一番行きたくない所に配属されちゃったなあ・・・
私の名前はナターシャ。天使見習いよ。
今年の春に天国高校天使養成科を卒業した18才。
この世界ではまだ卵と同じね。
まだやっと見習いになった程度だから、天使を名乗ることはできなくてただのナターシャよ。
それで、高校を卒業したまでは良かったんだけど、私が配属されたのはカスタマーセンター。
はっきり言ってここ数十年、不人気職業ランキングで首位を独走し続けているブラックな部署だったの。もう、気分は最悪よ・・・
確かに、私は魔法も飛行技術も中の上くらいの成績だったけど、座学は頑張って一桁台の成績だったのに、どうして私だけここなのよ。
私の友達の多くは、花形であるメッセンジャーやソルジャー、神様のお世話係に配属されてるって言うのに・・・
そして私は今、入社式を終えてデスクのあるフロアで責任者である女神様からオリエンテーションを受けてるところよ。
先輩の見習い天使さんたちは、電話の受け答えをしてるわ。
「はい、みなさんよろしいですか?ここが今日からあなたたちの職場となる、カスタマーセンターお客様サービス係のフロアです。」
学生時代に職場見学したことがあるし、様々な世界の実情もビデオで見たことがあるから、おおよその想像はつくけど、ここは一般的なオフィスとあまり変わらない造りね。
書類は少なくて、パソコンとモニター、そして電話が机の上に並んでて、一人一人の距離が近い配置ね。
「ここでお客様からの要望や苦情、システムエラーの報告を聞き、重要なものを班長に報告・指示を受けて対応するというのが、あなたたちの仕事です。」
「勤務時間はどのようになっているのですか?」
「24時間体制ですので3交代で基本的に残業はありません。」
この基本的にというのがブラックのブラックたる所以ね。残業が基本な訳ないじゃない。
でも、下っ端の見習いに対応可能な案件なんかほとんど無いだろうから、定時に仕事が終わるなんて考えない方がいいわ。
だって、ここの見習いで過労死した天使見習いだっているんだから。
天使って死ぬの?ってフツーに死ぬわよ。
ソルジャーだと悪魔との戦いで容赦無く傷つくし、大天使様は別として、天界で天使は最下層だからね。天国も楽じゃないのよ。
「では、アリサさんが8時から17時、ナターシャさんが16時から25時、マリアンさんが0時から9時までのシフトでお願いします。」
「はい。」
「では、お客様サービス係の皆さん、手が空いている方だけで結構ですので注目して下さい。」
電話対応中の職員以外はこちらを向く。
「ここに並ぶ三名が、今年の新卒者です。左からアリサさん、ナターシャさん、マリアンさんです。それぞれ先輩として、適切なフォローをお願いします。」
「はい。」
「では私はこれで失礼するわ。後は班長、お願いね。」
「畏まりました。女神様。」
女神様は颯爽とオフィスを後にする。
「ではお三方、こちらへ。」
私たち三名は、フロア中央のソファーに案内される。
「私が第1班のリーダーを務めるダレンだ。今日からよろしく。」
「よろしくお願いします。ダレン様。」
「まあ、見ての通りの仕事だ。対応マニュアルはパソコンから見ることが出来るんで、時間のある時に読んでおくといい。」
「どんなお客さんが多いのですか?」
「色んな転生者がいるけど、ウチが顧客対応するのは、前世の記憶を引き継いだ所謂『持ち越し様』になる。彼らは様々な出自を持ち、様々な世界に転生しているので、悩みや要望も十人十色だよ。」
「忙しい時間帯はあるのですか?」
「やはり日中は忙しいね。夜は件数こそ少ないが、酔っ払いが多い。朝方は少ないね。夜に強く朝に弱いというのがここ50年の傾向だね。」
酔った客に絡まれるのかあ・・・
「給料や昇進はどうなのでしょうか。」
「そうだね。俸給についてはメッセンジャーと同一だね。昇進については、最短で3年で主任になる道はある。それと、最低5年は転職できない決まりになってるから、辛いとは思うが頑張って欲しい。」
5年かあ・・・
いくら天使の寿命が長いとは言っても、青春時代がお客様からの苦情で塗りつぶされるのはヤダなあ。
「それと、これは服務とハラスメント対応マニュアルだ。うちは福利厚生もしっかりしてるから、世の中のイメージに惑わされること無く、しっかり勤めて欲しい。」
入社初日はこれで終わった。
私は自室に戻るとベッドに倒れ込む。
今日は天使生で一番気疲れしたわ。
明日からはこれが毎日だと思うと本当に憂鬱・・・
だいたい何で私がお客様係なのよ。
カスタマーサービスだって、神様がちゃんとした世界を作ってれば必要無いものなんだから。
神様ってのは全知全能なの。
でも、人と世界が欠陥だらけなのはみんな知ってるよね?
神様って結構大らかと言うかいい加減なのばかりだからこういうことが起こるの。
その後始末を下っ端の天使がやってるというのがこの世の真実よ。
第一、悪魔との戦いだって神様が本気になればあっという間に片付くのに、天使を派遣してチマチマやってるから終わらないのよ。
だってあっちの親玉って堕天使とかハエでしょ?
天使を顎で使ってる神なら楽勝のはずよ。
そんないい加減な世界を作っておいて人には創造主なんて偉そうに振る舞ってるのよ。
しかも失敗してるのに「神は世界に干渉しない」って仕事しないし、その上でカスタマーサービスセンター作って天使に処理させるし、神なんて社会不適合者の集まりよ!
なんて愚痴っても仕方無いからもう寝るわ。
あ~、明日なんか来なけりゃいいのに・・・