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第三話・かなりレア? 普通にできちゃう『異種混合魔術』

 いきなり異世界に召喚されたヨシ子。右も左もわからぬ緊張と不安の中で、ヨシ子の心は少しずつ病んでいくのであった……

 ーーなんてことにはならず、ヨシ子は初めて使う魔術に大興奮。自分を召喚した者達を吹き飛ばし、愛するもつ鍋……ではなく家族のため、今日も元気に帰り道を探すのであった。


 ちゃぶ台に並べられたラミの手料理は。

 もつ鍋ではなかったけれど。

 知らない食材と料理だったけれど。

 一生懸命こちらの好みの味に近づけようとしてくれて。

 なんとなく懐かしい感じがして。

 ……なんだか暖かくて、肩の力が抜けた。

 勝手に人を『異世界召喚』した者達への怒りはおさまらないが。

 一時でもその怒りを忘れるけど、ラミの料理はおいしかった。

 そして、


 気がついたら、ヨシ子は花畑が一望できる部屋のベッドに横になっていた。

 どのくらい眠っていたのだろう?

 月が空にあるから、まだ夜なのだろうか。

 ふと腕時計を見ると、午前七時になっていた。

 ——いやいや待て。

 ここは異世界なのだから、時間がもといた世界と同じとは限らない。

 ヨシ子が、心の中で自分に言い聞かせていると、

「あら、同じですわよ?」

 微笑んでそう言う美少女——ラミ。

 ヨシ子の心を読んだような発言をした上、気配も何も感じさせず、いつの間にかベッド脇にいたのだが、

「あ、おはようございます。薬の時間ですか?」

 ヨシ子は、気にしないことにした。

 これくらいのことをいちいち気にしていたらハゲてしまう。

 せっかく若返った頭皮がもったいない。

「ええ。薬湯と朝食をお持ちしたのですが、お食べになれます?

 もし食欲がないようでしたら、薬湯だけでも——……」

 そう言うラミの持つバスケットからは、食欲を刺激する香りがしている。

 なので、

「もちろん食べられます!」

 ヨシ子は、反射的にそう答えていたのだった。


 ラミの手作りのとてもおいしい朝食を終え、食後の、これまたラミの手作りのとてつもなくおいしくない薬湯を飲み終えると、ラミは『鑑定』でヨシ子の状態をチェックし始めた。

 時々首をかしげているのだが、なぜ?

「どうでした? 何か異常でもありました?」

「……異常がある、と言えばあるのですが……身体的には……まぁ」

 困ったように微笑んだり、手を頬にあてたり。

 なんだか歯切れが悪い。

 ラミにしては珍しい。

「つまり?」

 ヨシ子が首をかしげていると、ラミは何かを決心したように頷き、言った。

「ヨシ子様、ここに火の玉を出していただけますか?」

 火の玉? あ、ファイアーボールのことか。

 では、

「ファイアーボール!」

 ヨシ子の言葉とともに、ラミの前に二つの火炎球が現れた。

「あら?」

 なぜかラミは驚いたようで、小首をかしげていた。

 ……なぜ?

「ヨシ子様、今度は水の玉を出していただけますか?」

 水の玉? 水の玉……あ、子供達の本に書いてあったアレか?

 ヨシ子は記憶をさかのぼった。

 確か、呪文は——

「ウォーターボール!」

 ラミの前に、今度は二つの水流球が現れた。

 ふぅ、魔法初心者だが、成功して良かった。

 ほっとするヨシ子。

 ——が。

「まぁ、これはずいぶんと……」

「はい?」 

 言われてよく見ると、ラミの前に現れた水流球は、直径二メートルほどの巨大なモノだった。

 ヨシ子は野球ボールをイメージしたはずなのだが、何をどうしてこうなった?

「えー……。じゃあとりあえず、小さくしますね? それっ!」

 ヨシ子がかけ声をかけると、巨大な水流球は最初にイメージした大きさになった……のだが、今度は火炎球と水流球が混ざり合い、ごちゃごちゃになってしまった。

 おー、なんだか面白いことになってる。

 ヨシ子が内心興奮していると、

「ヨシ子様」

 ラミが小首をかしげて、

「ヨシ子様がもといた世界にも、魔術はありましたの?」

 と、聞いてきたので、ヨシ子は首を横に振った。

「では、今お使いになったものは、どうやって覚えたのですか?」

「どうやっても何も、本で読んだので」

「魔術書ですの?」

「いえ、普通の小説ですけど?」

「小説…………では、『加護の儀式』は?」

「なんですか? それ?」

 ヨシ子がはてなマークを浮かべ首をかしげると、なぜかラミが微笑んだまま固まってしまった。

 ……何かおかしなことを言っただろうか?

 と、ヨシ子が疑問を口に出そうとした、その時。

 どこからか現れた銀色の蝶が、ヨシ子とラミのまわりをひらひらと飛び、ラミの肩に止まった。

「あら?」

 ラミが銀色の蝶に視線を向けると、蝶は何度かちかちかと瞬き、ラミに何かを伝えているようだった。

 ヨシ子がその様子をじっと見ていると、ラミは申し訳なさそうに両手を合わせた。

「ヨシ子様、申し訳ありませんが、少しお待ちいただいてよろしいでしょうか?」

「え? あ、はい。大丈夫です。お気になさらず」

 ヨシ子がそう答えると、ラミは銀色の蝶にそっと触れ、しばらく何ごとかつぶやいていた。

 まるで、蝶と会話をしているかのように。

 その間、ヨシ子は暇だったので、取り出したカップにコーヒーを注ぎ、ゆっくりとその味を楽しんでいた。

 そして、考えた。

 さっきの混ざり合った魔術、アレは使えるのではないか?

 たとえば、火と水だけではなく、他の属性を組み合わせてみては——

 などとヨシ子が考え始めてしばらくすると、銀色の蝶は徐々に紅い色に変わり、完全に紅い蝶に変わると、ラミの肩から飛び立ち消えてしまった。

「あ、それでヨシ子様——」

 蝶を見送り、ラミがヨシ子に振り返ると、とんでもないことが起こっていた。

「たーのしーい♪」

 ヨシ子のまわりには、水色・赤色・茶色・緑色の混ざった大小様々な玉が浮かんでいた。

 その数、二十数個。

「まあ、凄いですわ。『異種混合魔術』が、こんなに」

 ヨシ子に負けず劣らず、ラミもこの光景に興奮しているようだった。

 二人とも目が輝いている。

 だが、ヨシ子とラミ。

 二人同時にある疑問が浮かんだ。

『あの』

 ヨシ子とラミはきれいにハモった。

 ラミが申し訳なさそうに微笑み、

「ヨシ子様からどうぞ」

 と、言うと、ヨシ子も、

「いえいえ、そちらからどうぞ」

 と、返した。

「でも、わたくしのお話はとても簡単なものですわ。

 やはりそちらから……」

 ラミがそう言って遠慮すると、ヨシ子はぱたぱた手を振った。

「簡単な話なら、やっぱりそちらが先ですよ」

「そうなのですか?」

 目を瞬かせるラミ。

「そうですよ。こちらの話は長くなりそうですし、早く終わる話が先ですよ」

「そうなのですか……」

 ラミのつぶやきに、ヨシ子は大きく頷いた。

「……では、お言葉に甘えさせていただきますわ」

 ラミは、小さく笑い言った。

「ヨシ子様。先ほどから高度な精霊術を連発していらっしゃるようですが、魔力の方は大丈夫なのですか?」

「魔力、ですか?」

「ええ。普通の方でしたら、もういつ倒れてもおかしくない消費量ですわ」

 言われて、ヨシ子は腕をまわしたり、ぴょんぴょん飛び跳ねたりしてみた——が。

「んー……、まったくなんともないですよ?」

 あっさりと言うヨシ子。

「めまいや疲労感などは?」

「まったくありません。健康そのものです」

 ヨシ子がそう言うと、ラミは少し驚いたような表情になった。

「まあ、あれだけの『異種混合魔術』を使ってもなんともないなんて……ヨシ子様、凄いですわ」

 ラミは、ヨシ子にうっとりとした微笑みを向けた。

 ヨシ子は、なんとなく気恥ずかしくなった。

「わたくしのお伺いしたかったことは以上ですわ。ありがとうございます。

 次はヨシ子様がどうぞ」

「あ、はい。でも話が長くなりそうなので、何か飲み物でもいかがですか?」

「良いですわね。では、テーブル? を出していただけませんか? わたくしもちょうどいくつかお茶菓子を持って参りましたの」

「テーブル? ちゃぶ台のことですか? 今出すので、少し待っててくださいね」

 言って、ヨシ子は懐からちゃぶ台を取り出した。

 ラミは、それを見て驚くこともなく、バスケットの中からお茶菓子を取り出し、ちゃぶ台に並べていった。

 クッキー、チョコケーキ、パウンドケーキ、羊羹、豆大福、パイと、どう見てもバスケットの中に全部入りきらないだろうと思われる量のお菓子が出てきた。

 しかし、ヨシ子もラミも、お互いにツッコむことはなかった。

 理由は簡単。

 異世界まで存在するこの広い世界には、そういうことができる人もいるだろうと思ったからだった。

「あ、飲み物はコーヒーで良いですか? ちょうどおいしいと評判のドリップがあるんですよ」

「まあ、良いですわね」

 だから、ヨシ子が懐からコーヒーセットを取り出しても、ラミは驚かなかった。


 そして始まるティータイム。

「あら、このコーヒー、とてもおいしいですわ。

 苦いだけではなく、ほのかな甘味もあって……」

「このケーキもおいしいです。

 ほんのりお花の香りもして、でも甘すぎず……これも手作りですか?」

「ええ。お口に合ったようでなによりですわ」

 二人とも、当初の目的を完全に忘れていた。

 ヨシ子も、いろいろと聞きたいことがあったのでは?

 やはり、食べ物の魔力は強いということか。

 その後も、二人はコーヒーのおかわりをくり返し、お茶菓子を食べ続け、

「そういえば、ヨシ子様のお話とはなんでしたの?」

 ラミがそう言ったのは、コーヒーを飲み、並べたお茶菓子を半分ほど食べ終えた頃だった。

「あ、その話の前に一つ教えていただきたいことがあります」

 ヨシ子は、好物の羊羹と豆大福を口に運びつつ言った。

「なんでしょう?」

「さきほど言っていた『イシュコンゴウマジュツ』って、なんですか?」

「異種混合。つまり、別属性の魔術を一つにまとめて発動させることですわ」

「はい? それって……どういうことですか?」

 首をひねるヨシ子に、四杯目のコーヒーを飲み終えたラミは、

「実際にお見せした方がわかりやすいですわね」

 空のカップをちゃぶ台に置いた。

「まずは、水属性の魔術を発動させます」

 ラミの右手に、水流球が現れた。

「続けて炎の魔術を発動させ、水属性の球体に入れて一つにします」

 ラミは、左手に現れた火炎球を右手の水流球と重ね合わせて一つにした。

「すると、この球体は水と火の二つの属性を持ちます。

 異なる複数の属性を持つ魔術。これが『異種混合魔術』です」

「へぇ、楽しそうですね。これは、誰にでもできることなんですか?」

 魔術初心者の自分ができたのだから、簡単なことなのだろう。

 ヨシ子がそう思い聞くと、ラミは首を小さく横に振った。

「いいえ。基本的に持てる属性は一人につき一つ、多くても二つです。

 それに、魔術を二つ以上同時に発動させ制御するとなると、莫大な魔力が必要になります」

「……そうですか」

「ええ。わたくしも長いこと魔術師長をやっておりますが、ヨシ子様のように『異種混合魔術』を連発して平気でいられる方にお会いしたのは初めですわ」

 ……あー、その歳で初めて……それは確かに珍しいでしょうねー……

 ヨシ子はなんだか嫌な予感がした。

 そんなヨシ子の様子に気づかず、ラミは言葉を続けた。

「だから、あの方々はヨシ子様を召喚なさったのでしょうね。

 ——我らが魔王様を倒す切り札として」

 はいぃっ!?

 子供達から借りて読んだ本には、確かに『異世界召喚』の物語もあった。

 だが、まさか自分が召喚されるとは……あの馬鹿王達め。

 ヨシ子は大きく息を吸い、空に向かって怒りのままに力いっぱい叫んだ。

「ふざけるなー!! こっちは普通の主婦だー!!」


                 (第三話 : 終わり?)


あとがきと言う名の和平会談

(黒月真名(作者)・茅名・姫君)


姫君:はい。では、続いて言ってくださいね?

黒月:は~い!

姫君:まずは、アイ・キャン・ノット・スピーク・イングリッシュ。

黒月:あい・きゃん・のっと・すぴーく・いんぐりっしゅ。

姫君:はい、良くできました。

黒月:わ~い。

茅名:…………?

姫君:では、次いきますね。

   アイ・キャン・スピーク・ジャパニーズ・オンリー。

黒月:あい・きゃん・すぴーく・じゃぱにーず・おんりー。

姫君:はい、もうバッチリです! これなら、いつ海外に行っても大丈夫です。

黒月:やったぁ~!

茅名:ちょっと待ったぁ!

黒月:あ、茅名ちゃん。お久しぶり~、二回目の登場だね。

姫君:お久しぶりです。お元気でした?

茅名:いや、元気は元気だけど。ここ数年風邪一つひいてないし。じゃなくって、二人とも何やってるの?

黒月:何って?

姫君:見ての通り、英会話のレッスンですよ?

茅名:さっきの文は、どういう意味?

姫君:あれですか?

一つ目は、

『私は英語を話せません』

二つ目は、

『私は日本語しか話せません』

ですよ。

茅名:………………

黒月:茅名ちゃん、頭抱えちゃって、どうしたの?

茅名:その二つで海外に行けるって……

姫君:バッチリですよ?

黒月:それはそうと、姫君は初登場だから、自己紹介してもらって良い?

姫君:そういえばそうでしたね。

ではーー

初めまして。キャラネーム『皇帝の姫君』です。

職業は、通訳士です。

黒月:姫君は頭良いんだよね~

   何ヵ国語話せるんだっけ?

姫君:そんな、頭良くはないですよ。

えっと、日本語、英語、中国語、フランス語、です。

黒月:それだけ話せれば、十分頭良いと思うよ……

姫君:そうですか?

茅名:知らない言語は、どうやって覚えるの?

姫君:ひと月もホームステイすれば、大体は覚えられますよ?

茅名:うわっ、やっぱり天才だ。

黒月:だねぇ。

茅名:で、さっきの英会話のレッスンは、何?

姫君:え? 何って……真名さんが、

黒月:私でも覚えられる英語を教えて、ってお願いして。

茅名:なるほどー、って、あれコテコテの日本語発音だったじゃないの!

黒月:言いたいことが伝われば、問題なし!

茅名:なんかいろいろ間違えてるし!

姫君:……ではーー

茅名:はい?

姫君:私が会得した、英語の真髄を伝授しましょう。

黒月:おぉっ、ぜひ教えて!

茅名:……なんか嫌な予感。

姫君:では、続けて言ってくださいね。

黒月:はい!

姫君:アイ・ドント・ノウ・エニシング。

黒月:あい・どんと・のう・えにしんぐ。

姫君:はい、これでもう心配なし。どこに行っても大丈夫です。

黒月:わ~い。やった~♪

茅名:……今の文の意味は?

姫君:はい?

『私は、何もわかりません』

ですよ?

茅名:……って、あきらめるなぁぁあ!

黒月:ど、どうしたの茅名ちゃん!?

姫君:カルシウムが足りないのでしょうか?

茅名:ちがあぁぁあうっ!! もうっ、この天然コンビは!

黒月:あい・どんと・のう・えにしんぐ。

茅名:何うまく使ってるの!?

姫君:ここまで理解しているのなら、もう大丈夫です。

さぁ、海外に羽ばたきましょう。

黒月:うんっ♪

茅名:うんっ♪ じゃない! その三文だけじゃ無理だから!

姫君:無理かどうかは、やってみないとわかりませんよ?

茅名:いや、だって真名ちゃんはーー

黒月:ところで、海外へは何で行くの?

姫君:え? 船か飛行機ですよ?

黒月:私には海外は無理です。

国内で日本語に埋もれています。

茅名:ほら、だからぁ。

姫君:どういうことですか?

黒月:私、高所恐怖症で閉所恐怖症なの。

姫君:なんと!?

黒月:船に乗ったら、一秒で酔ったし。

茅名:飛行機が怖くて、まだ一回も空港に行ったことないしね。

姫君:それは筋金入りですね……わかりました。真名ちゃんが恐怖症を克服するまで、海外はやめておきましょう。

黒月:うぅ、ありがとう姫君ぃ。

姫君:でもーーこれだけは聞かせてください。大事なことなのです。

黒月:は、はい。

姫君:真名ちゃんはーー今度、私が仕事で行く海外の

お土産は、名物のクッキーで良いですか?

黒月:はい★

茅名:はい★って、大事な話って、食べ物かいっ!


ーー数日後、姫君は海外での通訳の仕事のため、日本を発ったのであった。


(あとがきと言う名の和平会談:珍しく平和的に終わり)


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