成長させたいのですが・・・
何故か私たちだけでは無く、班内全体が静まり返る中、次のコールが鳴る。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「もしもし。僕ヒロいもん。並行世界で未来から来たロボットをしています。」
また随分ゆっくり喋る方だ。それに若そうなのにかなりだみ声だ。
「ヒロイモン様ですね。では、ご用件をお伺いします。」
「僕は22世紀の世界からご先祖様の成長と成功を願ってやってきたのです。しかし、もうかれこれ50年も頑張っているのに一向に成長しません。どうしたらいいでしょう。」
「多分、無理だと思います。」
「そこを何とか、何とかお願いします。僕の手ではどうしようもないのです。」
「でも50年ですよ。普通ならば人として完成している年月です。もう伸び代はありませんよ。」
「でも、彼はまだ小学生です。まだまだ成長できる時間はあります。」
「そこは例の時空なのですか?」
「はい。僕たちの世界がオリジナルではありませんが・・・」
「ええ、一般的には佐々江さん時空と呼ばれますからね。」
「ですから、彼が立派な、いえ、せめて普通の良識ある大人になれるよう、アドバイスをいただきたいのです。」
「それはあなたの役目ではありませんか。」
「返す言葉もございませんが、僕ではあまりに力不足で・・・」
「そう言えば昨年、トーキョーの街を水没させたお客様がおりましたが。」
「そうですそうです。野火伸夫です。」
「よくぞご無事で。」
「はい。僕は高性能で頑丈な構造ですので、あのくらいで壊れたりしませんが、みんなは未来世界の特例措置で生き返りました。」
「それはかなりの賠償額になったのではございませんか?」
「はい。実際は国家予算級の災害救助費が掛かったのですが、全額税金で賄われました。」
「未来世界も大変ですね。」
「消費税が200%になったみたいですね。」
「10円の物が30円になったのですね。」
「はい。大変申し訳なく思っています。」
「当の本人は反省しているのですか?」
「反省はしたみたいなのですが、元来とても楽天的なので・・・」
「ああ、次の週には同じ失敗を繰り返していますものね。」
「どうにかなりませんか。」
「甘やかさなければいいだけでは?」
「でも、彼がいじめられて泣きついてくると放ってはおけません。」
「しかし、ご両親はきっちり折り目を付けておられますよね。逆に言えば、彼を甘やかしているのは貴方ですよ?」
「はい・・・」
「以前、私からも彼には忠告させていただいたのですが、相変わらずのようですね。でしたら、当方でもお手上げです。」
「僕でも限界なんです。」
「彼を矯正させるアイテムは無いのですか?」
「人間を矯正するアイテムはあるんです。でも、どんな道具をもってしても、結局は失敗して騒動を引き起こしてしまいます。」
「私はあなたの活動状況をテレビで拝見したことがありますが、全て対症療法なのが問題だと感じていました。簡単に言えば場当たり的で、根本を解決できない使い方ばかりしている印象でした。」
「でも、解決してしまっては長寿番組になれませんから。」
「問題はそこなのでは?」
「ええっ?!まさか、そんなこと・・・」
えっ?この人、マジで言ってる?
「佐々江さん時空でそんなことをしていると、未来永劫解決しませんし、未来世界の消費税率は上がる一方ですよ?」
「しかし・・・」
「あなたのその優柔不断さで、どれだけの人が不幸になってると思います?それに見合うだけの価値が、彼にあるでしょうか?」
「そこまで言わなくても・・・」
「今のままでは未来の繁栄どころか、成人と同時にのぞき魔で逮捕されるのが関の山だと思いません?」
「でも、いずれは婚姻関係になる訳ですし。」
「犯罪は犯罪です。未来から来た設定のあなたが、その程度のモラルしか持っていないことに驚きです。」
「仕方ありませんよ。原作は昭和なんですから。それに今はちゃんとそのあたりにも配慮した番組制作を行っています。」
「外部から言われて仕方無く対処しているだけではありませんか?あなた方はスタッフを含めて万事それです。もっと物事を慎重に考えること。そしてチートで反則している自覚を持って、規律を重視するとともに、人類社会に貢献する働きをしなくてはいけません。あなたが一緒になって悪ふざけしているようでは彼の成長なんて望むだけ無駄ですよ。」
「あの、僕たちが神様に罰せられることはあるんでしょうか?」
「保身はいただけませんね。」
「そうではなく、そういう対象になるかをお聞きしたいんです。」
「あなた方がしている過ちは、神が罰するような分野ではありません。しかし、神罰より苛烈な罰を人から受けるだけの事はしていますよ。」
「そ、そうなのですね。」
「それを人では裁けない、あるいは人類に自浄作用が無いと判断されたとき、神は手を下します。」
まあ、これは単なる脅しだ。
怠惰で気まぐれな神がどうするかなんて天使ごときには分からない。
所謂、神のみぞ知るってヤツだ。
「分かりました。まあ、僕の力では無理そうですが。」
「あの少年の無邪気な甘えが人類の未来を握っていると言っても過言ではありません。分かってますよね。」
「はい。」
「では、ご健闘をお祈りしております。」
「はい・・・」
手の施しようがないので、電話を終わらせてしまった。
「難しい問題ですね。」
「まあ、かなりブラックユーモアも入っていますからね。」
「そういう世界は復元力も強めに設定されてはいますが。」
「その鍵を子供と感情を有するロボットに委ねているのが根本原因ですからねえ。」
「まあ、未来世界が容認しているなら、私たちが出るべきではありませんね。」
「私もそう思います。」
まあ、きっと次の50年も同じ状態が続くのだろう。
視聴率が稼げるうちは・・・




