表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/21

ビューティー何者?

「あ、遊ぶって……」


 僕は、ビューティーの意図がわからずたじろいでしまう。

 そんな僕の様子を楽しむかのように、ビューティーはますます余裕だ。


「そうだね具体的には、明日は丁度休日だ。駅前に集まってデートでもしようじゃないか」

「で、デート?」


 耳慣れない単語に僕はびっくりする。デートといえばそれこそ恋人同士の嗜む高等男女交際じゃないか。そんなものを何故、彼女のような美人が、僕と?


 一体全体、ビューティーが何を考えているのかわからない。

 僕は毅然とした態度をとった。


「一体何を考えてるんだい? 僕は今日、君と知り合ったばかりだし、そんなつもりはないよ」


 いきなり僕をデートに誘うなんて、ビューティーの行動は明らかに変だ。何かを企んでいてもおかしくはない。だから、ほいほいと彼女に流されては駄目だ。


「ふふふ……」ビューティーは絹のような長い黒髪をさらりと肩の上で流した。「さっき、わたくしが言った言葉を忘れたのかい? わたくしは君の子供のころを知っているよ。だから全く持って、初対面ではない。でもそうだね、軽く自己紹介でもしてあげようか」


 ビューティーの怪しい瞳が、夜闇の中できらりと光りを反射する。


「わたくしは幼いころからスーパーモデルの両親の元で生まれ育った。世界中をまたにかけて活躍する彼らにくっついて、子供のころから随分、色んな国を行き来したよ。その中でも日本には一番長く、暮らしていた。そのとき、君とリンリンに出会ったのさ……」


 要領を得ないビューティーの態度に、僕は得体のしれないものを感じる。

 このまま彼女の話を聞いていてはいけない、そんな気がした。


「ふん、大した経歴だね。自慢をしたいだけなら、よそでしてくれ。僕は忙しいんだ、そろそろ行くよ」


 踵を返した僕の手を、ビューティーは強い力で掴んだ。

 びっくりして振り返る。

 月明かりに照らされて、息をのむほど美しい彼女と目が合った。

 そして僕は、彼女が頬を赤らめていることに気づく。

 紅潮した顔で、しっとりと僕を見つめている。


「くくく……。堪らないね、その態度。わたくしは、わたくしよりも明らかに下等な人間に、そうやって邪険に扱われると……何故か酷く興奮してしまうんだよ」

「て、手を離せよ……」

「約束してくれなければ離さない。明日、午前十時に、駅前で待ち合わせだ」


 僕の手首をつかむビューティーの握力が、強まった。とても、女の子の出せるような力ではない。僕はぞっとしてしまって、つい首を縦にふった。


「わかった、わかったから。行くって!」


 そう叫んだ途端、ぱっと手は離れた。

 僕は手首をさすりながらビューティーを睨んだ。僕の手首を痛めた張本人は、悪びれもせず飄々としている。トラウマが発動して僕は口の中で一口、ゲロを吐いて飲み込む。もう慣れたものだ。


「約束したね。それではまた明日」

「…………」


 僕は返事もせず、その場から立ち去った。いくらなんでも、彼女のやってることはおかしすぎる。失礼を通り越して、異常だ。

 それにしても……僕は早歩きで進みながら、ため息をついた。

 見下している相手にけなされると、興奮してしまうだって? また、変な癖を持ったやつに目をつけられたものだ。

 どうしてビューティーは突然、僕に興味を抱いたのか。その理由はわからないけど、無視を決め込むのも難しい相手なのは間違いない。


「それにしても、デートなんて」


 普通なら、あれほどの美人に誘われたなら手放しで喜ぶところだが……御多分に漏れず僕はそんな気分じゃなかった。

 ビューティーが変な奴だっていうのもあるが、それだけじゃない。

 シャンランのことだ。

 僕はシャンランが好きだ。だからこれからは、シャンランとどんどん距離を縮めていきたいと思っている。

 それなのに、他の女の子と遊ぶなんて、おかしいじゃないか。

 そこまで考えて、思い至る。ぽそりと、僕は独り言をつぶやいた。


「リンリンに、謝らなきゃな」


 リンリンは泣いていた。それがどんな感情であるにせよ、僕のせいで彼女は涙を流した。

 なら謝りたい。

 だけど……。


 シャンランのことが好きな僕が、リンリンに謝るって、ものすごく変なことじゃないだろうか?


 僕はもう、リンリンの気持ちに応えるつもりはない。それははっきりしている。

 だったら、リンリンに謝ったりすると、また彼女に期待を持たせてしまうんじゃなかろうか。

 それは残酷なことだ。

 だけど、このままリンリンをほっとくわけにはいかない……。

 いやでも、そんな風に思うってことは、僕はリンリンにちょっと気があるってことなんだろうか……。


「あーもう! わけがわからん」


 僕は頭をぐちゃぐちゃかいた。ちょっと前までは、こんなことで自分が悩むなんて考えもしなかった。

 贅沢な話だ、と自嘲する。

 これ以上考えたって、答えはでない。とにかく僕は、このままリンリンをほっとくことはできない、と結論付けた。

 学校で会ったとき、どう声をかけたらいいか、ちゃんと考えておかないと。


 とにかく明日、僕はビューティーとの約束を守るつもりなんか、毛ほどもなかった。

 ビューティーは僕の連絡先も家の場所もしらないのだから、家にこもっていたらそれで済む話だ。

 明日は久々に、チェックできていなかったアニメを、朝から晩まで視聴しまくるぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ