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あの……近くない?

「あの~……シャンランくん? 近くない?」


 僕は恐る恐る彼の顔を覗き見た。関わらないように、と言ったばかりなのに、こんなに近づいてくるなんて意味がわからない。それに、僕のことを気持ち悪いと言っていた癖に、袖をつまんでくるのは何故?

 シャンランははっとした様子で顔をあげた。

「あっ、わ、悪い。何でもない」

 そうして僕から慌てて離れるのだが、その仕草に僕はぎょっとした。

 女の子そのものなのだ。


 今、シャンランはリンリンの変装をしている。頭には団子型のエクステをつけて、女子の制服を着ているだけでも、これだけでリンリンそっくりになっている。やはり双子だから元から非常に似ているのだ。


 ……いや、双子だから。

 そんなレベルを超越している。


 だって、シャンランは男の子だ!


 なのにどうして、こんなにも女の子っぽいんだ。

 スカートの下からすらりと伸びる長い脚は真っ白で、はっきりいってエロイ。脛のあたりまで伸びた靴下は、あまりにもフェチズム(意味不明)。

 シャンランは恥じらった様子で俯いている。そんな様子もまた艶めかしく、僕は思わずごくりと喉を鳴らした。

 変な扉が開いてしまいそう……。


「いや、大丈夫! 教室に戻ろう!」


 妙な空気を無理やり吹き飛ばして、僕はシャンランを置いて、さっさとその場を立ち去った。

 その胸の内には、嫌な予感がぐるぐると渦巻いている。

 なんか、変だ。

 何か、妙なことが起こっている。


 ――果たしてその嫌な予感は正しかった。


 ☆


 次の授業時間。

 最初のうちは大人しくできていた僕だったが、薬の効果はやはり突然あらわれた。

「ああ……」

 僕がふいに発した色っぽいため息に、隣の席の岡村くんがぎょっとした顔を向けた。そしてがたがたと震えだす。彼を襲う恐怖は筆舌に尽くしがたい。当然だこんな化け物のような変態が近くにいたら、誰だって怖い。


 僕は熱のこもった視線をシャンランの後姿に向けた。

 そして授業中であるにも関わず、恥ずかしげもなく口を開く。


「ああシャンラン……なんて可愛いんだ」

 と、ここで僕は薬の効果が出ていながらも、自分の発言に内心ぎょっとした。

 僕は薬のせいで、シャンランをリンリンと思い込んでいたはずだった。

 それが今、シャンランをシャンランとして、認識している。

 これは予想できていたことだった。

 僕が薬を飲み込んだあのとき、直前までリンリンの顔を見ていたのが、急にシャンランの顔を間近に目撃した。

 だから薬の効果が中途半端なものになり、シャンランをリンリンと思い込んだのだ。

 だが今後、薬の効果は正しく修正されて、もっとはっきりとした効果があらわれるだろう、とリンリンは話していた。

 つまり今の僕は……シャンランを愛している、本物の化け物に進化したということだ。

 今後もっと、薬の効果が強くなるのだとしたら……本当にまずいことになる。


 僕の異常なセリフが、授業中のしんと静まった教室に不気味にこだまする。


「あ~……シャンラン! ほんっとに可愛いよぉ。お願いだから口の中にコーヒーゼリーと牛乳をため込んでくれよぉ。僕はそこにストローを差し入れて全部飲み干すからさぁ。ドロリッチだよぉ。懐かしいねぇ」


 教室のみんなは、先生も含めて僕の奇行を完全に無視している。恐怖のせいだ。みんなは僕があまりの孤独のせいで、完全に気がくるってしまったと思っている。狂人には近づかないのが身のためだ。


 地獄のような時間が過ぎて、ようやくその日、全ての授業が終わった。


 放課後。


 僕は、逃げるようにして教室を出た。教室の空気に耐えられなかった。クラスのみんなは、あからさまに僕の悪口を言ったりはしない。僕を完全なる空気のように扱って、ただ僕がいなくなるのを待っている。

 こんな化け物は一刻も早くこの場から去らなければいけない。

 僕は頬に涙を伝いながら、学生鞄を抱えて廊下を駆けた。


 人気のない校舎。

 夕焼けが窓からさしている。


 走る僕の手を、急に誰かが掴んだ。

「うおっ!」

 僕の体はがくんと止まる。びっくりして振り返ると、シャンランが立っていた。

 また彼は俯いて、僕の目を見ようとしない。なのにはっきりと意思を持って、そこに仁王立ちしている。

「どうしたんだよシャンラン。あれほど関わらないようにしよって言ってるのに。あ、さてはさっきの授業でのことをまた怒ってるんだろう。申し訳ないと思うけどさ、僕は自分自身をコントロールできないんだって」

「いや、そうじゃなくてさ……」

 そうしてシャンランは顔をあげて僕の目を見た。僕は思わず、うっと彼の容姿端麗な美貌に見惚れた。やはりこの姉弟、そろいもそろってすごい美形だ。男が相手でも、これほど綺麗な顔は美しいと思ってしまう。


 シャンランのまとう妙な雰囲気に、僕は気圧された。


「な、なんだい」

「本当に、ごめん。あのさ、俺、お前のこと好きになっちゃったんだ」

「……ん? 鋤? おかしいなその農具は中学生の社会の範囲で今の僕たちには無関係なはずだけど……」

「違う! だから、俺はお前のことが好きになっちゃったんだ!」


 シャンランの怒鳴り声が、人気のない校舎に響いた。

 僕は何も言えず、呆然と立ち尽くす。

 シャンランは僕から顔を背けると、小さく言った。


「ごめん……好きだ」

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