があるならあそこのダレン班長に言うのよ。」
「班長じゃ無いとダメな感じ?」
「うちのリーダーだからね。副班長に言っても仕方無いわよ。ただの勤務管理者だから。」
「さっすが先輩。物知りだねえ。」
「それほどでもないわ。」
早く次のコール鳴らないかなあ。
でも、4月1日の夜はどこの世界でも新歓の宴会だろうからなあ。
きっといつもよりは暇なはずだ。
「ところで、先輩はあ~しのこと知ってるよね。」
「ええ、中高と同じですから。」
「先輩も悪魔中出身なんだ~、ウケる~。」
何も悪魔養成中学ではない。北区立左端中学校だっただけだ。
北区の左の隅っこに住んでいたに過ぎない。
ちなみに、天界に高校は一つしかないが、中学は沢山ある。
天使の体力というか移動能力に応じて学校の数は変わる。
ただし、幼稚園は送迎バスがある。
そして、大学は神童しか通わないので、天使には無縁だ。
まあ、パシリや下級兵士、苦情処理に大卒は必要無いということだろう。
「ですが、もう大人となったのですから、最低限のことは自分でしていただきます。」
「先輩厳しいっすねえ。」
「これでも甘い方です。早朝シフトには日の出の魔女という、勤続百年のボスがいます。彼女に比べれば私など、小者に過ぎません。」
「ヘ~。調子乗ってんじゃん。」
「止めておきなさい。入って早々、騒ぎを起こしてはいけませんよ。」
「了解っす。じゃあこれからもよろしくね。」
よろしくしたくない・・・
4月1日は、入社3年目にとって、とても憂鬱な一日となった。




