女ってわがまますぎるだろ
やきもち? シャンランが僕に?
全く予想外の言葉に僕ははて? と疑問符を浮かべてしまう。
確かに僕はシャンランに、君を口説く落として見せる!(要約)という宣言をしたものの、それに対して彼女の反応は冷ややかなものだった。はっきり言ってドン引きだ。
そのシャンランが僕にやきもちとはにわかに考えづらいし、まさか僕とリンリンがキスをしたことを気にしているとは思えない。
きょとんとする僕にビューティーは耳打ちを続けた。
「他人の気持ちに疎いんだね。全くこれだから人外の豚は。女ってやつはね、例え好きじゃない男に告白されても、その男が別の女とよろしくやってると殺意を抱く生き物なんだよ」
「えっそれじゃあ。シャンランは僕のことを好きでもなんでもないけど、告白された手前、リンリンとキスをした僕を許せないってことかい?」
「イグザクトリー」
「な、なんというわがまま……」
部屋の外からシャンランが怒鳴った。
「そこ! さっきからこそこそ話してんじゃねーさっさと逃げるぞ!」
僕とビューティーは揃って、やれやれと肩を竦めながらシャンランに続いて部屋を出た。
そこには長い廊下が広がっていた。とても民家とは思えない広さの廊下だ。まるで民宿のようだ。
どうやら僕が閉じ込められていた部屋は、最奥の突き当りの部屋だったらしい。感覚的に、出口から一番遠いような気がした。
廊下の奥は電気が消えて、冷たく暗い闇が広がっている。なんとなくぞくりとした。
今のところ、リンリンの気配はない。
「玄関はこっちだ。走るぞ!」
僕たちはシャンランに続いて駆け出した。
僕はシャンランに並走しつつ、何気なく話しかける。
「豪邸に住んでいるんだね。羨ましいよ」
しかし、シャンランは無視である。その横顔を覗き見ると、憮然とした表情でただ真っすぐ前を見て走っている。
どうもやきもちをやいているというのはあながち間違ってもないかもな、と僕は思った。
するとむくむくと、僕の中に、納得いかない気持ちが湧き出てくる。
シャンランは僕を拒絶する癖に、僕がリンリンとくっつくのは嫌だと思っているのか。それが本当だとしたら、なんて自分勝手な考えだ!
そもそも僕はリンリンに誘拐されて、無理やり唇を奪われたのだ! 立派な被害者なのに、こんないやな態度をとられるいわれはない!
と、そのとき。
僕たちの前にリンリンが立ちふさがっていた。
僕たちは慌てて立ち止まった! シャンランが小さく舌打ちをする。
「くそっ。遅かったか」
あの凍てついたような笑顔と、身長一六二センチの僕を見上げる小柄な肉体。
しかしそれが頑強な壁のようになって、僕たちの目の前にある!
「シャンラン、どういうつもり? どうして平八郎を連れて逃げるね。あなたは平八郎のことどうでもいいんでしょう? ならお姉ちゃんの邪魔をしないでほしいね」
「俺は姉さんが犯罪行為をするのを黙って見てられないんだよ。こんなやつ、どうなったっていいけど、身内から犯罪者を出すのはごめんだね」
「犯罪になんかならないよ。だって私たち、愛し合っているからね。ねー平八郎♡」
リンリンが僕に向かってとびっきりの笑顔を向けた。心なしか機嫌がよいのは、先ほどの口づけのおかげか。
シャンランが横目でじろりと僕を睨む。余計なこと言うんじゃねーぞ、と言いたげな視線だ。
その瞬間、僕の心の隙間に、ちょっとした意地の悪さがあらわれた。
僕は僕ができる最大限のイケボで言った。
「ああ……その通りだよリンリン。早く部屋に戻って、さっきの続きをしようか」
「きゃー!♡」
リンリンは自分の体を抱きしめてよがった。
「しよしよしよしよ♡ 早く一緒に部屋に戻るね♡ シャンランなんかほっとくあるよ♡」
うーむ。自分で言ったことだが食いつきが良すぎてちょっと怖くなる。
しかしこれでどうだ! と僕は思った。
シャンランの奴、僕にきもいだのなんだの好き勝手言いやがって。僕とリンリンが仲良くするのが気に食わないなら、わざともっと仲良くなってやろうじゃないか。
あーせいせいした。胸のすく思いで、となりのシャンランにちら、と僕は視線を移した。
瞬間、僕はこれほど自分の発言を後悔したことはない。
シャンランは般若のような顔で僕を睨んでいた。
その背中には地獄の業火を背負っているようにさえ見える。
「お前……せっかく人が助けようとしてやってるのに、その態度はなんだ?」
「うん、ごめんね? 今の発言は僕の意思じゃないんだ。またリンリンに妙な薬を盛られてししまって催眠状態にあるらしい。いてて! 副作用のせいか頭痛が! 助けてくれシャンラン! 早くここから逃げ出そう!」
「挙句の果てに、人のせいかよ! 最低だな、このっ――!」
シャンランは大きく手を振りかぶった。殴られる! 僕は咄嗟に頭を抱えて身を屈めた。激痛を覚悟して、ぎゅっと目を閉じる。
しかし、恐怖の一撃はやってこない。あれ? おかしいな。
目を開けようとした、そのとき。
ちゅっ。
唇に妙な感覚がして、僕は驚いて飛び上がった。
目を開ける。目の前で、シャンランが自分の唇を一生懸命、服の袖でごしごし拭いていた。
「あーきもちわる……でも、これでせいせいした」
まさかシャンラン。
君も僕の唇を奪ったのか?
「あーあ。やっちゃったね」
リンリンの冷たい声。
僕たちは咄嗟に彼女の方へ視線を向ける。
リンリンは笑顔でこそあったが、彼女の背中にも、閻魔大王のごとし恐怖の業火が大きく伸びあがっているのが見えた。
「二人とも殺すしかなくなった」




