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その1

その1を単体で登録してしまいました。

改めて「連載」で再登録しました。すみません!

全4話です。よろしくお願いします。 船木

「○○ったらさ、2時のゼミを直前になって2時半にするって、なんなのあれ」

「よくあるよ○○、30分位、なんとも思ってないみたい。前もあったし――」

「マジむかつく。30分あったら、他に時間つかうっての――なにあのキャラ」


 一泊二日の東京出張、私はいつもの速さで歩いていた。その横へ2人、狭い歩道を靴音も高らかに歩きながら、あっという間に追いぬいて行った。その彼女達が放つ言葉は、明らかに東京のそれであり、また風に乗って漂う香りは若さに満ちあれていた。


(あのキャラって……、先生か友達か?)

 そんなことを考えつつ、気づけば二人の後を追っていた。


 2人はタイトスカートにハイヒール、そして色違いのコートを羽織って、バックを除けばその道の女性にも見える。


 彼女達が憤っている相手が先生であれ誰であれ、要は年寄りに対する文句であろう。だが年寄も、別に好きこんでキャラを変えた訳じゃない……と、なぜかむきになっていた。


 小春日和の下、風に靡く彼女らの髪が、無機質なビルの中でキラキラと光っている。


(ああ……この若さ、何事も怖れを知らない……)

 そこまで思って、私は思い直した。

 歩みを緩めて、もう彼女らの後を追うのを止めた。


 私は山の手線をお茶の水で降り、やたらギターの店が並ぶ通りを歩いていた。もう昼時だった。朝一の便で神戸から羽田へ飛び、品川で1社訪ね、午後のアポに移動中だった。


(ああ……、もうこれまでに何度、上京したことだろう)


 目的地には早めに着かねばならない、という営業の鉄則に固執しながら、見慣れた出張先の風景に、ふと過ぎ去った日々を思いだしていた。私は64歳。30歳の時に、中途で入った会社も満60歳で定年となり、それから4年、嘱託の職も年明けて誕生日にはお役御免となる。今度の東京出張は、営業人生最後となる年末の挨拶周りだった。


 いつものことだが、都会の人は早く歩く。これほど時間を気にする人種は、世界広しといえども、恐らく東京だけではないか。電車も人も物も、全てが秒単位で動く。こんな街は他にない。高層ビルの谷間に広がる青空を仰ぎ、ふと私はそんなことを思った。


 最初に上京したのは二十歳の夏。東京の大学へ通う友人を頼り、1週間東京に滞在した。私は工学系だったが、いざ就職となると難しかった。なにしろ昭和48年のオイルショックで世情は混沌とし、地方の私立大学では就職もままならなかったのである。


(つづく)


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