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大人になりたい

「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「もしもし。僕は浦野巌志です。」

「ウラノ様ですね。ご用件をお伺いします。」


「僕はこの世界に来てかれこれ50年になるのですが、未だに小学生なんです。いい加減大人になりたいなと思いましてお電話したところです。」

 また50年か。確かに飽きる。


「所謂時間軸固定の世界ですね。そのような場合、時間を進めてしまうデメリットの方が多いため、そういった設定変更は認められていないんですよ。大変申し訳ございません。」

「では、僕だけ成長する、といったことは可能ですか?」

「それはもっと無理ですね。父親の年齢を超えてしまうと、世の理が壊れてしまいます。」

「でも、ずっと小学生は辛いです。」

「でも、子供時代が一番楽しいですよ。毎日遊んでいればいいですし、何をやっても許されますし、異性に悩まなくてもいいですし。」

「いえ、異性関係には既に悩まされています。」

「早熟ですね。」

「僕はカオルちゃんが一番のお気に入りで次が早野さんなのですが、なぜか花川さんに家族ぐるみで気に入られています。」

 ああ、あの世界だ。間違い無い。


「でも、モテないよりはずっといいではありませんか。ちなみに、お客様は何年生です?」

「5年生です。」

「今時、小学生カップルがいるくらいですからね。ほのかな恋心くらい持っていてもいいのではないですか?どうせ大人にはならないんですし。」

「憧れであれば、お隣の月江姉さんですね。」

「おませさんですね。」

「ああいった女性にはみんな憧れるのではないですか?うちの姉さんや花川さんはちょっとガサツで・・・」


「ああいう快活な女性もいいと思いますよ。しっかり・・・はしていなさそうですけど。」

「そうなんです。すぐ自分のことを棚に上げて姉ぶろうとするのが、とても痛々しいです。」

「そういうお客様も子供らしいキャラですけど。」

「まあ、毎日仲嶋と野球ばかりしてますけど・・・」

「大人になりたければ勉強も大事ですよ?」

「さすがに50年もやってると、今さら勉強なんかしなくても学年トップですよ。それに、大人にはなれないんですよねえ・・・」

「ええ、経験値は溜まる一方で使い所はありませんね。」

「ですから、大人になりたいんです。」


「でも、時間軸固定で日常系ですから、とても穏やかで良い世界だと思いますが。」

「人間、無い物ねだりをしてしまう生き物なんです。僕だって男の子ですから、冒険やヒーローに憧れますし、何より、姉さんを圧倒したい。」

「ああ、いつもぶん殴られてますね。」

「結構、理不尽なんです。僕に偉そうに言えるほどの人物では無いんですが。」

「でも一児の母です。」

「あれはアユオ兄さんがしっかりしてるからですよ。いや、しっかりはしてないかもですが。」

「いいえ、優しくていい旦那様だと思いますよ。」

「はい。それはそのとおりです。」


「ご両親も大変模範的です。」

「お姉さんから見てもそう思いますか?」

「ええ、確かに現代では珍しくなったと言えますが、時代を問わない普遍性があると思います。いいご家庭ですよ。」

「そうかなあ。ウチってホントに大丈夫なのかなと自信が無くなることもあります。」

「それはお父様が考えるべき部分ではありませんか?」

「父は古くて頑固ですからね。第一、趣味が盆栽とか囲碁ですよ。」

「盆栽や囲碁は若い人でも嗜みますよ。」

「両方やるのは大正生まれですよ・・・」

「確かに、お爺ちゃんですね。」


「母はとてもいい人なんですが、今時和装に割烹着なんて、料亭か和菓子屋にしかいませんよ。」

「でも、昭和ならまだいたんじゃないですか?」

「それでも40年代までですよ。それに、僕なんか年中半ズボンですよ?」

「今でも年中体操服の子はいますよ。」

「あれって、布をケチってるんでしょうか?」

「まあ、子供はすぐに大きくなって着れなくなるので、そういう側面はあるかも知れませんね。」

「あと、ヒラメのスカートが短すぎます。私の時代でさえ、あれはないなあと思うんですが、現代日本でも問題はありませんか。」

「お客様の番組限定で認められていますね。むしろ、今さら変えられないと言いますか、変えたら負けと言いますか。」


「引っ込みがつかなくなっているのですね。」

「そうお考えいただいて結構です。却って意識していることが視聴者にバレたら恥ずかしさ倍増、といった感じですね。」

「それで、僕たちの番組は世間でどういった評価を受けてるんですか?」

「伝統芸能と同じですね。変わらない安心感といいますか、今さら日曜夕方に別番組を放送されても困るといいますか・・・」

「それは僕の小学55年生の苦労が報われた気持ちになります。」

「私はエンディングのイントロが流れた瞬間に、月曜日を思い出して何とも言えない寂しい気持ちになります。」

「もう、お姉さんの生活の一部になっているのですね。」

「はい。目覚まし時計より強いフラッシュバック効果がありますね。」

「それは強烈ですね。」


「しかし、お客様はフラッシュバックの意味が分かるのですね。」

「はい。時代と共に新しいものも導入されてますので、スマホやAIだって知ってますよ。」

「あの変わらないように見える世界も変化しているのですね。」

「だから余計に、毎日野球ばっかりしてていいのかなと思いますよ。」

「大丈夫です。とても健全だと思いますよ。」


「僕だってマイクラやエルデンリングやってみたいですよ。」

「まずは黒電話から何とかしましょうよ。」

「そうだった。でもあれ、なかなか壊れないんですよねえ・・・」


「ちなみに、皆さん原作とは少しだけ名前が違いますけど。」

「姉さんはウツボさんです。」

「かなりどう猛さマシマシですね。」

「姉さんの子はキャビアちゃんです。」

「キラキラネームじゃないですか。」

「アユオ兄さん、そういうの好きなんだよねえ。ちなみに華美亜と書きます。」

「女の子みたいな字ですね。」

「男の子にキャビアは無いですよねえ・・・」


「じゃあ、飼い猫は?」

「ポチです。」

「あんまりです。」

「まあ、かなりふざけた設定なのは事実ですね。50年もやると慣れてしまいますけど。」

「でも、大人は辛い事も多いですし、せっかくみんなが幸せな設定ですので、今のままがいいと思いますよ。」

「そうですか。この刺激の無い生活でも幸せなんですねえ。」


「親しい友人が無慈悲に命を落としたり、気まぐれで簡単に追放されたり婚約破棄されるような世界に転生した方々が望むのは、お客様のような世界なんですよ。」

「そうですよね。」

「では、撮影頑張って下さい。」

「ありがとうございました。」


 最後はミントちゃんたちのコールに送り出されて行った。

 彼が元気を出さないと、主役が映えないんだから頑張って欲しい。


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