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ひょんな事で・・・

「もしもし、天界のお客様センターですか?」

「はい。ご利用有り難うございます。こちらは異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」


「私は、かつてない壮大なスケールでお贈りするRPG世界に転生した、溝口修平と申します。」

「ミゾグチ様ですね。少々お待ち下さい。」

 トイレから帰ってきたらいきなり仕事である。


「B-KI4205ですね。確認できました。ご用件をお伺いします。」

「あの、私、昨日偶然に聖剣を入手しまして・・・どのようにすれば良いのでしょう。」


「お客様の世界は魔王を倒す勇者が主人公の世界ですね。ミゾグチ様は勇者ではないのですか?」

「私はただの吟遊詩人で、スライムすら倒したことはありません。」

「それは困りましたね。主人公は別にいるのですね。」

「はい。始めに女神様と相談して、モブでお願いしましたから。」


「分かりました。それでは、どのような経緯で入手に至ったかを教えていただけますか。」

「昨日、旅の途中で野宿しようと考え、他の旅人が野宿した跡を利用しようと立ち寄った先で、偶然、聖剣を見つけてしまって・・・」


「よく、それが聖剣と分かりましたね。」

「はい。鞘の部分に日本語で聖剣グラディアスと書いてありました。」


「確かに、その世界には魔剣と聖剣が合計三本存在し、そのうちの一振りがグラディアスという名ですね。それに、日本語であれば少なくとも異世界人には何かの紋様としか認識されないでしょうからね。」

「まあ、油性マジックで書かれているようですが・・・」


「当然です。マッ○ーはその信頼と実績により、多くの世界で公式採用されておりますので。ちなみに、鞘の部分に書くとすればマッキ○極細がお薦めですね。」

「そうだったのですね。」

「他にもブリ○ストンやキッ○ーマンも多く採用」

「ああ分かりました分かりました。それで、僕はどうしたらいいのでしょう。」

「そうですね。警察などの公的に遺失物を扱う機関に届け出るべきですね。」


「このまま捨ててしまっても罪にはなりませんよね。」

「あなたはその剣の所有の意志を示していない訳ですから、このまま手放すことで処罰の対象となる法律は存在しませんね。ただし、捨てるという表現は無価値の物と認識していたと解され、不法投棄に当たる可能性があります。」

「法律って難しいですね。」

「そうですね。ですので、元の場所に戻すというのがスタンダードですね。」


「でも、次の街に行くスケジュールもありまして・・・」

「もし、その剣が勇者に戻らなかった場合、お住まいの世界が魔王によって滅ぼされるおそれがございますので、お薦めできません。」

「そんなにですか?でも、聖剣は他にもあるのですよね。」


「聖剣は2本存在し、初期設定では、聖剣グラディアスはバスク帝国の宝物庫にあり、もう一振りはアーレン王国のハナ神殿に保管されています。」

「では、勇者が神殿に行けば聖剣を手に入れられますから、問題ないですよね。」

「しかし、前勇者は聖剣入手の試練に失敗して勇者の資格を失い、ストーリーの進行が10年遅れたことにより、今その世界は危機的状況に陥っています。せっかく剣を手にしていたのなら、それをお返しした方が、世界のリスクは低減されますね。」


「何でそんなことになったんでしょう・・・」

「もしかしたら、ミゾグチ様はただのモブでは無かったのかも知れませんね。」

「いえ、僕はモブを希望して女神様の了解を取ったはずです。」

「しかし、そんな危険な世界にただのモブを転生させる意味はございませんから。歴史に名が残らないとしても、何らかの役割を負っていると考えるのが妥当です。」


「では、どうすればいいんでしょう。」

「勇者を探すことをお薦めします。勇者のお名前はご存じですか?」

「いいえ。」

「現勇者はミラノ・アスプリアーノ様、女性の方ですね。」


「現在地は分かりますか?」

「いえ、今は受信機の不調か、電波の届かない所にいるかのいずれかですね。それに、ミゾグチ様が剣を発見したのが遺失直後とは限りませんから。」

「それでは、しがない吟遊詩人にはどうにもなりません。」

「そんなこともないでしょう。勇者であればある一定の知名度はあるでしょうし、そこを通過したのなら、街道沿いの街に立ち寄ったはずです。ある程度の所在は割り出せると考えます。」

「わ、かりました・・・」


「お手数ではありますが、元の野営地にお戻り頂き、少しの間、勇者を待ってはいただけませんか?」

「そうすることにします。」

「お手数ではありますが、ご協力のほど、よろしくお願いします。それでは、担当ナターシャがお伺いしました。」

「ナターシャさんですね。分かりました。これからも、どうぞよろしくお願いします。」


 受話器を置いて一息つく。


 しかし、何と不運な詩人とうっかり勇者なんだろうと思う。

 カスタマーセンターに世界を救済する義務は無いが、お客様対応が結果的に世界を救うことはある。

 長期戦になるかも知れないけど、仕事だからなあ・・・やるしかないか。


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