異世界怪盗
年が明けた。
一部の真面目な天使は、多国籍な7人の神様のために神殿へお参りに行くらしいが、もちろん私はそんなことしない。だって彼らは天使なんて気にしない方々だし。
もちろん、私の周りをパタパタ飛んでいる二人の妖精も気にしていない。
彼女たちは元来とても自由なのだ。
遠くから見ると、何だか私が神になったかのような絵面だ。
彼女たちに話しかけようとした瞬間、コールされる。
本当にこういうことが多い。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「いいねえ。さすがコールセンターだねえ。俺はワルセーヌ・ジャパン。怪盗だぜ。」
「異世界に転生してまで盗みを働いているのですか?」
「おいおい、いきなりだねえ。可愛い子ちゃんにはトゲがあるのかなあ?」
「残念ですが、私にはあなたが期待しているような可愛らしさはございませんよ。」
「つ~れね~な~。まあ、そこは俺と楽しいお話をしながら追々と。」
いや、確かに私も可愛いと言われたことはあるが・・・
「それで一応、ご用件をお伺いしますが、犯罪を助長するようなご要望にはお応えできません事を、あらかじめご了承願います。」
「真面目だねえ。息、詰まらない?」
「詰まりますし、早く辞めたいとは思っておりますが、今は仕事中ですから。」
「そこは正直なんだね。いいよ~。」
「それで、ご用件は。」
「いや、俺はアンタの思ってるような悪人じゃねえんだ。まあ、怪盗だから盗みが本職ではあるんだが、できるだけ悪人からしか盗みはしねえ。一般のお宅に忍び込んだことはないし、どっちかって言うと、トレジャーハンターに近いんだ。」
「でも、近いけど泥棒なんですよね。」
「それを言っちゃあおしめえよ。」
「江戸っ子なんですね。」
「一応、設定はフランス人だけどな。」
「名字がジャパンなのにですか?」
「いや、語呂が良いかなあと思ってさ。」
「フランスならジャポンではありませんか?」
「いやあ、日本人ならルパンって呼ぶじゃ~ん。」
「お客様のおられるのは日本ですか?」
「いやあ、20世紀のパラレルだぜ。もちろんヨーロッパに住んでるぜ。何故か埼玉県警のパトカーに追われてるけどな。」
「それはヨーロッパに見える埼玉県なのではないですか?」
「いやあ、埼玉は田舎だろう。」
「それは50年前のイメージではないでしょうか。」
「だって県だぜ。都でも府でもなく。」
「ところで、お客様のお住まいは?」
「映画で有名なカンヌだ。」
「田舎町じゃないですか。」
「だけどコートダジュールだぜ。モナコに近いし、金持ちが多いんだ。」
「一般家庭には忍び込まないんじゃ無かったのですか?」
「いやあ、悪人だらけだぜ。可愛い子ちゃんも多いけどな。」
「しかし、あなたが本気で追いかけている女性はあの方だけなでは?」
「いやあ、さすがに彼女はもういい歳だからさあ。だからどうだい?今夜あたり。」
「お断りします。特にご用がなければ業務に支障もございますので、これで失礼いたします。」
「まあまあ、せっかくだからもう少し話そうぜ。」
私は、電話の保留ボタンを押して近くを飛んでいるミントちゃんを手招きする。
「な~に~、ナターシャお姉ちゃん。」
「ちょっと、このおじさんのお相手頼めるかな。」
「うん、いいよ~。」
ここで選手交代だ。
「おいおい、急に話を切るなんて酷いぜ。」
「おじちゃんこんばんわ。ミントだよ~。」
「おいおい、今度は子供かい? 残念だけどおじちゃん、子供はちょ~っと苦手なんだよなあ。」
「ミント大人だよ。28才だもん。」
「そうなのかい? 声だけ聞いたら5才くらいだぜ。」
「妖精さんはみんなそーだよ~。」
「妖精さんか~、そりゃあ凄いじゃないか。」
「ほめられちゃった。それでおじちゃんは何で困ってるの?」
「最近、警察の捜査技術が上がって仕事がやりにくいんだ。監視カメラも増えてるし赤外線センサーも当たり前に付いてるんだ。これを打ち破るチートが欲しいんだが、何かないかな。」
「お巡りさんと仲悪いの?」
「泥棒さんだからね。」
「悪いことしちゃダメなんだよ?」
「おじさんは悪いことなんてしないさ。ジャパンⅢ世って見たこと無いかい?」
「ミントは若いから、知らない・・・」
「それは残念だなあ。ところで、さっきのお姉さんはもういないの?」
「しつこいおじさんは嫌われるって言ってたよ?」
「ええ? おじさんはしつこくないよ~。ただ仲良くなりたいんだよ。」
「じゃあじゃあ、二人が仲良くなれるようにミントがお祈りしてあげるね~」
「そりゃあありがたいねえ。頼めるかい?」
「いいよ~、が~んばれ、が~んばれ、が~んばれ。」
「何か、泣けてくるねえ。」
「これで大丈夫。モテモテさんになれるよ。」
「いやあ、残念ながら無理じゃないかなあ・・・」
「そうかあ~、泥棒さんでも心は盗めないかあ~」
「そうだねえ。そういうのは盗めたことないなあ。」
「じゃあがんばってね~、バイバ~イ!」
「お~い!」
通話は終わった。
ミントちゃんはいつもそこそこのところで電話を切る。
きっと天性の才能を持ち合わせているに違いない。
「お姉ちゃん、終わったよう~。」
「お疲れ様。今日も良く頑張ってくれて偉いね。」
「またまた褒められちゃった~。」
「本当に凄いと思うよ。泥棒さんもタジタジだったしね。」
グミとジュースをご褒美にあげて、私は自動販売機に向かう。
ちなみに、さっき埼玉県警に通報しといた。




