どうしてファンタージとは違うんでしょう
さて、そろそろサクラの季節だ。
ここは常春ではあるが、昇天された方々を慰めるため、春にはサクラが咲く。
決して天使が花見するためのものでないのが悲しい。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
何と、テンちゃんにお願いしていた自動受け答え器が完成し、私の声を録音したものが今日からお目見えだ。
ところで、こういう仕事こそAIにならないのかなあ・・・
「もしもし。俺、異世界というか並行世界で高校生をしている別所一就と言います、」
あれっ?2班は?って向こうを見たら、みんなミントちゃん達と遊んでた。
そういや、もうすぐお別れだもんね・・・
「ベッショ様ですね。ご用件をお伺いします。」
「俺は前世ではモテなかったんで、ここではモテまくろうと5人の彼女を作ったんです。でも、思い描いてた展開になかなかならないので、ここに電話してみたんですよ。」
「そういうご相談であれば、ここよりもその世界をよく知っているお友達に相談した方がいいですよ。」
私は恋の相談事が一番苦手だ。だって、分かんないし・・・
「こんなこと相談できる女友達はいないし、男は頼りになんないし、カスタマーセンターなら大抵女子かなあと思って。」
かなり腐ってますけど。
「では、状況をお伺いしてよろしいでしょうか。」
「今、俺は5人の女の子と付き合ってるんだけど、みんな自己主張強めでさあ、こういう物語って普通、もっと従順じゃ無いの?」
「お客様の世界はストーリー付きの世界なんですか?」
「こういう世界なんだからラブコメ青春モノじゃないの?」
「今、調べますので、前世でのお名前を教えていただいてよろしいですか?」
「山田隆です。」
「随分普通のお名前だったのですね。」
「それは言わないで下さい。」
「A-HX1928、リアルハイスクール体験デラックスという世界ですね。」
「ラブコメじゃないのですか?」
「リアルでラブコメな展開なんて起きないでしょう。」
「まあ、あんなことが起きたら普通は修羅場続きですよね。」
「でも、そこで5人もの彼女を作るなんて凄いことですよ。」
「目指せハーレムですよ。」
「いいえ、5股ク○男一直線ですね。」
「そうなんです。周囲の評価がそれなんです。おかしくないですか?ラブコメだと許されてるのに。」
「私も、何であんなものが創作物だと受け入れられるのかが分かりません。」
「特にファンタジーモノだとみんな従順だったり、最初からドラマチックな出会いと好感度MAXが標準装備されててとっても羨ましいです。」
「ライトノベル原作の世界では、ハーレムが比較的構築しやすく設定されており、それを目的に生きている転生者も多いですが、本来は仲間作りが目的なんです。何せ、危険が多い世界ですから、人付き合いが苦手な方でも孤立しないように配慮しているんですよ。」
「確かに、中世ファンタジーならそうでしょうけど、学園モノでもそうでしょう。」
「貴族学校はそもそも恋愛以外はオマケですからね。それを現代劇に置き換えただけの世界も多くありますが、お客様の世界はリアルデラックスですからね。」
「だから恨まれるんですね。」
「まあ、当然ですよね。皆さん、あんな男に騙されて女の子が気の毒だと思っているのではないでしょうか。」
「みんな、何だかんだ言いながら、楽しそうなんですけどね。」
「でも、ヤマダ様は全員に告白したのでしょう?」
「いいえ、告白したのは一人だけで、後の四人には告白されました。」
リア充め。
「ということは、正真正銘のカップルですね。」
「そのとおりです。」
「でも、最終的には誰かお一人を選ばなくてはいけません。」
「まあ、強いて言えば俺が告白した子ですね。」
「では、早急に整理してください。」
「いや、でも、まだドラマチックな展開とか事件とか葛藤とか起きてないんですよ。」
「お客様は高校生ですよ。そんなドラマチックな事件がリアル世界でそうそう起きる訳ないじゃありませんか。ドロドロの愛憎劇が事件というなら、ほぼ確実に起きますけど。」
「いや、そんなんじゃなくて、青春のほろ苦いヤツですよ。」
「あれは、そういうシナリオが事前に用意されていて、それに沿ってアクターが動いているだけなんですよ。リアルでは痴情のもつれで刑事事件になることだって珍しくない、大変危険な状態なんですから。」
「それは大げさじゃないですか?」
「いいえ。普通は5股なんてとてもできないことなんですから、反動はそれだけ大きいとお考え下さい。」
「・・・」
「お相手はアクターでもAIでもない、血の通った人間であることをお忘れ無く。」
「分かりました。ドラマチックな事件が起きる前に関係は整理します。」
「では、お客様のご無事を心からお祈りしております。」
「はい。ありがとうございました。」
こうして電話は終わった。
「陰キャが陽キャになろうと奮闘した結果、加減を間違えたケースでしょうか。」
「そうですね。ヤマダタカシさんでしたし。」
「副班長。全国のヤマダタカシ様に謝罪した方がよろしいのではないでしょうか。」
「そうですわね。この場をお借りして謝罪いたします。」
「でも、こういう勘違いをする方が本当に後を絶ちません。」
「古今も東西も問わず、ですね。」
「まあ、その多くは21世紀人がやらかした結果ですけど。」
「そう考えると、転生事業も見直すべきですね。」
「そうなるとカスタマーセンターも必要なくなりますね。」
「あら、私が失業してしまいますわ。」
「副班長なら引く手数多でしょう。」
「ありがとう。缶コーヒー奢るわ。」
この後ミントちゃんたちも呼んで休憩した。
いや、ミントちゃんはずっと遊んでいたんだが・・・




