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生意気メイド

 私は仕事をよくサボる。

 いいえ、他の職員もちょくちょく席を外す。


 そして自動販売機コーナーやお化粧室、給湯室には必ず誰かがいる。

 まあ、どの世界のカスタマーセンターも似たようなものだろうけど。

 そんな私は新たに見つけた屋上に向かう階段の踊り場から戻ってきた。

 すると、ミントちゃんたちが楽しそうに通話していた。


「シナモンもおてつだいするよー。」

「そうだよ~。おてつだいするとナターシャお姉ちゃんが褒めてくれるんだよ~」

 ヤダ何?可愛い・・・


「ミントちゃんたち、お客様とお話し中なの?」

「うん、そーなのー。」

「おてつだいさんがお手伝いしてくれないんだって。」

「じゃあミントちゃん、シナモンちゃん。いつものあれ、いっちゃって!」

「うん分かった。」

「ああああ、係員の方ですか?少し、少しお話しさせていただいてよろしいでしょうか?」

「ちぇっ!」


 もう少しで必殺技を発動させられたのに。

 しかし、お客様の要望だ。待たないわけにはいかない。


「あの、何だか歓迎されていない雰囲気なのですが・・・」

「いいえ、そのようなことはございません。では、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

「はい。デービス・マクレーンといいます。とある王国で伯爵家の嫡男をしています。」

「デービス様ですね。それではお話を伺います。」


「ありがとうございます。私には専属のメイドがいるのですが、これがとんでもないツンデレの上に私の言うことを聞かないんです。どうすればいいでしょう。」

「解雇するかメイド長に再教育してもらえばいいのではないですか?」

「いや、彼女はメイドとはいえ、伯父である子爵家の出身で、解雇やメイド長の再教育などができないんです。」


「その方は花嫁修業の一環としてそこにおられる訳ですね。」

「そうです。父は私の婚約者にどうかと考えているようです。」

「従兄弟ですよね。」

「そうでした。普段あまり意識したことありませんでした。」


「ならば、転属は可能でしょう。別に貴方がそのメイドに世話されなくてもいい訳ですから。」

「それは父に相談しましたが、聞き入れて貰えませんでした。」

「それなら、根気強く指導していくしかありませんね。」

「それが全く私の言うことなど聞いてくれません。」

「しかし、このままでは彼女があなたの婚約者です。腰を据えて本気で考えるべき時は来ています。」

「それは・・・おっしゃるとおりです。」

「彼女とそういう関係になりたいですか?」

「正直、勘弁してもらいたいです。」


「では、デービス様の前世のお名前をお教え下さい。」

「小菅雅雪です。」

「コスゲ様・・・B-RC2525、悪魔と小悪魔だらけの世界、ですね。」

「では、あれは小悪魔なのでしょうか?」

「まあ、よくて小悪魔、悪ければ悪魔でしょうね。」

「でも、優しくていい女性はたくさんいますよ。」

「まあ、その中のかなりの部分を悪魔が占めているでしょうけど。」

「何とも救いの無い世界ですね。」


「この世界は転生者男性限定の世界です。つまり、女性は全てNPCですね。その中でいかに地雷を避けるか、若しくは軽い傷でとどめるかを体験できる世界となっております。」

「私、そんな世界を望んでませんけど。」

「そもそも神から転生先の説明が無かったのでは?」

「まあ、記憶にないですね。」


「ちなみに、お客様は悪女や小悪魔にご興味は。」

「一切ありません。」

「でも、それで社会が成立しているということは、それほど絶望的な状況では無いと思いますよ。それに、人間は成長と変化を繰り返すものです。お客様がよい影響を与えれば、彼女もきっとよい方向に変化すると思いますよ。」

「なるほど。そこに賭けよと。」

「はい。最早それしかありませんしね。」

「・・・」


「それで、彼女は生意気メイドということでいいのですね。」

「はい。」

「では、仕事を種類と出来映えによってランク付けし、ポイント化するのです。その獲得ポイントを月給にしてください。」

「仕事させる訳ですね。」

「もちろん、屋敷全員公平にしないといけませんし、職種毎のバランスもありますから、制度設計は手間が掛かりますが、これで仕事をやらざるを得なくなります。」

「そうですね。それなら言うことを聞かせなくてもいいんですね。」

「はい。したくなければしなくていいでしょう。給料が欲しい他の方が進んで肩代わりしてくれるはずです。そんな彼女を当主がどう見るかですね。」


「なるほど。花嫁修業を真面目にしていないことが数字ではっきり出る訳ですからね。」

「もちろん、彼女が立場を利用して他者の働きを横取りしてしまう恐れはありますから、複数の客観的なチェック体制は必要ですよ。」

「分かりました。それで、彼女が見た目通りのツンデレである可能性はいかがでしょう。」

「小悪魔ならそれはないと思います。全て計算されたもののはずです。」

「なるほど。しかし、私の気を引くためにツンとデレを使い分けてくるかも知れませんね。」


「お客様の前でデレたことはありますか?」

「はい。ごくたまに甘い雰囲気になります。」

「では、そういった素養は持ち合わせているのでしょう。」

「しかし、その実は計算によるものだと。」

「はい。小悪魔ですから。」

「いいとこなしですね。」

「でも、大事なのは彼女があなたを本当に愛しているかどうかです。そこさえ確かな者なら、悪魔でも小悪魔でも関係ないと思いませんか?」

「私のためなら、ですが・・・」

「そして、あなたも彼女のことをどう大事にしてあげられるかです。」

「どちらも前途多難です。」


「まあ、お互いいろいろ経験して誰とこの先やっていくのか、時間を掛けて見極めて行って下さい。あなたが信じるに足ると思えるかどうかが重要ですよ。」

「まあ、その二種類しかいないんですからね。」

「何処の世界でも似たようなものですよ。」

「なるほど・・・ ありがとうございました。」

「では最後に。ミントちゃん、今ですっ!」

「が~んばれ!が~んばれっ!が~んばれっ!」

「あの~、ミントちゃんみたいな子、この世界にはいないのでしょうか?」

「良く似た悪魔なら、そちらにもいると思いますよ。」

「・・・」

 電話は終わった。


「ねえねえお姉ちゃん。ミントに良く似た悪魔がいるの?」

「大丈夫。どんな悪魔もミントちゃんたちには敵わないよ。」

「えへへ~。またお姉ちゃんに褒められちゃった。」


 実際の人間は悪魔と小悪魔しかいないし、それがちょっとだけ大げさに味付けされた世界なんだろうなと思う。

 だって、悪魔なんて人間の一つの特性を凝縮した存在に過ぎないし、それでも世界は今日も続いているんだから・・・


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