いつものバイト先での出来事
藤花先輩と共にモデル現場を見学した後、藤花先輩は春の家に入り浸るようになった。平日は大学終わりでも仕事終わりでも来るようになり、休日には家に来た事はない。理由は気になるが彼氏でもないただの後輩がでしゃばるべきではない気がするので話さないようにしている。今日は藤花先輩が大学へ行く日で、僕はバイトへ向かう日だ。バイトの時間に間に合うように時間ギリギリまで家で映画を鑑賞する。最近まで映画やドラマなど興味なかったが、藤花先輩のおすすめされたドラマを鑑賞するためにサブスクしてテレビ画面で平日の夜中に一緒に観ていた。毎回一線を越えるかも知れないから自分の心と対話している。
(僕には好きな子がいる。好きな子がいるんだ…)と自問自答を繰り返す時がある。
午後まで時間を潰していると遅刻しそうな時間帯だった。玄関でスニーカーを履いて出て鍵を閉めてバイトへ自転車で向かった。自転車を走らせて約十分バイト先へ辿りついた。
【喫茶・菫】と掲げていた看板の扉を開け中へ入ると、花野さんが中で待機していた。
「おはようございます!」
「おはよう梅田くん。店長は中で準備しているよ」
「わかりました。挨拶しに行ってきます」と厨房に移動すると店長がプリンやチーズケーキの支度をしていた。
「おはようございます!店長」
「梅田君じゃないか!最近遅刻ギリギリだよ大丈夫かい?」
「最近疲れているかも知れません」
「疲れていたら休んでもいいからね」
「お気遣いいただきありがとうございます。それでは制服に着替えてきますね」と小さいロッカールームで制服に着替えた。
制服に着替えて店の外で出て扉の前にメニューを置いて店内へと入った。
「店長!店開けました」
「ありがとう。梅田君」
「いらっしゃいませ」とさっそく六十代ぐらいの女性がご来店した。このお客様はよく読書しに訪れ同じホットコーヒーとチーズケーキを頼む人だ。店長も分かっているそうで既に準備を終えていた。
「梅田君。あちらのお客様の分」とトレーに置いていた。僕は運んでおばちゃんの席に置いた。
カランコロンと次に訪れたお客様は三十代ぐらいの男性だ。このお客様もほぼ毎日よく来る。一体何の仕事しているかわからないがいつもスーツで来るので休憩として利用していると思う。そして注文もいつも通りで、プリンとアイスコーヒーだ。花野さんがプリンとアイスコーヒーを提供していた。
店を開けてから三十分ぐらいはこうして常連客が来るので対応に忙しいが、常連客の対応が終えると暇になり店長や花野さんと話している。
「結とは上手くいってるの?」と暇になったタイミングで唐突に花野さんが話してきた。
「何の話をしているんですか?」
「とぼけても無駄。私は知ってるよ。最近結が梅田くんの家に泊まっているの」と真剣な目つきで言った。
「もしかして藤花先輩から聞いたんですか」
「そうね。最近、私と遊ぶことより梅田くんと遊ぶことに楽しんでいるから寂しくて」と口角を上げて言ってきた。
「僕たちは決していかがわしいことは何もしていません!」と強めの口調で思わず言ってしまった。
「急に声を荒げないで、びっくりしちゃうじゃない」
「どうしたー!大丈夫か!!」と奥にいる店長が心配したので、「何も問題ありません。大声を出してすみません」と謝罪した。(あくまでまだバイト中なのに…)
「私にいつも文句言っているわ土曜日に一緒に飲んでいる時に、『あの子何なの!私の身体に魅力を感じないの!?』って酔いつぶれながらね」と一言いうと入ってきたお客様の対応していた。
今の話を花野さんは何でしてきたんだ?僕にどのような対応をして欲しいんだ?と頭の中で考えていると、よく知っている人たちが店の中に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「よっ!春」
「来たよ!」
「お前ら…」と陽斗と椿が客として店に入ってきた。
「あら梅田くん。知り合い?」と花野さんが聞いてきた。
「はい。僕の幼馴染たちです」
「な、何でここに来たんだ?」
「今日、大学で藤花さんって先輩と話していたんだよ」
「その先輩は、私たちと同じでボードゲームに興味があるらしくて今日サークルに来たんだよ。その時、花野さんと春が同じバイト先だって知ったんだよ」
「だから私たちが最近サークルに顔を出してくれない人の顔を見ようとこっちから顔を出したんだよ」と二人は来た理由を話してくれた。
「あら、あなた達は梅田くんの知り合い?」
「あっ、お世話になっています。私は春くんの幼馴染の桜井椿です」
「僕は花井陽斗です。今日大学で藤花先輩とお話して【喫茶・菫】の存在を知りました」
「そうなの。それじゃあ席について後は、梅田くんに任せようかな」と言い残し花野さんは裏で店長に先ほどのお客様の注文の準備をした。
「それじゃあ奥の席が空いてますので案内しますね」
「じゃあ案内お願いします」と椿が僕の手を繋いで一緒に向かった。
「椿、春はバイト中だよ」
「あ、そうだった…」と椿は手を離して椅子に座った。
「それじゃあ注文が決まり次第、声をかけてください」と言い残しその場から離れた。
奥の方へ行くと、店長から「お友達?」と聞かれたので「昔の幼馴染です」と説明をした。
「あの女の事が好きなの」と花野さんが何の脈絡もなく聞いてきた。
「何言ってるんですか」
「ふぅ~ん、なるほどねぇ」と花野さんの表情が子供がおもちゃを見つけれたような目でこちらをみていた。
「すみませーん」と陽斗の声が聞こえた。
「はーい少々お待ちください」と言って二人が座っている奥の席に向かった。
「ご注文は?」
「カフェオレとアイスコーヒーとプリン二個でお願い春」
「お願いね」
「かしこまりました!」と言い店長に注文を言いプリンの準備をしてくれている間に花野さんが飲み物の準備をしてくれた。
その時、カランコロンと誰かが店の中に入った音が聞こえたので確認すると、藤花先輩がいた。
「あのう…花野美月はいますか?」と小悪魔的な表情をしてきた。