表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/130

ああ、これでもお客様なのね・・・

 さて、天界の桜も三分咲きとなった今日。もうすぐ私も3年目に入るんだけど、なんてちょっと感慨に耽っているとコールが鳴る。

 私は受話器を取り、ボタンを押す。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「吾輩は、異世界で魔王をしておる、ガラドザラムである。」

 私は、別の音声ボタンを押す。


「はい。」

 長い沈黙・・・


「おい、吾輩がわざわざセンターに電話してやったというのに、薄い反応だな。」

「はい。」

 実は、はい、いいえの他にもいくつかのボタンがある。

 ありはするのだが・・・


「おい、真面目に答えないか。」

 仕方無い。

 テンちゃん手作りの音声装置では対処しきれない。


「魔王ですね。用件をどうぞ。」

「おい、客に対して随分な対応じゃないか。潰されたいのか?」

「魔王に敬称など必要ありませんし、あなたに潰されるほど私は弱くありませんよ。」

「吾輩は客だが?」

「お客様なら敬称をお付けします。魔王として対応するならそれなりにさせてもらいます。」

「分かった。我は魔王であることを辞めるわけにはいかぬ。」

「そうですか。それでは用件をどうぞ。」


「私は魔王として転生し、昨年、勇者を倒した。」

「そうですか。敢えて祝辞は言いません。」

「・・・しかし、また勇者が出現した。どうしてなのだ?」

「あなたが勇者を倒したからです。」

「しかし、これではキリが無い。」

「そういうものです。勇者も魔王も、倒されれば次に引き継がれます。そういうシステムが実装されている世界がほとんどですので、そういう運命だと思って下さい。」


「これでは気が休まらない。」

「魔王の気が休まる世界なんて、ある訳ないじゃないですか。」

「そういうものなのか。ならば、どうすれば良い。」

「勇者が弱いうちに捕まえ、レベルアップしないように幽閉した上で、彼に健康で文化的な最低限度の生活を保証すれば良いのでは?」


「しかし、人の寿命は短い。」

「勇者は最初から強い訳ではありませんので、可能でしょう?」

「それはそうだが、それでは史上最高の大魔王にはなれぬ。」

「そんな下らないものになりたいのですか。」

「魔王になった後の楽しみなんて、他に無いだろう。」

「では、あなたの考える最強とは何ですか?最強魔王トーナメント優勝ですか?」

「魔王は吾輩しかおらぬ。比べようがない。」

「答えは出たじゃ無いですか。比べようが無いなら、倒されなかったことをもって最強を証明して下さい。」

「しかし、それでは・・・」


「確実に勝つことが、トップに求められる最も重要な資質です。」

「まあ、勇者不在のうちに人間を滅ぼせばいいか・・・」

「滅ぼした後、どうするおつもりですか?」

「最強の証明になるではないか。それに、人を滅ぼせば勇者は出て来ない。」

「短絡的な考えですね。」

「何?」


「かつてGを滅ぼした方々がおりましたが、その世界はもれなく危機に瀕しました。ましてや数も生態系に与える影響も格段に大きい人を滅ぼした後の影響はお考えですか?」

「人がいなくなれば他の生物が増えるのではないか?」

「魔族はどんなに知能が高くても、本能に抗えない特徴を持ちます。そんな種がライバル不在になった時に起こす現象があります。」

「何だね。」

「生物の大量絶滅です。人より繁殖力の高いほ乳類種はいません。農業も畜産業も行わないあなたたちはライバル不在の中で数を増やし、たちまち食糧不足に陥るでしょう。」


「しかし、我々の食料はほ乳類だけではない。」

「あなたたちの欲の深さに付いてこられる種なんてGくらいのものですよ。まあ、Gを食べたければお好きにどうぞ。」

「人は・・・滅ぼせないのか?」

「魔王、皇帝、勇者。いかなる立場の者であっても、自然の産み出した生態系に抗い、勝利することは不可能です。そういう風に設計されていますので。」

「吾輩に止まれと?」

「お好きにどうぞ。まあ、普通にやっていれば負けるのは魔王ですけどね。」

「何故だ。」


「では聞きます。あなたはどれだけ鍛錬を積んでいますか?」

「そんなものせずとも、勇者や配下に負けたことなど無い。」

「今は、ですね。しかし、魔王が椅子でふんぞり返っている間に、勇者はレベルアップに勤しんでいます。そして魔王の多くは、戦いの最中に舐めプして勇者に敗れる。」

「あれは見せ場づくりであって、魔王の強さを示すために必要なプロセスだ。」

「それを舐めプと言うのです。そして必ず足下を掬われる。」


「魔王を完全無欠にしておけば良いだけだろう。」

「いいえ。弱点を知り、それを無くす努力をしないのが悪いのです。勇者は鍛錬の中で弱点を克服する努力をしています。努力しない者が敗れるのは当たり前です。」

「しかし、魔族を根気強くしなかったのはそっちの都合だろ。」

「その代わり、人を遥かに凌駕する能力を与えています。つまり、両者は互いにアンチテーゼとして存在し、物語の読者に教訓を示しているのです。その教訓通りの動きしか出来ない魔王如きが最強などと、片腹痛いですわ。オッホッホッ!」


「な、何と・・・今からでもそちを潰したいが。」

「天界に来られるだけの力を付けたら、お相手してもいいですわ。」

「死んだ後でないと行けない所じゃないか?」

「魔王の都合なんて知りません。戦いたければ努力なさい。」

 そう言って受話器を置いた。



「まあまあ、ナターシャさん。魔王のようなお顔になっておられますよ。」

「そんなに悪い顔になっていました?」

「ええ、とっても。」

「でも、神よりは・・・マシですよね。」

「近いですよ。気を付けた方がよろしいかと・・・」


 副班長に言われたなら、かなり近付いているのだろう。

 気を付けなければ・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ