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余暇の神

 外は常春。

 別に三月だからといってどうということはない。

 まあ、その暖かさが新たな芽吹きと、一抹の寂しさを呼び起こすというのは否定しないけど。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「我はリズポス。神である。控えおろう。」

 また神かよ。面倒臭い・・・


「これはこれは大神リズポス様。お声を拝聴することができ、恐悦の極みにございます。それで、このような最底辺の吹きだまりに何のご用でございましょうか。いえ、至高の神がこのような所に電話などするはずがございません。何かの間違いに違いありませんね。では、御前を失礼致します。」

「待て待て待て待てっ!何を勝手に終わらせようとしておるのじゃ。」

「はて、空耳かしら。これは医務室に行かなくては・・・」

「待てと言っておる!」

 いつものように手が滑ったフリをして受話器を置く。

 立ち上がって自動販売機の所に行こうとするとまたコールされる。


「今のヤツを出せっ!不敬であるぞ。」

「こちら、出雲大社の社務所でございますが、今のヤツとは何でございましょう。」

「お前だな!リダイヤルなのだ。別の所に掛かるわけ無いだろう。」

「では、次からは別の所にお願いします。」

「待て。我の話を聞け!」


「では、ご用件をお伺いします。」

「貴様、見習いの天使であろう。」

「まあ、神様なのに随分と言葉がお下劣であらせられますわ。」

「さっき、恐悦の極みとか言っておらんかったか?」

「社交辞令にございます。できれば神の言葉など、聞かないに越したことはございません。」

「全く、最近の若いヤツは神に対する畏敬の念が足りぬ。」

 そりゃあ、今まで尊敬できるようなのに会ったことないし・・・


「それで、業務妨害してでもしたいお話とは何でございましょう。」

「なに、たまには若い者と話がしたいと思っておったのじゃ。」

「暇なのですね。」

「我は余暇の神ぞ。こうしてゆとりを持って暮らすことがお役目じゃ。」

「私は今、自動販売機コーナーで休憩しようとしていたのですが、他者の余暇を奪って嬉しいですか?」

「貴様は仕事中であろう。サボるのは良くないぞ。」

「だからといって、この通話も仕事とは言えません。」

「ああ言えばこう言う。本当に最近の若者は口先だけじゃ。」


「ちなみに、私の上司はダレン班長と言います。どうぞ、お見知りおきを。」

「うむ。今度呼び出してキツく指導しておくことにしよう。」

「ありがとうございます。必ずお願いします。」

「そう言えば用件だったな。」

「はい。いい加減、私も仕事をしなければなりませんので。」

「いや、特に用事があるという程では無いのだ。何せ、我は余暇の神だ」

 ガチャン。


 私はまたしても受話器を置き、自動販売機に向かう。

 そこにはジュースを飲むミントちゃんたちが・・・


「お姉ちゃんおでんわ終わったの~」

「ええ、大した用件では無かったわ。」

「じゃあ、遊ぼーよー。」

「そうしましょうか。」

 こうして小一時間ほど遊んで席に戻ると、内線が鳴った。

 取ると相手はエラリー先輩だった。


「リズポス様からご指名よ。」

「あの、名は名乗っていませんけど。」

「あれだけ無礼な対応できるの、日の出の魔女かあなたくらいしかいないでしょ。」

「異論を挟む余地はありませんね。」

「お願いね。」


「お電話代わりました。」

「おうおう、やっと戻ったか。やはり、そなたでないと暇つぶしにならぬな。」

「随分ご機嫌のようですが、余暇を楽しむのと他人の仕事を邪魔することを両立させるのはいただけませんね。」

「まあそう言うな。我ほど暇な神もおらんのだ。我の相手をしてもらうとなると、どうしてもこうならざるを得ぬ。」

「でも、窓際の神が居るではありませんか。ヒステリアとか。」

「ああ、確かにあれは暇を持て余しておるな。しかし、あんなせわしない奴を相手にしていては、余暇で無くなってしまう。」


「やはり、リズポス様でもあれは苦痛なのですか?」

「あと、竈の神も苦手じゃな。もっと楽しい会話ができる相手で無いとな。」

「私はそんなに愉快な天使ではありませんよ。」

「だが、非常にテンポがいい。ツッコミとか受話器を置くタイミングとか。とにかく躊躇が無いところが良い。」

「ええ、一刻も早く切りたいですからね。」

「ヤツらはテンポとタイミングが悪い。ただ早いだけではダメだ。使い分けるテクニックが無いと、キレ芸で他者を笑わせることはできぬ。」

「私は別に笑わせようとしている訳ではありませんよ。」

「そう、その受け狙いでないところがよい。」

「別にヒステリア様も狙ってはいないと思いますが。」

「まあ、あれはただ怒りにまかせてキレているだけだしな。」

「だから、面白くなくてもいいと思います。」


「若いの。まだまだ甘いな。だからヤツらには皆が寄って来んのだ。そして余裕の無さが焦りに、そしてキレるという現象に繋がる。」

「さすが、余裕しかない神の言うことは違いますね。」

「何事も余裕だよ。」

「しかし、何故ここに電話してきたのです?」

「余暇を楽しむために決まっ」


 ガチャン!

 さっき教わったとおり、いや、習わなくてもこういうのは得意だ。

 こうして私は化粧室に向かう。

 今日はもう終わりだ。


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