聞け、シャンラン。僕は君を救いたい!
「仲直りもなにも、俺は最初から気にしてないから」
どこからつまらなそうに言うシャンラン。もう帰りたいのかもしれない。
僕は少し考えてしまった。
仲直りできたかどうか? そんなことは問題じゃない。
僕はどうしても、シャンランをこのままほっとけないと思った。
彼女の、可愛いと言われるだけで誰でも好きになってしまう悪癖。これを放置することは、倒れている人を無視して通り過ぎるのと気分的には同じだ。
「シャンラン、君の妙な癖を直すにはどうすればいいんだい?」
突然の僕の質問に、シャンランは少しびっくりして答えた。
「さあ、考えたこともない。でも例えば……いや、いいや」
「なんだよ? 言ってくれ」
「いやいいお前には関係ないから」
「言わないとまたズボンを脱ぐよ?」
「きんも! はあ……本当にやりかねないなこいつは。わかんないけどさ例えば、誰かを本気で好きになったら、誰に何を言われても、どうでもよくなるんじゃないかな」
「ふむ、なるほど。じゃあ今日から僕は、シャンランに本気で好きになってもらうよう頑張るよ」
「……は?」
僕は立ち上がって、シャンランと向き合った。
「僕は君を本気で助けたいんだ」
本心だった。僕がシャンランを好きなのかは、まだはっきりとはわからない。
でも、このままじゃいられない。それは本当だ。
ならやるべきことは決まっている。
シャンランは取り乱した様子で僕から距離をとった。
「いや……いやいやいやいや。ごめんな? 俺があんなことを言ったから、勘違いさせちゃったんだよな? でも言っただろ? 俺はお前と付き合いたいとか考えてないって」
「うむそこらへんのシャンランの乙女心は全て理解している。理解した上で、僕は君を助けたい」
「いや……え? まじ? うわこれやばいって。どうしよう?笑」
シャンランは半笑いでリンリンに助けを求めるように視線を投げた。リンリンは張り付いた笑顔のまま、何も言わない。
僕は遮ってその間に入り、リンリンに断固として告げた。
「そういうことだからリンリン、僕は君の気持には応えられない。本当にすまない。まさかこの僕が、女の子をふることになるだなんて考えもしなかったよ……」
その場には凍り付いたかのような沈黙が流れた。
シャンランは苦笑いのままだし、リンリンは凍り付いた笑顔のまま無言。ビューティーは、付き合っていられない、とでも言いたげに肩を竦めて「それじゃあ」と立ち去ってしまった。
そして、あまりにも気まずい沈黙が続く。
わかってるさ。
いくらなんでも僕だって、自分がおかしなことを言ってるのは、よくわかってる。
シャンランは明らかに僕の助けを必要としていない。僕は、お世辞にも女性に好かれるタイプじゃない。
なにしろ彼女いない歴イコール年齢のひょろがりくんだ。こんな僕に突然、「お前を口説き落として見せる」と宣言されたのだ。シャンランのできることと言えば苦笑いしかないだろう。
そしてこんな僕を奇跡的に好きになってくれたリンリンをふってしまおうというのだ。
正気の沙汰じゃない。
自分のあまりに異常なムーブに、ぞくぞくしてきた。
沈黙を破ったのはリンリンだった。
「あっちゃ~……教育失敗ね」
リンリンは笑顔を張り付けたまま、冷たくそう言い放った。
いうに事欠いて、教育失敗、とはね……。
僕はまず、深くため息をついてから、諭すようにリンリンの肩に手を置いた。
「リンリン、君のその考えは間違っているよ。そもそも僕は、君に性格を矯正される筋合いなんてないんだ。だってそうだろう? 僕たちは夫婦でもなんでもない。それはリンリンが勝手に言っていることだ。そもそも日本の法律で婚姻とは……」
「ほあっ!」
ぐきっ。
リンリンは独特の掛け声とともに掌底を繰り出し、僕の顎を真正面から打ち抜いた。
僕の体はその一撃で、糸の切れた人形のようにくずおれる。
しかし、意識はしっかりとあった。
「あ、あれ。なんだこれ。体が動かない」
「これは中国に伝わる秘術。相手の体の自由を奪うね」
言うなりリンリンは、地面に倒れた僕の体を、かるがると持ち上げて、肩の上で担いだ。
シャンランが慌てたようにそれを制止する。
「駄目だ姉さん! いくらこんなやつでも殺しちゃまずい」
「殺したりしないよ平八郎は私の大切な旦那様だもの。どんなにこの人が歪んでいても、私は見捨てるつもりないよ」
「ちょ、ちょっと待ってこんなにくっついたら……おろろろ!」
リンリンと接触しているせいでトラウマが発動し、僕は嘔吐した。僕の口から飛び出た内容物が、地面に落ちてから跳ねて、リンリンの靴を汚す。
リンリンはそんなこと一切、気にした様子もなく歩き始めた。
「どうやらもっともっと、強引な手段にでなきゃいけないみたいね。今までの私、ちょと優しかったみたい」
「あの、リンリンさん。強引な手段って?」
恐る恐る尋ねる僕に、リンリンは僕の方を見ようともせず答える。
「私は平八郎の女性が苦手なトラウマ、克服させるため秘薬を作った。でも失敗した。しかも、シャンランのこと口説く言い出した。大失敗。ならやることは一つ」
「そ、それは」
リンリンの声は跳ねるように笑った。
「子づくりね! 私と平八郎の間に、子供つくるよ。これならトラウマもなにも関係ない。私たちは一生一緒にいることになる」
僕は次の瞬間、とてつもない恐怖に襲われて――気を失った。
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