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二人の学校生活

 そして、冒頭のシーンに戻るのである。


 ☆


「授業中に気色悪い視線を向けてくるんじゃねーよこの馬鹿!」

 シャンランは烈火のごとく怒っている。ここは校舎裏。授業が終わるなり、僕はシャンランに強引に引っ張られてここまで連行された。

 僕は今、薬の効果が薄まって正気を取り戻している。僕は猛然とシャンランに反論した。

「それができたらやってるわい! 僕だって好きで変態になってるわけじゃない。隣の席の岡村くんが僕を汚物を見るような目で見るようになったんだぞ!」

「そんなの知るかー! 俺の精神的負担に比べたらそんなもん屁でもないだろこの変態め!」

「僕は変態じゃなーい!」


 僕たちはお互いににらみ合った。数秒間そうしたのち、「ふん!」と鼻を鳴らして顔を背ける。


 僕たちの学校生活は完璧なまでにうまくいってなかった。


 リンリンはあの後すぐに、本当に中国の奥地へ旅立ってしまった。

 僕たちを置いていく彼女は、僕とシャンランにこのように厳命した。


 ――二人とも絶対に学校に通い続けること。

「高校を卒業すること大事ね。シャンランは私に変装して学校に通って。平八郎は、将来私の旦那様になるのだからしっかりした学歴は持っててほしいね。わかた?」


 リンリンは笑顔ではあったものの、ものすごいオーラを放っていた。

 もしも拒否なんかしたら、ただじゃすまない。そういう殺気が見て取れて、僕とシャンランは子猫のように頷くしかなかった。

 だから僕とシャンランは、何が何でも学校生活を平穏に過ごさなければいけないのだけれど……。


「あとお前、あれだけは言うな」

 真っ赤な顔のシャンランが僕に凄む。僕も売り言葉に買い言葉でついけんか腰に返してしまう。

「あれってなんだよ。はっきり言われなきゃわからないね」

「だ、だから、かっ、かわ」

「え? 川?」

「――だから!」

 シャンランは涙目になって、思い切り僕をビンタした。

「俺に可愛いって言うなこの馬鹿ぁ!」

「へぐっ!」


 僕は強烈なビンタに思わず膝をつく。強烈な痛みだ。さすがシャンランも姉と同様、中国拳法に精通しているだけある。

 頬を押さえながら訊く。


「僕、そんなこと言ったっけ?」


 ちょっと記憶を探って、すぐ思い至る。……うん、言ってるわ。

 それは授業が始まる前のこと。そのときも僕は薬の効果があらわれて、シャンランに気持ち悪く絡んでいたのだ。

 確かにそのとき、僕はシャンランに可愛いと言った。確か「なんて可愛い耳たぶなんだろう……醤油をつけてお箸でつまんで食べてもいいかい?」とかなんとか。馬鹿か。


「言ってるだろーがめっちゃ気持ち悪く!」

「そ、そんな……薬の効果が出てるときは無意識状態だから、発言のコントロールなんかできないよ」

 薬の効果が出ているとき、悲しいかな僕はモンスターのような変態になってしまう。その効果が出現する瞬間は全く予測できず、一たび効果が現れ始めたら、たとえビンタを百発受けたところで正気には戻らない。

 だから薬の効果が出てしまったら、ただ時間が過ぎるのを待つしか対策がないのだった。

 発言をコントロールするなど不可能に近い。


 そんな僕の言い訳をシャンランは意に介さない。


「いいから死ぬ気で言わないようにしろ! 命令だからな!」

 未だに顔を真っ赤にしてシャンランはいきり立っている。ここで僕はふと疑問に思う。

「でも僕は、可愛い以上の過激な言葉をもっと言っているはずだけど……どうして可愛いだけ駄目なのさ」

 僕の質問にシャンランは赤い顔のまま俯いて、押し黙ってしまった。薬の効果が現れているとき、僕は自分をコントロールすることはできないが、記憶は鮮明に残っている。だから、シャンランに対して言った変態語録はあれこれよく覚えている。

 最近で強烈だったセリフは「僕の耳の穴にストローを指して僕の小脳を吸い出してくれないかい? そしてそのちっちゃな出来損ないのプリンを口移しで僕に食べさせてほしい」だ。ありえないだろ。


 しばらく待ったがシャンランはやはり何も答えなかった。

 僕はため息をついて立ち上がる。

「とにかく、お互いに関わらないよう、距離を置くしかできる対策はないよ」

「……そんなこと言ったって、同じクラスなんだぜ」

「だからさ、クラスを変えることはできないよ。個人の都合で学校がそんな特例を許したりしない。僕たちは、できるだけ関わらないようにするしかないんだって」


 そろそろ次の授業が始まってしまう。

 僕は踵を返した。


「じゃあ、そういうわけで。君もタイミングをずらしてあとから教室に戻ってきなよ」

 ただでさえ最近、クラスの皆から妙な目で見られているのだ。

 僕は歩きながら次の授業の予習を思い返そうとする。

 思い返そうとするが、できなかった。

 僕の思考が止まった。

 何故ならシャンランが、僕のそばに寄り添うように、ぴったりくっついて一緒に歩き出していたからだ。

 肩が触れるほどの距離。

 僕は呆れて立ち止まった。


「あのーシャンランくん? さっきの僕の話理解できたかな? 関わらないようにしようねって言ったんだけど」

 シャンランは赤いままの顔で怒鳴る。

「理解してるに決まってるだろ馬鹿! いいからさっさと歩けよ馬鹿!」

 僕の顔も見ず、俯いたままそう罵倒を繰り返す。様子のおかしいやつめ!

「ふん、言われなくともそうするよ。全く……馬鹿馬鹿言わないでほしいもんだね」

 歩き出そうとして、僕はまた立ち止まる。

 シャンランは今度は、僕の袖をつまんできた。

 まるで手を握りたいの……とおねだりしてるかのように。

 平八郎はいよいよ混乱した。

 一体、何が起こってる?

お読みいただき誠にありがとうございます!


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