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ミントちゃんたちの送別会

 さて、この季節は、どの職場でも人事異動が発令され、そこに悲喜こもごもが発生する。

 うちのような、誰もが逃げ出したいと考えているブラック企業でもだ。

 そして、可愛い二人の後輩も元いた世界に帰っていく。


 今日はみんなで彼女たちの送別会を行う。彼女たちはほぼ24時間出ずっぱりで職場にいたので、全職員に親しまれていることもあり、普段はお付き合いの無い人たちも有志で来てくれている。

 そして、送別会と言えば居酒屋なんかでドンチャン騒ぎが普通だが、スイーツ好きの妖精さんたちのために、昼間からカフェを借り切って騒いでいる。


「では、本日はお忙しい中、また、有給休暇を使ってまで多くの方にご参加いただき、誠にありがとうございます。それでは、ミントちゃんとシナモンちゃんの送別会を始めさせていただきます。最初に、主催者であり、直属の上司である夜勤シフト第1班、エラリー副班長からご挨拶をいただきます。」


「本日は、年度末のお忙しいところ、私共の呼びかけにお応えいただき、誠にありがとうございました。お陰で、とても盛大な宴になりましたこと、この場を借りて御礼申し上げます。ここにいる二人は、1年間という短い間でしたが、職場の花、そして癒やしとして、本当に大きな働きをしてくれました。これからモトの世界に帰っても、いつまでも笑顔で元気に、そして、時々は私たちを思い出していただければ嬉しく思います。ミントちゃん、シナモンちゃん、どうか、お元気で。」


「それでは、ミントちゃんとシナモンちゃんから、お別れの言葉を一言づついただけますか?」

「は~い。一年間本当にありがと~。みんなとっても優しくて楽しかったよ~。特にエラリー副班長さんとナターシャお姉ちゃんありがとう~。」

「私もここで美味しいお菓子をいっぱい食べることが出来て楽しかった~。ララ班長さんと昼シフトのみんなからもらったシナモン人形、いつまでも大切にするね。」


 この後、様々な色のドリンクで乾杯をして、宴は始まる。

 ミントちゃんは副班長、シナモンちゃんは3班を統括するララ班長のお膝の上だ。

 ちなみに、日の出の魔女はいない。誰も怖くて彼女を誘えないのだ。

 うちの班長? そんなの知らない。


「ミントちゃんたち、一年間お疲れ様。」

「そうねえ。とっても頑張ってくれたから、みんなお別れが寂しいのよ。」

「ホントッ!うれし~な~。」

「みんな美味しいお菓子を沢山紹介できて、それが生きがいだったのよねえ。」

「とっても美味しいお菓子ばっかりだったよ。次はミントたちが元の世界のお菓子、ご馳走するね。」

「ありがとう。こんないい子、天界にはいないわ~。」

 確かにいない。

 私たちは純真無垢な種族だったはずなのに・・・


「ところで、二人はここでもらった給料はどうするの? 向こうじゃ使えないんじゃないかな。」

「きゅーりょー? ミント、そんなの知らない。」

「えーっ!ただ働きだったの?」

「皆さん。ミントちゃん達はお金を持ってても仕方無いから、後で一括して現物が支給されるのですよ。」

 良かった。そこまでブラックでは無かったか・・・


「何か、後で神様にお願いしてって言われた。」

 またぶっ壊れでも渡すんじゃないよねえ・・・

「シナモンはお菓子いっぱいがいいー!」

「ミントもそれー!」

 きっと神様がチートなお菓子をあげるんだろう。


「でも、ミントちゃんたち、本当にずっと職場にいたよね。」

「うん。妖精さんは寝なくてもいいんだよ~。」

「あんまり寝ないと身体の色が薄くなるけど、大丈夫だよ~」

 それって、大丈夫って言っていいんだろうか。


「でも、寝てる妖精さんっているよね。」

「うん。ミントも鏡に入ってたときは半年くらいは寝てた~。」

「シナモンもお話相手がいない時はずっと寝てたよ~。」

 そういうものらしい・・・


「しかし、4月からはまた違う後輩が入って来るのですね。」

「私たちのシフトには二人の新人が来るわ。また、一人はあなたに任せるわね。」

「ララ班長、私なんかでよろしいのですか?」

「だって、あなたが一番年が近いですもの。」

「見た目はとっても遠いですけど。」

「まあそうね。でも、あなたが先輩ならたくましく育ってくれるわ。」

「まあ、エラリー副班長まで・・・」

「それにしてもいいわね。こういう気兼ねない宴は。」

「そうですね。去る二人の人柄そのままです。」


 さっきからあちこち飛び回ってジュースのお酌をしている。

 本当にいい後輩だったなあと思う。


 こうして、私たちのシフトに入っても堂々と続いた宴も終わり、彼女たちは飛行機で元の世界に帰って行った。

 彼女たちもとんでもない長命種なので、ここを無事に退職できたら会いに行きたいなと本気で思ってる。


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