押し倒され
秋になり、涼しい夜の秋風が心地よく食べ物も美味しい季節になった。
藤原家の家族会議があった日から、一ヶ月ぐらい経った頃。結はモデル業をやっていた。彼女の頑張りはフォロワーの数字が伸びでわかる。
それでも大学に顔を出してくれた。
ただ僕の家に来ることは少なくなった。
もちろん仕事が忙しいことも理由に上げられる。それに家族関係も良くなったので僕の家に避難する必要もない。
そんなこんなで以前のように会う機会はなくなった。
僕自身もこうして一人部屋で過ごしていると寂しい気持ちも出てくる。
あの関係は幻だったのではないのかと頭の中で自問自答をしている毎日だ。
スマホの通知を確認すると、結からダイレクトメッセージが来てた。
『久しぶりね。今日の深夜頃来てもいい?』と書かれてあった。
『久しぶりです。僕は暇なので来ていただいても大丈夫です』と返事した。
『それじゃあ待っててね』
久しぶりに結が部屋に来る。
僕は急いで部屋を掃除しないといけない。
「さてと、掃除を始めるか」
一か月間誰も部屋に来ないだけで汚くなる部屋を見渡しながら呟いた。
部屋の掃除を始めようとした瞬間、インターホンが鳴った。
(誰だろう…)
僕は玄関に向かって玄関の扉を開けると椿が立っていた。
「どうしたの?」
「いや、最近サークルにも出ていないから元気にしているか心配で…」と椿が好きなパン屋の袋を持っていた。
どうやら僕を心配しての行動らしい。
「取り合えず部屋に上がってよ」と椿を部屋に上がらせた。
「おじゃまします」
椿は部屋の中に入った。
(結以外の人が部屋の中に入ってくるのは、幼馴染とはいえ緊張する)
「部屋の中が汚いね」
椿がそう思うのも無理はない。
足の踏み場はあまりなくペットボトルが散乱している。
「今、掃除をしている最中だよ」
「確かに掃除している痕跡はあるね。私も手伝うよ」
僕は椿と一緒に掃除をした。
椿が手伝ってくれたおかげで、結が帰ってくるまで早く終えることが出来た。
「よし!掃除も終わったし一緒に食べよう」と椿は勝手に台所でインスタントコーヒーを用意していた。
僕はただ彼女の後ろ姿を見ているだけだった。
椿はローテーブルに二人分のアップルパイとインスタントコーヒーを出した。
「それじゃあ食べよう!いただきます」
「いただきます」
久しぶりに椿と一緒にアップルパイを食べていると過去に戻ったかのような気持ちになってくる。
(何だろう…やっぱり椿と二人で一緒に居ると落ち着く)
「実は私さ、春のこと好きだったんだよね」
椿が僕の動揺を誘っているかのような発言をしてきた。
「急にどうした?」
「実は春が告白してくるのを待っていたんだよ。中学の頃から」
「ほんと?」
「うん。あとね陽斗からは告白を過去にされたんだよ。中学三年生と高校三年生の頃に」
僕は急に椿の口から今まで隠されていた陽斗との関係を聞かされていることに危機感を感じていた。
(何故このタイミングで?)
(彼女の目的がわからない)
「それで最近ね。陽斗から三回目のプロポーズで私は付き合うことに決めたの。春が私に興味を持たれていないと思っていたから」
そう言った彼女は僕の横に座ってきた。
「な、何だよ」と幼馴染が横に座っただけなのに動揺している。
「私たち、悪いことしているね?お互いに彼氏、彼女がいるのに…」
椿から押し倒された。彼女の甘い息遣いも柔らかい身体も感じている。
僕の目には椿の顔しか見えていない。
(これは、逃げきれない…)
僕は抵抗することもなく受け入れようとした時、玄関の扉が開いた音が聞こえた。
その瞬間、椿は立ち上がり玄関の方へ向かっていた。
「こんばんは先輩」
「こんばんは!」と挨拶しているのが聞こえてくる。
僕は急いで立ち上がり「久しぶり結」と玄関の方へ向かった。
「春くん?何をしていたの?」と結の眼光が暗くなっているように見える。
「何も心配はありません。ただ私がアップルパイを持って一緒に食べただけです」と言い彼女は靴を履いて「それじゃあ私はこれで!」と颯爽と去って行った。
部屋の中には一か月ぶりに来てくれた結と二人きりになった。




