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第一話・異世界召喚、そしてファイアーボール

「ファイアーボール!」

 づがぼおぉぉおん!

 放たれた二つの火炎球が直撃し、爆発とともにソレらを高々と宙に舞い上げた。

「なんでー!?」

「まだ加護も授けてないのにー!!」

 まだ余裕がありそうだ。

 なので、

「ファイアーボール第二弾!」

 づがぼおぉぉおおん!

 ひるるるるっ

 ぽてっ

 コゲた二つのかたまりは、今度こそ動かなくなった。

 あーすっきりした。

 

 

 ことの始まりは、数分前。

 植野ヨシ子(四十五歳)は、異世界に召喚された。

 

 

 数年前から勤めている清掃の仕事を終え、現在時刻は午後七時。

 家では、在宅勤務の娘が夕飯を作り、ヨシ子の帰りを待っている頃だ。

 ちなみに、ヨシ子の昼食の弁当も、その娘作である。

 さて、今日の夕飯はなんだろう?

 確か、今日は寒いから、体が温まるアレを作る、と言っていたような……

 味噌味か醤油味か、はたまた合わせ味か。

 そんなことを考えながら、ヨシ子はいつも通りに車の鍵を開け、シートベルトをしめ、エンジンをかけようとした、

 その時。

 突然、視界が闇に染まった。

 続いて、激しいめまいと頭痛に襲われ、体中の力が抜けたヨシ子は、意識を失――わなかった。

 今、意識を失うわけにはいかない。

 ヨシ子は、自分に強く言い聞かせた。

 何度も。何度も。

 帰らなくては――

 早く帰って、ヨシ子の帰りを待っている娘が――

 娘が作ったアレを――もつ鍋を食べなければ――

 と。


 どれくらい、もつ鍋と念じていたか……

 やがて、めまいと頭痛はおさまり、あたりの闇も、霧のように散っていった。

 光が戻ってきた。

 これで――

 だが、闇が晴れ、現れた景色は、ヨシ子の見知ったものではなかった。

 乗っていたはずの車はいつの間にか消え、ヨシ子は石造りの床に座っていた。

 床には、よくわからない、魔方陣? のような、金色の紋様が描かれている。

 ……もしや、これは。

 そこに、

「よくぞ参られた、異世界人よ」

 偉そうな男の声が聞こえた。

 ……やっぱり、予想通りアレだ、これ。

 ヨシ子は、こっそりため息をついた。

「……汝は、我らが秘術を用いて召喚せし――」

 ……はい、確定。

 どうやら、自軍の勝利のために、異世界召喚されたようである。

 ヨシ子は、もう一度ため息をつくと、立ち上がり、あたりをぐるっと見回した。

 右手には、黒いフードを目深に被った黒いマントの集団。

 左手には、黒い全身鎧に黒いマントの集団。

 そして、二つの集団の真ん中――赤黒い絨毯の先の壇上には、漆器のような光沢の、玉座。

「――あれから千と三九年、我々は虐げられた日々をー―」

 床と同じく壁も石造りで、明り取りの窓は一つもなく、ヨシ子が今いる広い部屋の中は薄暗い。

 雰囲気としては、まるでテレビゲームにでてくるお城の玉座の間のようだ、と思った。

 ヨシ子は、子供達とよくRPGゲームをやっていたので、こういうことには同年代の人達より詳しいのだ。

 それと、異世界転生系の本もよく読んでいたので、事前知識はバッチリだ。

 ちなみに、RPG以外のゲームは、反射神経が鈍いため、(特にアクション系は)苦手とのこと。

「――ゆえに、我々は、反旗をひるがえし………」

 ……待てよ、ここが異世界、ということは、あの本に載っていた、あれやこれもできるのだろうか?

 できたらいいなー。

 などと、ヨシ子が考えていると、

「――すべては、この世界の平和のため………って、聞いてるのか!!」

 玉座に座り、偉そうに語っていた男が叫んだ。

 黒いフードとマント。

 他の黒マント達と格好は同じだが、玉座に座っているのだから、あの偉そうな男が王様なのだろう。

「あー、はいはい。

 ちゃんと聞いてますから、気にしないで、続きをどうぞ」

 取り出したカップにコーヒーを注ぎ、一口飲むヨシ子。

 あぁ、美味しい。

「嘘をつくなぁあ! 人が話しているのに上の空で、あちこちうろうろちょろちょろして、挙句の果てに、そんっなちゃぶ台でのんきにコーヒーを飲んで、どこが聞いているというのだ!

 というか、そんなものどこから出したのだ!?」

 玉座から立ち上がって怒鳴る男に、他とは違う、左胸に金色の勲章がついた黒マントが駆け寄った。

「ああ、王よ、落ち着いてください。

 この者は、私の秘技『異世界召喚』にて、この国に来たばかり。

 ゆえに、まだ、王の素晴しさがわからぬ愚か者。

 ですから、王よ、この者を煮るなり焼くなりするのは、あの悪行高き者どもに対抗できる能力をもっているか否か、それを確かめ、利用価値のない者と判明してからにお願い致します」

 やっぱり、あの玉座の男が王様のようだ。

 それにしても、さきほどから、あの二人はヨシ子に失礼なことを言っているのだが、その恐ろしさをわかっているのだろうか?

 明かりが、所々に灯された紫色の炎だけなので誰も気づいていないが、ヨシ子の額には、うっすらと青スジが立っていた。

「ふん! そなたの言う通りだな。

 せっかく召喚した者を、その利用価値もわからずして切り捨てるは愚行。

 あとは、そなたに任す」

 勲章付きの黒マントは、王様に深々と一礼した。

「ありがたき幸せ。

 では、そこの者よ、まず――」

 そこで、ここまで黙っていたヨシ子が挙手をした。

「その前に、二つ質問があります」

「なんだ? 申してみよ」

 相変わらず、偉そうに言う王様。

「まず、『異世界召喚しよう!』と、言い出したのは誰ですか?」

「うむ。我だが?」

 と、王様。

「それで、『召喚の儀式』を執り行ったのは?」

「私だが、それがどうした? 何か問題でも?」

 と、勲章付きの黒マントこと勲章マント。

 ……なぁるほど。

 王様と勲章マントの横柄な態度に、さきほどから、胸の奥深くから、ふつふつと湧いてくる、熱いモノの正体。

「――を、……せ」

 怒りの炎。

 ヨシ子は、はっきりと理解した。

「なんだ? 言いたいことがあるのなら、はっきりと、」

「もつ鍋を返せぇぇ!!」

 この二人が、倒すべき敵だということを。

「ファイアーボール!」

 づがぼおぉぉおん!

 ヨシ子が放った二つの火炎球が直撃し、王様と勲章マントを高々と宙に舞い上げた。

「なんでー!?」

「まだ加護も授けてないのにー!!」

 まだ余裕がありそうだ。

 なので、

「ファイアーボール第二弾!」

 づがぼおぉぉおおん!

 ひるるるるっ

 ぽてっ

 コゲた二つのかたまりは、今度こそ動かなくなった。

 あー、すっきりした。

 ヨシ子は、すがすがしい顔で、大きく伸びをした。


 しばしの間の後。

 ざわめきが広がった。


「……えーと………」

「……王と魔術師長が、秒で倒されちまったよ………」

「王の『絶対防御』が、破られただと……!?」

「あんな高等な術を、加護を授かる儀式の前に使えるなんて……」

「よもや、あやつは化け物か!?」

「馬鹿か! めったなことを言うんじゃない! 王達の二の舞になりたいのか!?」

「んなわけないだろ!」

「じゃあ、おれ達は、これからどうしたらいいんだ!?」

 めちゃくちゃ混乱している黒集団。

 とりあえず、取り出した二杯目のコーヒーとあんこ団子をちゃぶ台に並べ、のんびりと食すヨシ子であった。

 ヤケになって現実逃避しているわけではない。

 ヨシ子には、考えがあってのことだ。

 取り乱してなんていられない。

 落ち着かないと。

 ここで、コーヒーを一口。

 まずは、現状の確認だ。

 今いるのは、異世界。

 夢や幻覚ではなく、現実だ。

 その証拠に、ヨシ子の手には、さきほど放った『ファイアーボール』の、感触が残っている。

 当たり前だが、ここに来る前は、魔術は使えなかった。

 ヨシ子は、二杯目のコーヒーを飲み干し、何度目かのため息をついた。

 まだ、黒集団の混乱は続いていて、『元の世界に返して』とは、とてもではないが、言える空気ではない。

 だからといって、ヨシ子はここに長居する気はない。

 早く家に帰って、もつ鍋を食べたいのだから。

 さて、どうするか? と、考えながら、三本目のあんこ団子を食べていると、事態は急変した。

 ヨシ子が座っていた場所――床に描かれた金色の魔方陣が、急に銀色に光りだしたのだ。

 黒集団の混乱は、焦りに変わった。

「まずい! あの邪悪な者どもに気づかれた!」

「早く! 早くその場から離れるんだ!」

 ヨシ子に叫ぶ黒集団。

 だがしかし、何が起こっているのかわけもわからずにいるヨシ子が、条件反射で動けるはずもなく。

 銀色の光を放つ魔方陣の上のヨシ子は、一際強くなった光に包まれ、ちゃぶ台ともども、黒集団の前から消えてしまった。


「くっそう!」

「もう終わりだー!!」


 この言葉を、最後に。



 そして、




  (第一話:終わり)





黒月:頭痛に微熱に鼻水&鼻づまり、おまけにせきとくしゃみがひどひ……つまり、風邪をひきました。はい。

夏湖:それじゃあ、注射でもいっぱつ!

黒月:うおっ、夏湖さん、お久しぶりです!? 注射はお断りですけど!

夏湖:え~、なんで? こっちはプロなんだから、任せてくれて良いのに。

黒月:確かに、夏湖さんはプロですけど、いろいろ問題が……って、それより、夏湖さん、あとがき初登場なんですから、自己紹介しないと、読んでくれてる人が混乱しちゃいますよ?

夏湖:あ~、そうね。じゃあ……、はじめまして! 夏湖です! 黒月真名ちゃんのお友達です! 職業は看護師です!

黒月:いろいろ問題があるんですけどね~

夏湖:問題? 看護師は、私の天職よ?

黒月:うん。注射ができれば、ですけどね。

夏湖:ぎくっ!

黒月:知ってるんですからねぇ、夏湖さんの裏事情。

看護師さんの実習の時、採血でめちゃくちゃ緊張して、患者さんの前で、血走った目でがたがたぶるぶる震えつつ注射器を持って、一緒にいたベテラン看護師さんに一言。『さ……採血って、どこに刺すんでしたっけ!?』

夏湖:そんなこと言われてもさー、誰だって苦手な物の、一つや二つあるでしょー?

黒月:でもねぇ、夏湖さんのは致命的すぎですよ。看護師さんで『先端恐怖症』は。

夏湖:あはははは……、やっぱり?

黒月:……はい。例の、採血の時の患者さんだって。

夏湖:目を閉じて、えいやっと刺そうとしたら、全力で走って逃げられた…………あ、でも、その患者さん、全治一ヶ月くらいだったんだけど、採血から一週間後くらいに、無事に退院したし!

黒月:はやっ! よっぽどの恐怖だったのか、う~ん……結果オーライ?

夏湖:そーゆーこと! だから真名ちゃん、私を信じて!

黒月:あの~、その手に持ってるのは?

夏湖:大丈夫! 今度こそ上手くいくはず!

黒月:やっぱり注射器!?

って、夏湖さん、目が血走って……怖い怖い!!

いや、そうじゃなくって、一体何しに来たんですか!? まさか、注射の練習をしに来たわけじゃないでしょう?

夏湖:……うん。それもあるんだけど。

黒月:あるんですか。

夏湖:実は、ちょっと職場での人間関係で悩んでて……話だけでも聞いてもらえないかな、って…………

黒月:夏湖さん……そんな真剣な顔をするなんて、よっぽどなんですね?

夏湖:…………うん。

黒月:わかりました。話を聞くくらいなら。

夏湖:真名ちゃん! ありがとう……!

黒月:じゃあ、どうぞ。

夏湖:今、私が勤めている病棟に、少し認知症の気がある患者さんがいるの。その患者さんは、朝晩問わずナースコールを連射してて、同僚のみんなは、げっそりげっふり。

黒月:ふむふむ。

夏湖:で、私が夜勤の日、その患者さんは、夜中にまたナースコールを連射して……他の夜勤の同僚から、『お願い! 行ってきて!』って、頼まれて……

黒月:さっすが、頼りにされてますね~

夏湖:行ってみると、その患者さんは、キッ! と私をにらんで一言。『あんた、あたしを年寄りだと思って馬鹿にしてるでしょ!』

黒月:うっわ、なんて返事に困る発言。

夏湖:……うん。でも私、『この患者さんは、私達に、こんなに本音でぶつかってきてるんだ。だったら、こっちもごまかしたりしないで、きちんと本音を言うべきじゃないか』って思ったの。

黒月:……………………

夏湖:だから私、その患者さんに言ったの。『年寄りだとは思ってるけど、馬鹿にはしてません!』って。

黒月:ちょっと待てい。

夏湖:そしたら、その患者さん、わんわん泣いちゃって…………『馬鹿にされたー!』なんて叫んで。

黒月:当たり前ですー!

夏湖:と、いうわけで、職場で『破壊看護師』なんてあだ名がついちゃったの……真名ちゃん、私は一体どうすれば?

黒月:いや、あの、ツッコミどころが多すぎて、なんだか熱が……

夏湖:あらあら大変。じゃあ、注射をいっぱつ。

黒月:それはもういいですから! って、せめて目を開けて言ってください!

夏湖:多分大丈夫、きっと大丈夫……

黒月:……命が惜しいので、夏湖さんが目を閉じているうちに、かかりつけの病院に行ってきます。それではみなさま、失礼します。


夏湖:……きっと大丈夫なはず…………大丈夫だと良いなぁ……


そして、夏湖の悩みは続くのであった。


(あとがきと言う名の和平会談:終わって良いのかなぁ)


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