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クラスのみんなと

 今日で就職して丁度2ヶ月。


 辛い毎日ながらも、何とかやってこれた自分を褒めてやりたい、なんて思っていると、今日初めてのベルが鳴る。


 最初の頃は、これが鳴る度に棟がキュッと締め付けられていたが、幸いな事にこれにも慣れた。


「ご利用ありがとうございます。異世界転生カスタマーセンター、お客様サービス係でございます。」

「もしもし、僕は新川貢と言う者です。」

「シンカワ様ですね。客様の情報を確認しますので、少々お待ち下さい。」

 マニュアル通りのテンプレ対応だが、これにも慣れた。


「確認できました。B-ES0007の世界ですね。では、ご用件をお伺いします。」

「僕は一月前に高校のクラスごと転移した者なのですが、クラスメイトに特に思い入れは無いので一人で暮らしたいのですが、抜けられなくて困っているのです。何とかなりませんか。」


 実はこの手の相談は多い。

 学校のクラスなら派閥や険悪な仲の者もいるだろうし、不特定多数を路上で拉致した場合などは、そもそも結束力が皆無なのだ。


「皆さんは今、どのような状況に置かれているのですか?」

「私たちはマキア王国に召喚された勇者候補生で、魔王討伐の戦力として召喚され、今は騎士とともに武術などの訓練や語学講習を受けているところです。」

「王国が管理しているのであれば、そもそも抜けることは難しいのではないですか?」

「クラスの中には勇者、聖女、賢者、剣聖の候補は既にいまして、それ以外の者は大して期待されておらず、離脱は可能だと思っています。」


「皆さんはどのようなお考えを持っておられるのでしょう。」

「この世界で唯一無二の間柄なんだから、みんなで協力し合って生き残るべきだって言うんですけど、僕はクラスに友達がいないので、そこまでの思い入れが無いんです。」

「そういう方、クラスに必ずいますね。」


「危険な冒険なんてする気はありませんし、王国の勝手な都合で呼び出されたんだから、後はせめて自由にさせて欲しいんです。」

「そうですか。それを王国の関係者に要求することは可能ですか?」

「いえ、脱走して逃亡するほか無いと思っていますが、僕は間違っているんでしょうか。」


 それは何とも言えない。

 転生の場合は神が強く関与し、転生予定者の希望を聞いて送致するのだが、異世界召喚はほとんどの場合、人間が勝手にやってしまい、やむを得ず天界が事後承諾するケースがほとんどなのだ。


 もちろん、どの世界でもこういった神が関与できない抜け駆け的なものは禁術指定し、違反者には厳しい罰則を設けているのだが、現実には突発的な魔王復活など情状酌量が必要なケースも多く、罰則が有名無実化している現状にある。

 このため、禁止しても人間が密かに術を開発・使用する事案が度々起こる。


 そして、召喚魔法には度々自動チート付与の術式が組み込まれることが多く、召喚した世界もこの禁術に手を出した後、大いに混乱することが多い。

 つまり、この手の転移は、使う側も転移者の側もリスクの高い行為なのである。


 そして、突然巻き込まれた者やその家族にとっては迷惑この上ない行為だし、ましてや彼のように勇者でも何でも無いモブ転移者にとっては何のメリットも無い話である。

 だから、敷かれたレールから離脱したいという気持ちも分からないではない。


「いえ、そういうお考えを持たれる方は一定数おりますし、境遇を考えればやむを得ないとは思います。」

「どうせなら塾やサークルなら、仲の良い人もいるので良かったのですが。」


「シンカワ様のクラスにそういった方はいないと。」

「はい。元々クラスでも隅っこで大人しくしてただけですし、いけ好かないヤツが多くて、とてもストレスの溜まるクラスなんです。」

「では、誰か同志を募ってということではなく、単独で離脱されるということなのですね。」

「はい。彼らと四六時中一緒にいるのはストレスが溜まりますので。それで、元の世界に帰る術を知っていれば教えて欲しいです。」


「B-ES0007において、送還魔術を開発した者はおりません。」

「では、不可能という訳ではないのですね。」

「もちろんです。ただし、召喚は必要に駆られて編み出されますが、わざわざ送還魔法に手間暇掛ける者がいないだけです。ちなみに、送還魔法も天界の公式見解では召喚魔法以上のタブーとなっており、禁術指定されております。」

「何故ですか?」

「他の世界への干渉や侵略行為を防止するためです。」


 そう、召喚魔法は情状酌量の余地があるが、他の世界への侵略に対する天罰は苛烈であり、過去には罰によって消去された世界があるほどだ。

 だから、通常は異世界からの侵略なんて心配する必要はないが、転移者にとってはとても辛い情報だろう。


「でも、個人で異世界間を行き来している人はいると思うのですが。」

「はい。実際にはごく少数ながらそのような者は確認されております。ただ、個人的な使用程度なら黙認しているのが実情です。」

「取り締まりは可能ということですね。」

「その気になれば、亜空間に入った時点でそこに閉じ込めて終わり、なんてこともできますよ。問題になるのはその使用目的や世界への危険度ですね。」


「それらは誰が編み出したものなんでしょう。」

「稀に個人で開発できてしまった事例はございますが、多くは偶然か、神が与えた空間魔法がチート過ぎて予想以上の効果が発揮されたか、システムエラーにより誤って繋がってしまったスポットを発見したかのいずれかです。」


「では、不可能ではないのですね。」

「しかし、召喚同様、異空間の移動は非常にリスクを伴うものです。そもそも不安定で空間として存立できないから亜空間なのです。皆さん、便利な貯蔵庫くらいの認識ですが、神が想定していない術式の違法改造や目的外使用は是非ともお止め下さい。」


「ポイントを探すのは違法ではないのですよね。」

「はい。」

「では、クラスメイトとは無関係の場所を旅して、そういった場所を探し続けようと思います。」

「まずは脱出してお一人になることからですね。」

「演習中など、単独行動を取る機会はいずれ訪れると思います。」

「そうですか。ご健闘をお祈りいたします。」

「ご教示ありがとうございました。」

「では、担当ナターシャがお伺いしました。」



「集団転移なんて、愚か者の後始末はいつも大変です。」

「人間はもちろん、神もちょくちょくやらかしちゃうんですよね。」

「ええ、その不始末を隠蔽するために、一番チェックが緩くて人口の多い地球から転移させるのよ。」

「あそこは多くの神の共同管理なので、厳密な人数管理が徹底されていないですものね。」

「ええ、各神が直接管理している世界から転移させたら、神同士の喧嘩が始まってしまいます。」


「その点、地球は都合が良いのですね。」

「特に日本は神も人も数が多く、古来よりカオスでしたから、手を出しやすい地域なのです。」

「そんな国であんなものが流行るから余計にですね。もしかして、ラノベの流行って・・・」

「いえ、神はそこまで干渉しませんよ。みんなズボラですから。」


 これからも同じようなケースの相談が続くんだろうな。

 そういう意味では今日経験できて良かったと思う。


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