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ここにも世直し希望者が・・・

「あ~、あと一月でやっと二年だ~。」

 何をほざいているのかと笑われそうだが、私の任期は最低5年。

 こんな仕事さっさと辞めてニートしたい。


「ミントもあと一ヶ月だよ~。」

「あら、そうでした。寂しくなるなあ。」

「ナターシャお姉ちゃんが遊びに来てくれたらシナモン、寂しくないなあ。」

「そうね。B-OQ3210のライブアクション世界なら、飛行機で3時間くらいだもんね。」

「ミントもお母様にお願いして、時々ここに来る~」


 すげえな、妖精王・・・

 と、ここでいつものコールが鳴る。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「余は中世ファンタジー世界で皇帝に即位しておる、ゲオルグⅢ世だが、願いを何でも叶えてくれるお客様センターで間違い無いか?」

 かなり大間違いだと思う。


「願いが叶うとは言えませんが、カスタマーセンターでございます。」

「では、何でも願いが叶うセンターを紹介してくれ。」

「お客様、大変申し訳ございませんが、弊社にそのような組織はございません。」

「しかしそこは、神の領域なのだろう?」

「そのとおりです。しかし、全知全能は神の特権であり、その権限は弊社には与えられておりません。」

「では、神に取り次いでもらうことはできるか?」

「その世界の設定に重大なバグや欠陥が認められた場合は神に報告され、しかるべき処置が行われますが、どういったご用件でしょうか。」


「うむ。欠陥となればあまりに欠陥だらけの世界だ。だから余は寝る間も惜しんで世直しに奔走しておる。」

「それは大変ですね。それで、具体的にはどのような事をされたのでしょうか。」

「まず、貴族学校を廃止した。」

「貴族の子弟を学ばせるのは良いことだと思うのですが。」

「平民に平等な教育を施すための学園は開設準備中だ。しかし、貴人の子弟を警備不十分な施設に集めるなど危機感に欠けるし、王族と男爵の子では習得すべきものは違う。大事な時期に騎士の卵に絵を習わせることの非合理さよ。」


「確かにおっしゃるとおりですね。しかし、貴族学校が存在する世界には、貴族学校を必要とする理由があるはずなのですが。」

「我が国では結婚相手を家長が決めることが主流だ。それに、婚約者以外の異性との交流は忌避されるはずなのに、それを集めて外部の監視の目が届かないようなシステムになっておる。余も、自由恋愛が主流の世界であったなら否定はしなかったが、あまりに矛盾が酷かったゆえ、廃止した。」

「なるほど。しかし、陛下の世界は恋愛モノのストーリーが設定されているのは無いですか。」

「うむ。転生時に『魔法が叶えるキラキララブストーリーの世界』だと神から説明を受けた。」


「それなのに、学生ではなく皇帝陛下になったと。」

「いや、これでも一応、攻略対象の皇太子として転生したのだ。しかし、あまりにお花畑の設定に危機感を覚え、必死に勉学と修練、この世界の情報収集に努め、先帝陛下に認められて昨年、やっと即位を果たしたところだ。」

「それは大変立派ですね。帝国の民は大変幸せだと思います。」

「うむ。毎日忙しいが、充実はしておる。」


「それで、ヒロインとは結ばれたのですか?」

「色恋にかまけている暇など無かった。先月成婚したが、生まれた時からの婚約者だ。」

「悪役令嬢ではありませんか?」

「そうかも知れぬ。しかし、余への想いは本物だ。ならばそれで十分だ。」

「素晴らしいです。まさに完璧皇子ですね。」

「ああ、世の中にはそういったカテゴリーの者がいることは知っているが、余からすれば簡単に心変わりする軟弱者にしか見えぬ。あんなものに惹かれるなど、底が浅いと誹られても仕方無いな。」


「では、ヒロインの方は今どこに・・・」

「さて、誰がヒロインかも知らぬし、余は将来を見据えた人脈作りしかしなかったのでな。ご令嬢との付き合いは妻の領分だ。」

「さすがですね。人間離れしていて空恐ろしいほどです。」

「ハッハッハ。天上に住まう尊き方にそう評してもらえるとは名誉なことよ。」

「いえ、大半の神を遥かに凌いでいますよ。この天使ナターシャが保証します。それで、臣下は付いて来ておられますか。」

「ああ。元々がお花畑の住人だからな。皆、こちらが心配してやらねばならぬほど素直でお人好しの集団だ。しかし、それだけでは国は発展せぬ。様々な改革を実行中だ。」


「では、前の陛下との譲位もすんなり行ったのですね。」

「そもそも余が皇太子であったし、エンディング後は即位する手筈だったのであろう? 父も譲る気マンマンであったわ。」

「平和で良い国ですね。」

「そうとばかりも言えぬ。魔物や他国の脅威はあるし、民の暮らしも豊かとは言えぬ。この国と我が一族の繁栄を考えれば、立ち止まることは許されぬ。」

「ラブファンタジーの世界なのですけどね。」

「しかし、それは人生においてはほんの一瞬の輝きに過ぎぬ。大切なのは限られた人生で何を成したかであるし、人生の大半はそのために使うべきだ。」


「完全にストーリーとミスマッチしてますね。」

「人はいつでも、いつからでも恋ができるという。それは知っておるし理解もできる。しかし、平民なら生涯を賭けて恋に邁進しても良いが、為政者はそれがメインストーリーになってはならぬのだ。」

「そうですね。」

「それに、平和であればより多くのラブストーリーが生まれるではないか。貴族はそうもいかんが。」


「とても立派なお考えです。ところで、設定を変えたいとのことでしたが、具体的にはどういった点でしょうか。」

「うむ。一つはGの発生と繁殖率が高すぎるのでは無いかと思う。一匹見つけたら400匹はいると思え、というのが我が国の常識だ。」

「それはあんまりですね。」

「スライムの発生率も尋常では無い。いくら弱いと言っても5秒に一回分裂されては、軍事費の過半がそこに消えてしまう。」

「それは戦争が起きないための調整措置だと思います。弱いけど社会の維持のために大きな労力が必要な敵の存在こそ、お花畑ストーリーを支える重要な因子です。」

「しかし、そこに有能な魔術師と多くの労働力が投入されている。平和かも知れぬが非生産的だ。何とかならぬものか。」


「分かりました。その2点については上申させていただきます。」

「ありがたい。他にも色々ありはするが、あまり欲張ってもいかぬな。」

「さすがでございます。しかし、その世界の歴史にとっては、その二つの改善だけでも偉業と言えます。」

「まあ、生態系が変わるであろうからな。要望を聞き入れていただき感謝する。」

「では、陛下のこれから益々のご健勝をお祈りしております。」

「ありがとう。では失礼する。」


 こうして、ミントちゃんのコールなしに通話は終わる。


「あんな立派な方ばかりだと、この仕事も悪くないんだけどなあ・・・」

「そうね。ヒロインの行く末は気になりましたけど。」

「きっと他の攻略対象と一緒になったんじゃないですかねえ。」

「そうね。補正があるし、聞いた感じだとバッドエンドも迎えてないみたいなので、そうなのでしょうね。」


 こんなに上手く行っている世界があるのに、神が直轄管理していて滅びかける世界があるのも現実だ。

 さあ後三年、どんな世界に遭遇することやら・・・


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