何とか隣人ができました、が
顔をパンパンと何回か叩き、血行を良くする。
これで、ちょっぴり頬がピンクの天使らしい顔に戻ったかな?
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「もしもし。カスタマーセンターですか?」
「はい。そうですよ。」
「私、以前お電話差し上げました、孤独に過ごせる世界に転生した、オリバー・マックスウェルです。」
「ああ。少々お待ち下さい。B-ZF4207、孤独に過ごせる静かな世界ですね。」
「そうです。」
思い出した。街まで行けずに困ってた方だ。
まあ、街と呼べるほどの集落は存在しないけど・・・
「それで、街にはたどり着きましたか?」
「あれから高い山を越え、人跡未踏の地をさまよって、ようやく集落を見つけることができました。まあ、小さな部族が住んでいるだけですけど。」
「言葉は通じましたか?」
「いいえ。ですので、ただ今猛勉強中です。」
「さすがは孤独に過ごす世界ですね。」
「どうやら、孤独を強いられる世界でした。」
そう、神は皮肉と理屈を好む。
「しかし、よくたどり着けましたね。」
「はい。孤独でも生きていけるように出来ているみたいですね。そこいら中に水や食べられる物が溢れています。」
「それでも、人は増えないのですね。」
「子供の数は少ないみたいですね。理由は分かりません。」
「そうですか。でも、何とか暮らせているのですね。」
「はい。私の経験や知識では大した事はできませんが、それでも身振り手振りで色んな事を伝えて、少しづつ生活を改善しているところですよ。」
「そうですか。皆さんとともに生きていくことを決められたのですね。」
「はい。食べることは困りませんし、外敵もいません。ゆったりとしてとても言い世界ですよ。」
「それは良かったです。それで、ご用件が何かおありなのではないですか?」
「そうですね。隣人ができたのですが、これがなかなか打ち解けられなくて。困っていると言えばそれですね。」
「まあ、孤独に生きるプランですから、人々も多少は排他的に調整されているかも知れませんね。」
「そうなのですね。まあ、見た目も言葉も違いますから、警戒されることは想定内です。」
「それ以外の要因があるのですね。」
「はい。彼、いえ、村の全員がとてもシャイなのは分かったのですが、何といいますか、その、とても感情の起伏が激しいのです。」
「どのようにでしょう。」
「その、普段は無口でとても無愛想に感じるのですが、例えば、私が何か新しい工夫とか料理を作ったときに急に人が変わったように早口になり、身体をペシペシ叩いてくるのです。地味に痛いのですが、あれはどういう・・・」
「あ~、もしかしてそれ、村全員でしょうか。」
「はい。多少の個人差はあるみたいですが、みんなです。」
「ご愁傷様です。」
「何かございましたか?」
「ああ、20世紀末にほぼ人工的に作られてしまった人間の一分類が、お住まいの村人のデフォだったようですね。」
「えっ、それは、もしかして・・・」
「はい。人気はあるのに、実際に隣人としていた場合、最もはた迷惑な性格です。」
「カタカナ四文字の。」
「はい。」
「日本人以外に発症者がいないと定義づけられていたはずの・・・」
「いえ、今は世界中に感染が広がったようですよ。」
「ああ・・・」
「そういうものだと思って、受け入れていくしかありません。決して彼らに悪意は無い訳ですから。」
「しかし、男も老人も皆、というのはさすがにキツいのではないでしょうか。」
「全員はツンデレなら、あなたが同じように振る舞っても、恥ずかしい思いをせずに済みます。」
「しかし、それでは私の転生者としての矜持が・・・」
「考えるな、感じろ、です。」
「本当に一人で生きて行かざるを得ないギミックてんこ盛りなのですね。」
「人と関わりたくない方のために作られた世界ですから。」
「分かりました。できるだけ折り合いを付けて頑張っていきます。」
「大丈夫です。細かな拘りを棄てれば、とても住みやすい世界ですよ。」
「はい。では、失礼します。」
「副班長、一人で生きるのは大変なんですね。」
「どうやらあの世界は、一人で生きていけるための配慮はされていますけど、それ以外の生き方をしたいと思ったとき、途轍もない困難が襲いかかってくるようですね。」
「一人で生きる方が難しいのですから、落伍したときのセーフティネットくらいあればいいのにと思ってしまいます。」
「それがあらかじめできるなんて、全知全能じゃない限り無理よ。」
「全知全能とは・・・」
「人のことを知らないなら、そうは呼べないわね。」
エラリー副班長も、たまに厳しい・・・




