ビューティー何者?
「あ、遊ぶって……」
僕は、ビューティーの意図がわからずたじろいでしまう。
そんな僕の様子を楽しむかのように、ビューティーはますます余裕だ。
「そうだね具体的には、明日は丁度休日だ。駅前に集まってデートでもしようじゃないか」
「で、デート?」
耳慣れない単語に僕はびっくりする。デートといえばそれこそ恋人同士の嗜む高等男女交際じゃないか。そんなものを何故、彼女のような美人が、僕と?
一体全体、ビューティーが何を考えているのかわからない。
僕は毅然とした態度をとった。
「一体何を考えてるんだい? 僕は今日、君と知り合ったばかりだし、そんなつもりはないよ」
いきなり僕をデートに誘うなんて、ビューティーの行動は明らかに変だ。何かを企んでいてもおかしくはない。だから、ほいほいと彼女に流されては駄目だ。
「ふふふ……」ビューティーは絹のような長い黒髪をさらりと肩の上で流した。「さっき、わたくしが言った言葉を忘れたのかい? わたくしは君の子供のころを知っているよ。だから全く持って、初対面ではない。でもそうだね、軽く自己紹介でもしてあげようか」
ビューティーの怪しい瞳が、夜闇の中できらりと光りを反射する。
「わたくしは幼いころからスーパーモデルの両親の元で生まれ育った。世界中をまたにかけて活躍する彼らにくっついて、子供のころから随分、色んな国を行き来したよ。その中でも日本には一番長く、暮らしていた。そのとき、君とリンリンに出会ったのさ……」
要領を得ないビューティーの態度に、僕は得体のしれないものを感じる。
このまま彼女の話を聞いていてはいけない、そんな気がした。
「ふん、大した経歴だね。自慢をしたいだけなら、よそでしてくれ。僕は忙しいんだ、そろそろ行くよ」
踵を返した僕の手を、ビューティーは強い力で掴んだ。
びっくりして振り返る。
月明かりに照らされて、息をのむほど美しい彼女と目が合った。
そして僕は、彼女が頬を赤らめていることに気づく。
紅潮した顔で、しっとりと僕を見つめている。
「くくく……。堪らないね、その態度。わたくしは、わたくしよりも明らかに下等な人間に、そうやって邪険に扱われると……何故か酷く興奮してしまうんだよ」
「て、手を離せよ……」
「約束してくれなければ離さない。明日、午前十時に、駅前で待ち合わせだ」
僕の手首をつかむビューティーの握力が、強まった。とても、女の子の出せるような力ではない。僕はぞっとしてしまって、つい首を縦にふった。
「わかった、わかったから。行くって!」
そう叫んだ途端、ぱっと手は離れた。
僕は手首をさすりながらビューティーを睨んだ。僕の手首を痛めた張本人は、悪びれもせず飄々としている。トラウマが発動して僕は口の中で一口、ゲロを吐いて飲み込む。もう慣れたものだ。
「約束したね。それではまた明日」
「…………」
僕は返事もせず、その場から立ち去った。いくらなんでも、彼女のやってることはおかしすぎる。失礼を通り越して、異常だ。
それにしても……僕は早歩きで進みながら、ため息をついた。
見下している相手にけなされると、興奮してしまうだって? また、変な癖を持ったやつに目をつけられたものだ。
どうしてビューティーは突然、僕に興味を抱いたのか。その理由はわからないけど、無視を決め込むのも難しい相手なのは間違いない。
「それにしても、デートなんて」
普通なら、あれほどの美人に誘われたなら手放しで喜ぶところだが……御多分に漏れず僕はそんな気分じゃなかった。
ビューティーが変な奴だっていうのもあるが、それだけじゃない。
シャンランのことだ。
僕はシャンランが好きだ。だからこれからは、シャンランとどんどん距離を縮めていきたいと思っている。
それなのに、他の女の子と遊ぶなんて、おかしいじゃないか。
そこまで考えて、思い至る。ぽそりと、僕は独り言をつぶやいた。
「リンリンに、謝らなきゃな」
リンリンは泣いていた。それがどんな感情であるにせよ、僕のせいで彼女は涙を流した。
なら謝りたい。
だけど……。
シャンランのことが好きな僕が、リンリンに謝るって、ものすごく変なことじゃないだろうか?
僕はもう、リンリンの気持ちに応えるつもりはない。それははっきりしている。
だったら、リンリンに謝ったりすると、また彼女に期待を持たせてしまうんじゃなかろうか。
それは残酷なことだ。
だけど、このままリンリンをほっとくわけにはいかない……。
いやでも、そんな風に思うってことは、僕はリンリンにちょっと気があるってことなんだろうか……。
「あーもう! わけがわからん」
僕は頭をぐちゃぐちゃかいた。ちょっと前までは、こんなことで自分が悩むなんて考えもしなかった。
贅沢な話だ、と自嘲する。
これ以上考えたって、答えはでない。とにかく僕は、このままリンリンをほっとくことはできない、と結論付けた。
学校で会ったとき、どう声をかけたらいいか、ちゃんと考えておかないと。
とにかく明日、僕はビューティーとの約束を守るつもりなんか、毛ほどもなかった。
ビューティーは僕の連絡先も家の場所もしらないのだから、家にこもっていたらそれで済む話だ。
明日は久々に、チェックできていなかったアニメを、朝から晩まで視聴しまくるぞ!




