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今さら引っ込みがつきません

 エラリー副班長にとてもナチュラルにdisられていると、次のコールが鳴る。

 何だか、このデジタル音に初めて助けられた気がした。



「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私はジュリエッタ・ワーグナーといいます。よろしくお願いします。」

「ジュリエッタ様ですね。では、ご用件をお伺いします。」


「はい。私は6年前にこの世界に転生したのですが、その時に神様から『疑似』のスキルをいただいたんです。」

「疑似、ですか。それは大変珍しいですね。申し訳ございませんが、私の知らないスキルです。よろしければ、どのようなスキルかお教え願えますか?」

「はい。何にでもそれに近い状態になれるものです。例えば、お医者さんのようにもなれますし、プロの料理人みたいにもなれます。」


「みたいになれるのですね。」

「本物にはなれないようですね。でも、物によっては見分けが付かないレベルになります。一度、剣聖モドキになってみましたが、ランクS相当の冒険者並みと言われたことがあります。」

「他にもいろいろなれるのですか?」

「はい。同時に複数のモドキになることはできませんが、思い付く物なら何でもなれますし、魚になればエラ呼吸だってできちゃいます。」


「それはぶっ壊れてますね。」

「まあ、勇者モドキにしかなれませんから、本職の魔王には勝てませんが。」

「いえ、神モドキになれば勝てると思いますよ。」

「いいえ。自分の理解や想像の範疇を超えるものにはなれないみたいです。」

 一応、安全装置は付いてるのか・・・


「神なんて、皆さんが考えてるとおりのものなんですけどね・・・」

「それはそうと、そのスキルのせいで大変なことになってしまったんです。」

「どのようなことでしょうか。」


「私、聖女様に憧れていて、疑似聖女になったんです。まあ、偽聖女ですね。」

「宗教関係は厄介ですよ。」

「そうなんです。私は軽く治癒魔法とか、光が出せれば聖女認定されると、軽い気持ちで聖女認定の儀式で奇跡モドキを起こしたんです。」

「そしたら認定されたと。」

「はい。今や世界を救済する千年に一度の聖女と言われています。」


「その世界には他に聖女はおられないのですか?」

「隣国にお一方だけいますが、私は彼女より能力が高いようです。」

「ならば、何一つ問題ないように思えますが。」

「でも、聖女には一つだけ、神を顕現させ、啓示を賜る能力というものがあって、これが私には備わって無いのです。」


「まさに、偽物の本領発揮ですね。」

「せめて、それらしく演出できれば良かったのですが、本物の壁は厚かったです。」

「まあ、なんちゃってですからね。」

「来月、10年に一度の神降ろしの儀式があるのですが、どうしたら良いでしょう。」


「プロジェクションマッピングとか、拡声魔法なんかで、なんちゃってを演出できないのですか?」

「私、一度に一つのことしかできないんです。」

「では、正直に告白するというのは。」

「処刑されます。」

「疑似リッチになれば。」

「多分、本物では無いので死んでしまいます。」


「では、惜しいところで失敗したような演出をすればいいのではないでしょうか。」

「神様は現れたけど、何も言わずに帰ったとかですか?」

「身振り手振りで何かを伝えて帰るというのもいいですね。」

「見た人はとてもガッカリでしょうね。」

「では、声だけというのはどうですか?シャイな設定で。」

「それでは魔法ではないという証明ができません。」

 困った。もうアイデアが出ない・・・


「じゃあ、逃亡するというのはどうでしょう。」

「その気になれば逃げることは可能でしょうが、聖女に対する期待の大きさは凄いんです。絶対に地の果てまで追いかけてくると思うのです。」

「でも、虫か何かに擬態すれば見つからないと思いますよ。」

「ここまで高い能力があるのに、虫ですか・・・」

 もっと前向きなものでないとダメか・・・


「では、思いっきりモブに擬態すれば。」

「逃げられますが、虫よりはかろうじてマシなレベルでは・・・」

「全国のモブさんに謝って下さい。」

「ごめんなさい。」

「でもあなたならどうにでも誤魔化せると思いますよ。」

「もう、誤魔化すって言っちゃってますし。」

「擬態ですからね。でも、いろんな生き方ができるなんて、凄いチートですよ。」

「使い方を間違ってこのザマですが。」

「やり方次第でどうにでもなりますよ。そんなに心配しなくても大丈夫です。」

「まあ、いざとなればハエにでもなって逃げ出します。」

「ええ、ではお元気で。」

「お騒がせしました。」

 こうして電話は終わる。



「なかなか愉快なチート技をお持ちでしたね。」

「形だけの擬態ならあんなに悩まなくても良かったとは思いますが。」

「ええ、度を超したなんちゃってでしたね。」

「でもちょっとだけ羨ましいと思ってしまいました。」

「あら、これもナターシャさんに絶対与えてはいけない天恵ですわ。」

「これもですか・・・」


 しかし、私はどんだけ危険視されてるんだろう・・・


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