サボりの先
大学の講義をさぼり今は藤花先輩と一緒に電車で移動していた。外の眺めは一年前と何も変わらない大都市特有の無機質なビル群を見ていた。電車内ではイヤホンを耳に付けてスマホを見ている人が大半だ。横にいる藤花先輩もスマホの画面を見ていた。僕もスマホで適当なマンガを読み漁っていた。数分後、藤花先輩が「次の駅に降りるよ」と言った。その言葉を聞いて僕は「わかりました」と返事をした。藤花先輩に言われるまま駅から下りて改札を潜り抜け藤花先輩に付いて行くと一人の女性が立っていた。
「おはようございます!若津さん」
「おはようございます。ミン」
「今日もよろしくお願いします!」とお互いに挨拶をしていた。
僕が二人の挨拶を聞いていると、「この方は?」と若津という男が僕の方を見て言うと、「私のストーカーから助けてくれた後輩です」
「貴方が!?それはそれはありがとうございます。実は私こういう者です」と名刺を渡してくれた。
名刺を見てみると「モデル事務所!?」と書かれていた。
「しかも誰もが聞いたことのある有名事務所じゃないですか!」
「そういってくれると私としても嬉しいよ」
「藤花先輩って何者なんですか?」と横にいる彼女の方を見ると悪戯な笑みで「ドッキリ~大成功!」と言っていた。
「彼女はミンっていうモデルだよ」と若津さんがレディースファッション雑誌を見せてくれた。
「アッ!?藤花先輩じゃないですか!?」と藤花先輩がカッコイイ姿でポーズを撮っていた。
「この撮影は大変だったね~」と横で藤花先輩が解説してくれた。
「それじゃあ、時間だからそろそろ移動しましょうか」と若津さんが僕たちを駐車場まで案内してくれてそこから車で移動していた。正直、僕はどこに連れていかれるのか分からなかったが、若津さんと藤花先輩が内緒にしたせいで内心緊張していた。車で移動している途中、椿からDMが来ていた。
『春!三限は?』
『用事が出来たから休むことにした』
『用事って何よ!』
『僕もよくわからん』
『はぁ!?』
とDMのやり取りをしていると隣に座っている藤花先輩に「彼女?」と言われたので「ち、違いますよ。ただの幼馴染です」と返事すると「ふぅ~ん…」と言ってスマホを取り上げられた。
「ちょっと!何しているんですか!」とスマホを返して貰おうと動くもシートベルトのせいで可動域が狭い。すると藤花先輩が僕にスマホを向けて来たので何事かと思ったらカシャと写真を撮る音がした。
「はい写真撮ったわ。これを幼馴染に見せたらどう?」と撮ってくれた写真を見ると僕が目を瞑っている情けない姿だった。
「いやですよ」とすぐに写真を削除した。
「何で消すの?」
「ブサイクが写っていたからですよ」
「そう?私は…貴方が目を瞑ってもカッコいいと思うわ」と甘い声で言ってきた。
「ミンちゃん!後輩くんに悪戯しないの」
「は~い」
「ごめんね。後輩くん」
「大丈夫ですよ。何だかんだ返してくれたので」
「ありがとう。そういえば後輩くんの名前は?何て呼べばいい⁇」
「あっ、すみません。自己紹介まだでしたよね。僕は梅田春といいます」
「梅田くんね」
「はい!よろしくお願いします」と自己紹介を終えると海辺に着いていた。
すると若津さんと藤花先輩は車から出て挨拶をしていた。
そこにはカメラマンなど数々のスタッフの方々がいた。経験したことのない現場の雰囲気にのまれそうだったが勇気を振り絞って車から出て挨拶をした。
「おはようございます!」とまるで僕のこと気にしてないのか「おはようございます」と何人かに挨拶を返して貰って他は忙しそうにしていた。
「どう?モデルの撮影現場の様子は?」
「そうですね…。メイクの方もカメラマンの方もコーディネートしてくれる方々も真剣に藤花先輩を輝かせるために行動しているのが伝わります」
「そうよね。この現場にいる人たちは全員プロフェッショナルだからミンちゃんを輝かせるために一切の妥協はしないわ」
「そうですね。見てて伝わります!」
「梅田くんはミンちゃんのこと知っていたの?」
「藤花先輩がモデル活動をしていたことですか?」
「ええ」
「知らないですよ。たまたま女性を助けたら藤花先輩だっただけです」
「そうなの。これからもミンちゃんのこと近くで応援してくれると嬉しい」と若津さんからお願いされた。
「近くですか?」
「そうよ。この業界だと精神的にも肉体的にも疲れるからさ、私としては側に貴方のような人がいてもいいと思うの」
「でも、こういう業界は恋愛禁止じゃないのですか」
「あ、それは安心して事務所的に恋愛の方は自由にしてあるし、別に恋愛じゃなくて大学内で仲良くするだけでいいのよ。もしかして恋愛しそうだなと思ったりしてる⁇」
「そ、そんな訳ないじゃないですか。藤花先輩とは適切な距離でこれからも接しますよ!!」と声がうわずってしまった。
「何話してるの?」と撮影を終えた藤花先輩が白のロングワンピースを着た状態で砂浜を走ってこっちまで来た。
「撮影終わったの?」
「終わりました~若津マネージャー」
「ほら、早く着替えて帰るわよ」
「はーい!」と返事をしたら車の中で着替えしに行った。
着替えを終えると大学内の藤花先輩に戻っていた。
「着替えたよ~」
「それじゃあ私は挨拶していきます」と若津さんは撮影に関わった方々の方へと行き「皆さん今日もありがとうございました!」と撮影に関わったスタッフの方々と話していた。
「今日は楽しかった?」と藤花先輩が話しかけてくれた。
「楽しかったです。中学の頃に行った職場見学みたいで」
「よかった~。それでさ、白ロングワンピースはどうだった?似合ってた⁇」」
「似合っていましたし、ポーズも多様でよかったです」
「あのポーズは研究したんだよ。色んな雑誌やSNSを漁ったりしてね」
「そうなんですね」と二人で話していると、若津さんが帰って来て三人で車に乗って駅まで送ってもらった。
最寄り駅に着くと僕と藤花先輩は車からおりて若津さんにお礼を言った。
「それじゃあ気を付けてね。お二人さん」
「大丈夫よ。何かあったら梅田くんが守ってくれるから」
「僕を頼りにしないでください」
「ええ~~~何でよ」と僕の方に顔が近づいていた。
「恋愛してもいいけど、学生ってこと忘れないでね~」と言うと窓を閉めて車を走らせた。
「それじゃあ私、今日は梅田くんの家に行こうかな」
「な、何でですか!」
「だって、私の家遠いし居心地悪いからさ」
「自分の家なのに居心地が悪いことあるの?」
「居心地悪いわ。私一人だと寂しいから」と言った時の藤花先輩の表情が暗くなっていたかもしれない。
「ああ~、いいですよ」
「ほ、ほんと!!」と顔を上げてくれた。
「もちろんです。先輩の発言を断る後輩がどこの世界にいるんですか」
「そうよね。じゃあ私の手料理食べる?」
「今日は外食で!」
二人は電車に乗る前に居酒屋に行きお酒を飲んだ後、電車に乗り最寄り駅でおりた後、タクシーで春の家のアパートに着いた。藤花先輩は疲れていたのか風呂入って歯を磨いてベットの上で眠りについた。
「マジで、危機感ないのかな」とスマホでミンと検索をしていた。