人間不信の冒険者たちの魔王討伐
この半年で、神は信用できないが天使と妖精は信用できるということが再確認できた。
私のこれから長い天使生において、これは大きな経験だし知識だ。
などと、深く考えている時に限ってコールは鳴るものだ。
「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」
「・・・・・リアン・リュージュ・・・・」
「リアン様でよろしいでしょうか。」
「ああ・・・」
何だろう。電話したくなかった?
「あの、ご用件をお伺いしますが。」
「聞いてくれるのか?」
「はい。お伺いいたしますが。」
「信じていいのか?」
なら、電話してくるなよ・・・
「俺は、いや、俺たち、いややっぱり俺は誰も信じられねえ。」
「そのようですね。」
「今まで裏切られてばかりで人間不信だからな。」
「大変申し訳ございません。最初からお話いただいてよろしいでしょうか。」
「最初・・・なんだが。」
どうやら、人間不信に口下手がミックスされている、大変厄介なタイプのようだ。
「失礼いたしました。」
「もう、神も信じられねえ。魔王がいる大変な世界だけどみんな素朴だって言ってたのに、俺は彼女に棄てられ、勇者パーティーからも追い出され、国を追放された。みんな嘘ばっかりだ。」
「それは大変でしたね。どうやら冒険者のようですが。」
「ああ、俺は魔法剣の使い手だ。」
「それで、今は違う国で冒険者をしているのですね。」
「そうだ。」
「ソロですか?」
「いや、仲間、じゃない、同行者が4人いる。」
人間不信に口下手に、さらに面倒臭ささが加わっている。
「パーティーは組めているのですね。良かったですね。」
「いや、みんなパーティーを追い出されて行き場が無いから行動を共にしているだけで、仲間ではない。」
「でも、力を合わせて依頼をこなしているのですよね。」
「何故か、結果的に、終わってみればそうなっている。」
それを仲間と言ってはいけないのか?
「それで、何かお困り事があるのですよね。」
「武器と道具のランクが低い。あと、メンテができない。」
「資金不足ですか?」
「いや、武器屋が信用できない。法外な値段かも知れないし。だが、戦闘中に使えない武器は命にかかわる。」
うん、人間不信と口下手に面倒臭くて心配性な方だ。
「しかし、メンテや更新はいつかしなくてはなりません。」
「だから困っている。信用できる武器屋の見分け方を教えてくれ。」
「口コミなどを参考にしてはいかがでしょう。」
「人に聞けない。信用もできない。」
もう、人間社会で生きていくことを諦めた方が良いレベルで深刻だ。
「でも、ギルドにいたら武器防具の話題は聞かなくても誰かが勝手にしているのではないですか?」
「そうか。 いや、俺はあなたを信じていいのか?」
さすがに勘弁して欲しい・・・
「まあ、明日ギルドで試すだけならいいのでは無いですか?仮に私が嘘を言ってたとしても、あなたに損害は無い訳ですし。」
「それは・・・いや、上手い話には必ず裏があると思うんだ。」
「それを今、私に喋っている時点でダメだと思います。」
「そりゃあ、俺は正直者で、それが故にこんな目に遭っているからな。」
「そうですか。では、ギルドに行ってみれば分かりますよ。そして、同行者にも教えてあげて下さい。」
「無理だ・・・ お互いそんな信用はない。」
「まあ、あなたの武器がいい物に変わったら、彼らにも伝わりますからね。」
「そうか・・・」
「同行者のこと、お嫌いなのですか?」
「いや、彼らはまだ私を裏切ってないから。もしかしたら本当にいい人だっていう可能性も無くは無いし、少なくとも彼らの行く末が気になることも今後、あるかもしれないような気がしてる。のだろうか・・・」
どうやら、人間不信の口下手で面倒臭い心配性な上に、素直じゃ無い人だ。
きっと、多くの人に沢山の誤解をさせて、ここまで来たんだろうなと思う。
「それで、最終的には魔王を討伐するのですよね。」
「ああ、勇者が信用できないから。だが、魔王が悪と言うのも・・・」
「あの、お止めになった方がよろしいのではないでしょうか。」
「ああ、もう少し様子を見た方が、いや、信じていいのか?」
こんなに自問自答する人、初めて見た。
「お客様が一生懸命考えて残った一つが正しい答えですよ。」
「いつも二つ残るんだが。」
「あなたの悩みはいつも二者択一のように思えます。つまり、いつも答えが出ていないといえます。しかし、それが今のあなたの限界であり、もっと真剣に考えないと答えは一つになりません。信じるか信じないかは、貴方次第です。」
「いや、信じるか、信じないか、う~ん。」
「今、考えていると言うことは、私の言うことを信じている証ではありませんか?」
「いや、そんなはずは、いや、そうなのか?」
しまった。失敗した・・・
「まあ、時間は沢山ありますからいくらでも悩んで下さい。」
「そうすれば、人を信じられるということか?」
「それは分かりません。ですが、自分で考えて出した答えは嘘をつきません。今の私に言えるのはそこまでですね。」
「分かった。ありがとう。」
「でも、自分の命が大事なら、武器防具は必ずきちんとしたものを取り揃えて下さい。」
「ああ、礼を言う。」
こうして、何ともしまらない電話は終わった。
「ねえねえお姉ちゃん。さっきの人、賛成の反対なのだ~みたいな人だったね~。」
うん。よく分からんけど分かる。
「よくそんな昔のネタ知ってたね。」
「うん、シナモンお姉ちゃんは42才だよ~。天界の生き証人だよ~。」
「いやいや、あれを知ってるのは50代以上だよ。」
「褒められちゃった~」
妖精達は喜びの舞を舞っている。
「素晴らしく優柔不断な方でしたね。」
「ええ、人間不信が極まっていましたが、それよりも、自分で何も決められないことの方が深刻でした。」
「そうですね。木から目を背け、森であることすら気付いていませんでしたね。」
「随分人生を損してました。」
「人は一人では生きていけないのですから、最終的にはどこかで人を信じないといけないのです。」
「そうでした。」
「でも、今まで生きてこられているということは、どこかで誰かが助けてくれていたはずです。それに気付けばいいだけのことです。」
「同行者がいつか仲間になってくれるといいですね。」
まあ、人間不信の口下手で面倒臭い心配性な上に、素直じゃ無い人だけど、純粋ないい人だろうから、きっと命を落とす前に気付いてくれると思う。だろうか?いや・・・




