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さまぁし過ぎて恨まれてしまいました

 今年もまた憂鬱なクリスマスがやってくるなあ、なんて考えてる。

 皆様の予想どおり、天使は概ねこのイベントが嫌いである。


 付き合っている異性がいないやっかみもあるが、理由のほとんどはとある神にイベントの盛り上げを強制されてウンザリなことと、それに伴う過重労働のせいである。


 でも、そういう被害を受けていない一般の人たちにとっては、意中の相手を射止めるチャンスだったり、楽しいお祭りだったりするので、天使のぼやきは全く共感されない。


「ナターシャおねえちゃん、クリスマスは一緒にぱーりぃしようね。」

「ミントちゃん、そんなお下品な言葉、どこで覚えてきたの?」

「うん、ハロウィンの掲示板に書いてたー。」

「パーティーよりぱーりぃの方が楽しそー。」

「でも、ウチはクリスマスってすっごく忙しいんだ。みんなとパーリィは難しいかな。」

「残念・・・」

「シナモンもお姉ちゃんと一緒がいいのに・・・」


 そう言われるとクリスマスがちょっと楽しみになる自分に腹が立つ・・・

 と、ここでコールが鳴る。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「私、異世界で皇帝をやってます。ミネルヴァ・アルマンドと申します。」

「ミネルヴァ様ですね。ご用件をお伺いします。」


「はい。私は濡れ衣で悪役令嬢にされてしまった女性がリベンジを果たす世界で主役をやっておりまして、困難な道のりでしたが何とかミッションをクリアして復讐を果たしましたが、どうやら少々やり過ぎたみたいで、かなり恨まれているようなんです。」


「それは大変ですね。いえ、お疲れ様といった方がいいでしょうか。」

「ありがとうございます。しかし、私も周囲も皆、疑心暗鬼で、忠誠心もへったくれもありませんし、民からは暴君と恐れられています。」


「まず最初に、復讐を行うきっかけと復讐相手はどのようなものだったのですか?」

「はい。私は公爵令嬢として生まれ、従兄弟である皇子の婚約者でしたが、彼が子爵家出身の聖女に入れ込み、私に冤罪をかけて婚約破棄したのです。」

「まあ、良くあるストーリーですね。」


「はい。私に無理矢理政略結婚を申し入れてきた前の皇帝夫妻も家族もあっさり私を見捨て、皇宮内では冷遇され、断頭台に送られる前に市中引き回しをされたのですが、市民に石を投げられ、本当に私が何をしたんだというくらい、酷い目に遭いました。」


「なるほど、これもよくある話と言えばそれまでですが、実際には過酷ですよね。」

「ええ。もちろん、そういうシナリオだということは納得してここに来ましたが、さすがに復讐を決意せざるを得ませんでした。」

「しかし、何とか処刑を免れたのですよね。」

「いえ、処刑されましたけど時間自動巻取り機能によって婚約前の8才に戻ったのです。」


「ならば、婚約回避を画策するストーリーだったのですね。」

「基本はそうですが、どうしても皇族や家族を許すことができませんでした。」

「でも、巻戻った世界では、彼らはまだ無実の人々ですよね。」

「私も冤罪だったのですよ。」

「お気持ちは分かりますが、未来を知らない人にとって、ミネルヴァ様の振るまいが理不尽に見えるのは仕方無いと思います。」

「確かにそうでしょうけど、私の気持ちが収まらなかったのです。」


「それで、具体的にはどのような事をされたのでしょうか。」

「まずは公爵家の部下を使って裏社会にツテを作り、魅了の魔導書を入手して、周囲に味方を増やしていきました。」

「上手いことを考えましたね。」

「もちろん禁術書でしたけどね。その後、クーデターを起こし、皇族を全員捕らえ断頭台送りにし、刑を執行後に軍を突入させ、集まった群衆を皆殺しです。」

「それはさすがにやり過ぎでは?」

「ああいう所に集まる者はいつも同じでしょう。きっと多くは私の処刑を喜んだ者達でしょうから、全く躊躇いはありませんでした。」


「それならきっと、それでは済まなかったのでしょう?」

「はい。その後は宮廷内の粛清をして、最後に騎士団員や軍の幹部、実家を使用人もろとも粛清。さらに聖女におもねっていた貴族たちも根絶やしにして今に至るということです。」


「徹底しましたね。しかし、それでは国力がガタ落ちではありませんか?」

「でも、数百万人いる人口の1%未満です。」

「貴族を粛清するというのは、数字以上の影響がありますよね。」

「ええ、人材については能力重視で選んで、魅了した後で使いますので、そこは大丈夫なのです。」


「では、どこに問題が?」

「とにかくあちこちに私を恨んでいる者が潜んでいるのです。それを全て粛清すれば全国民を疑う必要が出てきますし、私に対する恨みを知る方法はないのです。」

「鑑定魔法みたいな物は無いのですか?」

「鑑定魔法では人物の思想などは分からないのです。」

「まあ、皇帝ともなれば、誰であっても暗殺の危険と隣り合わせですからね。」


「しかし、恨みを晴らせても平穏にはならないものですね。」

「そうですね。修羅の道は地獄以外に繋がっていませんから。」

「やはりそうなんですね。」

「でも、悔いはないのですよね。」

「はい。この行動を取らない選択肢が私にはありませんでした。」

「ならば、その道を進みつつ地盤を固め、これからは名君として良い国を作るしかありません。」

「それで何か変わりますか?」

「いえ、変わらないでしょう。しかし、国のトップになった以上、そうする義務が発生したのです。」


「なるほど、消した人の責任を私が肩代わりしないといけませんね。」

「ええ、そして、歴史上にはあなたのような為政者もいました。決して途中で投げ出すことなく、これからは人々に幸せを届ける君主になってください。」

「分かりました。きっと地獄行きでしょうが、生ある限り頑張ってみます。」


 こうして通話は終わった。

 こういう過激なざまぁのストーリーも良くあるが、それをやりきったその後を知ることは少ない。


 実際は目的を達成した後も、血で血を洗う生涯を送るんだろうなあと思うと、やるせない気持ちになる。

 いくら希望者がいるといっても、神がそんな世界作るなよ、とも思うし、作って無くてもそういう世界、そういう国は出てくるんだろうなあと空しくもなる。


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