ん~こういう女子もいいね
これ以上は冗談では済まされない。この男は本気で僕をいたぶるつもりだ。このままでは無事では済まされないだろう。僕は最早、早々に土下座をかまして許しをこいたかった。
でも、そんなことはできないのが辛いところ。
だってシャンランを見捨てることはできないのだ。
そのシャンランはなんかもう僕を見捨てて公園の外に出てしまって、遠巻きからこっちを見ているだけだけど。
まあいい。
でも、無謀な勝負をこのまま続けるつもりもない。
僕は男に向かって、にやりと笑って見せた。
「僕の特殊能力を教えてあげようか」
「なんだい?」
「僕は幼いころのトラウマのせいで、女子と接すると嘔吐してしまうんだよ。つまり……」
僕は次の瞬間、勢いよく地面に向かって嘔吐した。
もうそれはとんでもなく出た。学校で食べたお弁当が全部出た。
さすがの彼女も、驚きとびのく。僕は地面に四つん這いになりながらも、しかし勝機を見出していた。
「君、女の子だろう?」
「――っ」
僕は口元を拭いながら立ち上がり、見上げるほどの長身の彼女を鋭く睨んだ。
間違いない、彼女は男に変装しているだけの、女だ。
僕のトラウマセンサーがびんびんと反応している。
彼女は少し動揺した様子を見せたが、また再び、余裕の態度を取り戻す。
「へえ、驚いた。ばれないと思ったんだけど。さすがにわたくしは男のふりをするには、美人すぎたかな?」
言って、被っていたキャップを脱ぐ。途端、帽子の中にしまわれていた長髪がさらりと流れた。
漆黒の、絹のようなストレートヘア。切りそろえた前髪の下で、恐ろしいほど整った美貌が僕に不敵な笑みを向けている。
僕は肩を竦めた。
「君が何者で、何を目的としているのか、うっすらわかった。でも今は、勝負の続きをしよう」
「勝負? まだわたくしと喧嘩を続けるかい? 言っておくけど、正体がばれたからって、やることは変わらない。君という醜い豚を、圧倒的な力の差でいじめるだけさ」
「くく……君が女なら、やりようはあるってことさ」
僕は冷静に話をしているようでいて、実はものすごく、怒っていた。
それはもう、激怒している。
だっていきなり攻撃されて、頭を殴られたのだ(もしくは蹴られた? 速すぎて何をされたのかわからなかった)。
こんなのもう、暴虐だろう。
ありえないだろうこんなこと。
僕は絶対に、この女に勝ちたかった。
倫理や道徳など知ったことか。
「へえ? 何をするつも……」
余裕しゃくしゃくだった女の顔色が、さっと変わる。
それもそのはず。
僕はおもむろにズボンを脱いで、僕自身を露出させたのだ。
ちなみに女性にこんなところを見られるのは初めてである。
でも、だからなんだというのか?
そんなことどうでもいい。警察だ? さっさと来い馬鹿野郎。変態はここだ!
逮捕されたっていい。僕はこの女を絶対に倒す!
僕の目が本気であることを見つけたのだろう。彼女はそれまでの余裕の態度を引っ込めて、両手を降参のポーズにした。
「参ったよ。わたくしの負けだ。これ以上、この勝負は続けられない。だから早く、ズボンをあげて……って、おい! 何をしているんだぁー!」
僕は、靴に引っかかっていたズボンを、丁寧に外した。必要なら、靴さえ脱いで。
そして、また靴を履きなおす。片手にはズボンをぶらさげて。
これがどういう意味をさすのか、賢明な読者諸賢はお気づきだろう。そう、靴を履いている状態では、ズボンを履くのは難しい。つまり僕はもう、ズボンを履くつもりはないということだ。
僕はズボンを空高く放り投げた。
「おらぁー! かかってこい喧嘩の続きじゃぁあああ!」
「く、狂っている……」
「狂ってて上等。こないならこっちから行くぞ。うぉおおおおお!」
「やめろ! 近づくな……やん、いやぁああああん」
しかし! 僕の記憶はそこで途絶えた。
何故ならまたしても、突然乱入したリンリンに、首筋に手刀を受けて気絶させられたからである。
☆
目が覚めたとき、僕は地面に倒れて空を見上げていた。
すっかり夜の帳がおりている。放課後から随分、時間が経ったらしい。
体を起こす。ズボンは誰かに履かされたのか、僕の僕自身はしっかりと隠れている。少しほっとする。(そして少しばかりがっかり)
「目が覚めたね?」
リンリンの声。周囲を見渡すと、公園のベンチから立ち上がって、三人が僕に近づいてきていた。
「うん……普通は気を失っている人をベンチに寝かせておくんじゃないかな?」
リンリンは僕のそんな言葉を無視して、僕の目の前にしゃがみこんだ。
「ごめんね平八郎。私、平八郎の性格を矯正するために、わざとこの子をけしかけた。この子は私の拳法仲間なのよ」
リンリンの隣に立った長身の女が、僕にやあと手を挙げる。
「わたくしの名前は、ビューティー。よろしく。リンリンとは日本にいる頃の知己だ」
「あ? それって本名か?」
「いやあだ名だ。さっきはいきなり蹴りつけてすまなかったね。可愛いリンリンの頼み事は断れないのだよ」
後ろからシャンランが、あきれた様子で呟いた。
「それならそうと言ってくれたらよかったのに」
僕は少しずつ、状況が飲み込めてきた。
つまり、リンリンはビューティーに男装させて、わざとシャンランにナンパをさせたのだ。
そして僕の反応を窺っていたのだという。
僕はリンリンが、不自然に僕から離れたときのことを思い出した。なるほどあのヤンキーのような凄み方はそういうことだったのか。……いやどういうこと?
リンリンは僕に向かってにこりと微笑んでみせた。
「思った通り、平八郎はちゃんとシャンランのことを守ろうとしてくれた。さすが私の旦那ね。手段は最低最悪だけどね」
「いや旦那じゃないから……」
「危険を顧みずに、時には格上の相手にも挑まなきゃいけない。これ、男としてとても大事なこと。手段は最悪だたけど」
すると、シャンランが文句を言い始めた。
「そんなことなら俺を巻き込むなよ! 関係ないだろうが」
「関係あるよ。私と平八郎が結婚したらシャンランも大事な家族。平八郎は私の家族もみんな、等しく大事にしてくれるか? それを見たかった」
リンリンは一人だけ機嫌がよさそうだ。僕とシャンランの顔を交互に見る。
「どう? 二人とも仲直りできた?」
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